対談インタビュー
人をつなぐ〈縁〉と〈愛〉を大切に。未来への布石を打ち続ける薬局薬剤師
今回インタビューにお答えいただいたのは、細野漢方薬局開設者の、細野靖之さん。祖父から受け継いだ90年以上の歴史ある細野流漢方を守るため、細野漢方薬局を開局。独自の漢方レシピをはじめ、開局へ至るまでの学びの過程、漢方薬局のやりがいなどを伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まず、現在の仕事内容を教えてください。
細野さん
私の実家は、1928年くらいから今年で95年になる漢方診療所をやっているのですが、一昨年、京都診療所を閉じてしまったんです。そこで、細野独自のレシピを守るために、何か私ができることはないか、と考え、漢方薬局を立ち上げました。
編集者
りょうちゃん
“細野独自のレシピ”というものがあるんですね。
細野さん
ええ。顆粒の漢方薬ってありますよね。葛根湯とか。あれを最初に開発し、製品化したのはうちの祖父なんです。長年培ってきたそのレシピを守っていきたいという思いと、“漢方の原点回帰”という2つの思いから、生薬を煎じて、パックにして提供するサービスを行っています。やはり、「細野漢方レシピを守りたい」という思いが強くありますね。
編集者
クラミー
子供時代からお父様の背中を見てこられたと思うのですが、その時から“守っていきたい”という想いがあったのですか?
細野さん
いえ、幼い時は思っていませんでした。どちらかと言うと「苦いもの飲ませやがって!」みたいな(笑)。
編集者
りょうちゃん
あはは。まだ子供ですもんね(笑)。
細野さん
しかし、成長するにつれて、「祖父が築いて父が受け継ぎ、90年以上も続いてきたものを廃れさせてしまってもいいのだろうか…」という思いが生まれたんです。
編集者
クラミー
漢方薬局の開局に至るまでの間、どのように学んでこられたのでしょうか?
細野さん
そうですね。大学を出て、最初は自分の実家で何年か勤めていました。しばらくして、これでは視野が狭くなるなと考え、普通の調剤薬局にも勤めた後、京都診療所を閉じたことをきっかけに、現在に至ります。特別な漢方の勉強というのは、勉強会に参加して、少しずつ勉強していきました。
編集者
りょうちゃん
あとは、受け継がれたレシピを教えてもらっていたのでしょうか?
細野さん
いえ、誰に教えてもらったというわけではないんです。本を見ながらとか、先輩の話を聞きながらとかしながら、勉強して吸収していきました。大学でも、漢方に関する知識はほとんど教えてもらっていないですね。今の時代は大学で教えていますが、僕の時代では、漢方は全然教えていませんでした。
編集者
クラミー
なるほど。ご自身で学ばれていたのですね。
編集者
りょうちゃん
自分で学んでいく、というのは大変なことも多かったと思うのですが、その中でも頑張ってこられた“軸“というのはなんだったのでしょうか。
細野さん
やっぱり、漢方が好きだったんでしょうね。子供の頃は不味い!と思っていましたけれど(笑)。実家が漢方をやっていたから、とっつきやすかったんです。また、普通の医薬品では副作用がありますが、漢方の場合はそれをあまり考えなくて良いといった、良いところもあります。
編集者
クラミー
そもそも、漢方薬というのは、どういったものなのでしょうか?普通のお薬とどう違うのですか?
細野さん
漢方薬は、草や木の根、茎、葉っぱなど、植物由来の生薬を煎じたものがメインです。ですから、国の役人の取り決めによっては、医薬品になったり、食品になったりすることもあります。
編集者
りょうちゃん
それを、細野さんの漢方薬局ではオーダーメイドで作られている、ということですね?
細野さん
例えば、葛根湯に、患者さんの症状に合わせた生薬を加えると、オーダーメイドになるわけです。細かな匙加減で自由に組み合わせられますよ、というのが私の考えるオーダーメイドですね。実際には、法的な縛りがあって難しいところもあるのですが。
編集者
クラミー
症状や、患者さんによって組み合わせを変えられるのですね。
細野さん
はい。西洋医学の薬は、基本的に一つの薬につき1つの成分なのですが、一つでは治療が完結しない場合もあります。漢方薬では、1つに複数の成分を組み合わせて処方することができるのです。
編集者
りょうちゃん
設立されてから、たくさんの患者さんと接してこられたと思うのですが、何か思い出に残っている出来事や、嬉しかった言葉はありますか?
