対談インタビュー
人をつなぐ〈架け橋〉として輝く。信頼関係を大切にする訪問診療の同行ナース
今回インタビューにお答えいただいたのは、消防士・救急救命士OBの松本さん。現役時代の経験を踏まえ、現在は一般向けの救命講習といった普及活動に尽力されています。そんな松本さんが抱いている、救命の仕事に対するまっすぐな想いや、現役の救命士・未来の救命士へ贈るメッセージなどをじっくり伺いました。
編集者
クラミー
松本さんの現在のお仕事内容を教えてください。
松本さん
消防士・救命救急士として元々働いていましたが、3年前に退職して、現在は指導する側の立場として、講習会で救命講習などの普及活動を行っています。AEDってご存知ですか?
編集者
りょうちゃん
はい、知っています!
松本さん
今は多くの施設でAEDが設置されるようになりましたが、それがあまり有効に使えていないようで。例えば、施設付近の住民が心停止してしまったら迅速に貸し出してもらえるような、そんな普及啓発にも力を入れています。他にも、どうしたら救急出動の要請を減らせるのかなど、救急予防の周知にも努めています。
編集者
クラミー
なるほど…!私は昨年車の免許を取ったのですが、教習のなかでも救命の講習がありました。AEDは確かにしっかり使い方を理解しておかないと、いざという時に使えないですもんね。
松本さん
はい、そうなんです。
編集者
りょうちゃん
元々松本さんは、なぜ救命のお仕事を選ぼうと思われたんですか?
松本さん
最初のキッカケは小学生の時ですね。消防訓練ってあるじゃないですか。はしご車が学校に来て、人を助ける模擬訓練ですね。子ども心に、「こんな風に人助けをする仕事ができたらいいな」と憧れを抱くようになりました。ただ、本当の所はまた別の理由で。
編集者
クラミー
と、言いますと?
松本さん
妻にプロポーズした時、実はまだアルバイトの身だったんですね。なので向こうの親御さんに「アルバイトの仕事をしている男に娘はやれない!」と言われてしまって。安定した仕事がいい、とも。安定といえば公務員…そうだ、自分は消防士に憧れていたんだとその時思い出して。そこから、消防の道へ進んでいった形ですね。
編集者
りょうちゃん
すごい…!愛の力ですね!
松本さん
いやいや、これに関してはもう…お義母さんに感謝ですね。あの時のやり取りがなかったら、消防や救命の世界には入っていなかったかもしれないので。
編集者
クラミー
実際に現場に立っていた時や、消防士になるまでもとても大変で苦労したことかと思うのですが、特に心に残っているエピソードはありますか?
松本さん
そうですね…、もう本当に数え切れないくらいあります。苦労も確かに多かったですが、この仕事をやっていて良かったなと感じた場面もたくさんありますね。
編集者
りょうちゃん
そうなんですね…!具体的なエピソードなどもしあれば、ぜひお聞きしたいです。
松本さん
やっぱり、心臓が止まってしまった方に処置をして、その結果回復して息を吹き替えした時などは、それまでの苦労を一瞬で忘れられますね。生死に関わることなので、それ相応のストレスもかかりはしますが、それでも命を救えた時の安堵は何にも替えられないです。それと、出産にも何回か立ち会ったことがあって、赤ちゃんを取り上げたこともあるんです。
編集者
クラミー
そうなんですか!?
松本さん
はい。やっぱり赤ちゃんの産声を聞いた時も、ただただ感動しましたね。
編集者
りょうちゃん
例えば看護師さんなど、病院に勤務されていると「こういう患者さんが来る」と事前にある程度分かるものだと思うのですが、救急の現場は一番何が起こるか分からない場所ですよね。
松本さん
そうですね。教育の場でも、「同じ現場は1つもない」と伝えるようにしています。その都度その都度で毎回違くて、その度に「どう対応しようか」と考えさせられます。だからこそ面白い仕事でもあるんですけどね。
編集者
クラミー
数ある現場の中で、仕事に対する意識が大きく変わったり、想いに刺さったものがあったことで覚えてらっしゃるものってありますか?
松本さん
これも本当に色々ありますね。そうですね…、やっぱり一番悲しいのは、僕らが現場に駆けつけて、相手を助けるために処置するじゃないですか。その時周りにご家族の方がいたりすると、とてもつらそうな表情を浮かべているんです。「救急隊が来るまで、自分たちは何もできなかった」という、自責の念といいますか。そういったご家族の顔を見るのが僕もまたつらくて。今の自分の活動にもつながることですが、救命士を育てるだけじゃなく、応急処置をすぐに行えるような市民を1人でも増やすこともまた大事なんです。
編集者
りょうちゃん
救急隊が到着するまでの時間が重要になってくるということなんですね…!
松本さん
そうなんです。人間って、心臓が止まると脳に血が行き届かなくなるんですね。大体脳細胞は心臓が止まってからどれくらいで機能しなくなると思いますか?
編集者
クラミー
3分くらいですか…?
松本さん
いい所ですね。およそ4分経ったら、脳細胞は周りからどんどんダメージを受け始めるんです。それで、救急車が現場に到着するまでにかかる時間の全国平均が8分30秒なんですね。ということは、救急隊が来た時点でもし何も処置されていなかったら、その人の脳細胞はもうかなりダメージを受けていることになります。まずは心拍再開が必要になってくるんですけど、心臓って筋肉で出来ているから割りと強い臓器なんです。ただ仮に心拍が戻っても、脳がダメージを負ってしまっていたら、植物状態や脳死に陥ってしまうケースもあります。
編集者
りょうちゃん
意識が戻っても、処置をすぐに行わなかった影響で後遺症が残ってしまうこともありますよね。私たち一般市民が応急処置について学びたいと思った時、どのような場所に行くのが適切なのでしょうか。
松本さん
消防署でも一般向けの講習はやっていますし、僕自身は今NPOでもそういった活動を行っています。有料の所もあれば無料の所もありますし、救命の講習はさまざまな施設で行われていますよ。
編集者
クラミー
なるほど。私たちが知らないだけで、きっと調べればたくさん講習に関する情報が出てくるんですね。
松本さん
そうですね。また、講習会の後は、助ける側のメンタルのフォローも必ず行います。応急処置をした場合、一命を取り留める可能性は4倍になると言われていますが、とはいえ助からない人のほうが実際は多いんです。そうなると、「自分の処置が間違っていたんじゃないか」と、助ける側の精神的負荷がかなりかかってきます。あまり落ち込みすぎないように、場合によっては専門家に相談してみることなどを勧めるようにはしていますね。
編集者
りょうちゃん
松本さんが思う、救命士に必要な素質って何だと思いますか?
松本さん
どんな仕事でも同じかもしれませんが、やっぱりプロ意識ですね。救命士の場合、人を助けたいと思うのであれば、できるだけ自分の技術を高めていく。例えば、非番の時に講習に行って研修を受けるなど、自分のレベルを上げていくことはとても大切だと思います。人の命を救うことは大前提として重要ですが、それに伴って、自分の技術を高める努力ができる人が救命士に向いていると感じています。
編集者
クラミー
きっと体力面でも過酷でしょうし、覚悟が必要なお仕事ですよね。救命士になるにあたって、具体的にどんな覚悟をつけておくといいのでしょうか。
松本さん
そうですね…、覚悟というよりも、柔軟な考え方ができることのほうが必要かなと思います。1つとして同じ現場はないので、その場その場での対応力がとても大切になってきます。今の若い隊員って、とても真面目なんですね。ただ要領が良いかといったら、そこはいまひとつで。
編集者
りょうちゃん
なるほど…マニュアル通りの仕事はきっちりこなせるけれど、そこから少しでも逸れた時の対応が難しくなってくるんですね。
松本さん
こればかりはもう、現場経験を積んでいくしかないのかなと思います。
編集者
クラミー
場数を踏んで、臨機応変な対応力をつけていくことが大事なんですね。若い世代に対して望みたいことや、業界全体の今後に対する希望などは何かありますか?
松本さん
人を助ける、守るというのはもちろんですが、そのために人に優しい人間であってほしいなとは思います。そして先ほどもお話したように、人の命に関わる仕事である以上、絶対に手を抜くのは駄目で、努力を怠ってほしくもありません。常に意識を高く持って、どんな時でも対応できるような隊員になってほしいです。
編集者
りょうちゃん
まさに「プロ魂」ですね…!
松本さん
そうですね。また、僕自身がやらなければいけないこととしては、若い世代に対して人脈をつないでいくことですね。大学の先生や教授など、医療を通してこれまでたくさんの方と関係を築いてきました。人脈をつなぐための後継者育成はまだまだ道半ばなので、これは僕の課題の1つですね。
編集者
クラミー
これまで仕事をされてきたなかで、松本さんが影響を受けたり、リスペクトしていたりする方はいますか?