細野さん
そうですね。ある時87歳のお年寄りとご家族が、「しゃっくりが止まらない」と来られたことがあって。どうしようかなと思い呉茱萸湯(ごしゅゆとう)というすごく苦い薬を出してみたんです。すると「すごくよく効いたよ」と言ってくださいました。普通の人が飲んだらもう苦くて苦くてまず飲めないのですが、体質に合う人であれば美味しく感じる薬で、すごく喜ばれたんです。その時は、この仕事やってよかったなと思いましたね。
編集者
クラミー
まるで魔法みたいですね。
細野さん
「証」(しょう)※1というのですが、その人の体質に合っているとお薬も美味しく感じる、というのは漢方で実際にあるんです。
編集者
りょうちゃん
きっと植物由来の、人に近い漢方ならではですね。
編集者
クラミー
お仕事をしている中で、やりがいを感じるのはどういった時ですか?
細野さん
やりがい、というよりは、手応えを感じる時になりますが、患者さんにもう1回来ていただけたときですね。
編集者
りょうちゃん
なるほど。やっぱり続けるってことが大事ですよね。
細野さん
はい。ちょっと良くなったからといって来なくなってしまう人も中にはいるのですが(笑)。もう一声なんですよね。頑張ってもう少し続けていただけると、本当に良くなるんですよ。
編集者
クラミー
なるほど。一時的に良くなっても、続けないと完治には至らないということですね。
細野さん
ええ。途中で辞めてしまう人が多いんです。だからこそ、もう一度来てくださると、この仕事やっていてよかった、と思いますね。
編集者
りょうちゃん
患者さんに、その漢方が合っていると喜んでもらえている、ということですもんね!
編集者
クラミー
今後、お仕事や漢方業界で、チャレンジしていきたいことや、展望はありますか?
細野さん
自分だけが処方するのではなく、色々な方に漢方を使っていただこう、というのが当面の目標です。そのために、お医者さんとタッグを組んだり、来年開かれる学会で個人発表や展示を予定したりしています。やっぱり、細野の家だけでなく、お医者さんに使ってもらわなければ広まらないなと感じています。
編集者
りょうちゃん
どの業界でも、広めていくことって大事ですよね。
編集者
クラミー
漢方の業界では、若い方や学生さんが薬局に入るには、どういったルートがあるのでしょうか?
細野さん
う〜ん。なかなか難しいでしょうね。まず漢方を勉強しなければならないですし、よほど大きな薬局でないと雇う余裕もないでしょうし。
編集者
りょうちゃん
もしも今後「漢方を学びたい」「やっていきたい」という志がある方にアドバイスをされるとしたら、どのようなお声かけをされますか?
細野さん
やっぱり、漢方を勉強することがすごく重要だと思いますし、病名に応じて出す漢方じゃない、本当の漢方を知っていただきたいです。もし興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひお越しいただけたら(笑)。
編集者
クラミー
たまに若い薬剤師さんで、漢方に興味あるけれど入口がどうしたら良いかわからない、という声も聞きます。
細野さん
本当の漢方を広めたい、伝えたいと思っているので、そういう方がいらしたら是非教えたいですね。食べ物なんかご馳走しながら(笑)。
編集者
りょうちゃん
素敵ですね!
編集者
クラミー
どういった方が漢方を志すのに向いている、と感じますか?
細野さん
いや〜、元々漢方をやる人は変わった人が多いですから(笑)。でもやっぱり、辛抱強い人が向いているかもしれないですね。
編集者
りょうちゃん
オーダーメイドの処方ができるまで幅広い知識を自分で身につける、となると、覚悟が必要そうですね。
細野さん
ええ。一回聞いただけではわからないですからね。繰り返し繰り返し同じことを聞いて、やっと初めて身についていくことなので、長い年月が必要になります。勉強会に行って、この前これ聞いたぞ、の繰り返しで、だんだん頭に入って行くのだと思います。
編集者
クラミー
覚えるだけでなく、身に付くまで学ぶことが大切ですね。
【インタビューに答えてくれたのは…】
細野薬室(細野漢方薬局) 細野靖之 さん
1994年から細野診療所に勤務。その傍ら京都漢方研究会などの勉強会にて漢方の勉強を行う。
2021年細野診療所の京都診療所閉院となり、自由診療の指示箋を応需する漢方薬局の開局を目指す
2022年8月 細野漢方薬局を京都市中京区は壬生寺の近くに開局する
【注釈】
※「証」とは、自覚症状及び他覚的所見からお互いに関連し合っている症候を総合して得られた状態(体質、体力、抵抗力、症状の現れ方などの個人差)をあらわす漢方独特の用語