松本さん
やっぱり、救命の先生ですね。本当に感心してしまうほどに、自分の時間を惜しまないんです。「いつ家に帰ってるの?」と思うくらい、常に患者さんのことを考えていらっしゃいます。急患が来てもすぐに冷静に対処されているので、すごいなと心から思いますね。
編集者
りょうちゃん
働き方改革の関係で、「自分の時間を大事にしましょう」「しっかり休みましょう」といった流れが今は推し進められつつありますが、この辺りについてはどう思われますか?職種柄、なかなかそうもいかないお仕事もあるんじゃないかと思っていて、救命の現場も然りなのではないかと。
松本さん
そうですね、今は救命の先生方も働き方が少し変わってきてはいるみたいなんですけどね。ただやっぱり僕は昔の人間なので、休んだほうがいいとは分かってはいながらも、無理をするという場面はこれまでも何度もありました。今はそれが良しとはされない風潮なので、時代の変化ですね。
編集者
クラミー
そうなると、やはり現場の人員を増やしていくことが今後ますます求められるのでしょうか。
松本さん
はい。実際今も人が増えてはいるのですが、それ以上に救急需要が増加していて。
編集者
りょうちゃん
少子高齢化の影響もありますよね。
松本さん
そうですね。疲れてしまっていたらパフォーマンスも下がるので、しっかり休んで、ベストな状態で現場に臨むのが理想ではありますね。
編集者
クラミー
現役で救急救命士として活躍されている方と、救急救命士を目指されている方、それぞれに対するメッセージをぜひいただきたいです。
松本さん
今の救命士に対しては、退職する時に「この仕事をやっていて良かった」と心から思えるくらい、自分を高めて、仕事に打ち込んでほしいなと思います。
編集者
りょうちゃん
晴々しい気持ちで、最後の日を迎えてほしいんですね。そのために、全力で努力をし続けると。
松本さん
そうですね。救急救命士になりたいと思っている方に対しては、つらいことのほうが多いかもしれない仕事ではありますが、命を救って、人から感謝された時はとてもやりがいを感じられるので、ぜひ目指し続けてほしいですね。
編集者
クラミー
私の同級生でも救命士になった子がいるのですが、話を聞いていると、本当に過酷だなと思って。初めての現場が巻き込み事故だったようで、人ってそんな風に亡くなってしまうのか…と。
松本さん
そうなんですよね、とにかくつらいことが多いし、現場もさまざまです。酔っ払いの相手をしたりする現場もあったりとか…。
編集者
りょうちゃん
そんなこともあるんですね…!?
松本さん
他にも、駆けつけた現場が1人暮らしのおばあちゃんの家で。話を聞いたら、「ちょっと寂しかったから呼んだの」って。そこから1時間くらいお話して、病院に連れて行こうかとも思ったんですけど、「もう大丈夫」なんておっしゃったりとか。
編集者
クラミー
ご高齢の方で、結構多いみたいですね。119番の要請で現場に行ったら、おじいちゃんやおばあちゃんがただ話したかっただけだったって。
松本さん
そういう時、若い隊員には「隊長、もう帰りましょう」なんて言われるんです。でも、例えばそれが夜遅かったりしたら、救急が多発する時間帯でもないですし、話を聞いてあげるようにはしています。こういうのも仕事のうちだよ、と隊員には伝えますね。
編集者
りょうちゃん
それもまた対応力の1つといえば1つですし、「人に優しく」ということでもありますよね。
編集者
クラミー
1つの会社で勤め上げるというよりも、転職されたり、フリーランスになったりする方が昨今は増えてきています。松本さんは意識を高く持って、救命のプロフェッショナルとして同じ道を走り続けてきましたが、最近はこのようなプロ意識がある種おざなりにされている部分があるのではないかと感じていて。この辺りについてはどう思われますか?
松本さん
確かにプロ意識を持つことは大事ですが、とはいえ、他の可能性を追求することもまた良いことだと僕は思うんです。「プロとして仕事がしたい」という想いさえあれば、最終的にはそこにたどり着けるんじゃないかと。そんな、自分がプロ意識を持てるような仕事を見つけることが一番大切だと思いますよ。僕は救命の仕事が好きで、ずっとこの世界で生きてきましたが、もし別の可能性に目を向けるような機会があったとしたら、また違う挑戦をしていたかもしれません。
編集者
りょうちゃん
「みんなの履歴書」でさまざまな方にお話を聞いていると、やっぱり「この仕事が好きだからやっている」という想いは共通していますね。
松本さん
そうですね。〈好き〉の想いが突き動かすものは大きいですね。僕個人は料理や建築にも興味があるので、料理人であったり大工さんであったり、そんなお仕事に就いていたら、そっちの道で努力し続ける自分もいたりしたのかな、なんて考えたりもします。
編集者
クラミー
物事に対して興味関心を持つことがいかに大事か、ということなんですね。
【インタビューに答えてくれたのは…】
消防士・救急救命士OB 松本さん
19歳〜消防士
34歳〜堺市消防局北消防署 救急救命士
救急救命士として約20年活動してきたが、その経験のなかで一人の優秀な救急救命士を育てるより
胸骨圧迫とAEDを使える人を増やすほうが、絶対に人の命を助けることができると考え、
現在、救命講習などの普及啓発活動を行っている。