対談インタビュー
人をつなぐ〈架け橋〉として輝く。信頼関係を大切にする訪問診療の同行ナース
今回インタビューにお答えいただいたのは、株式会社クオリアフィールド代表取締役、樋口亮佑さん。理学療法士の経験を活かし、整体サロン事業をやりながら、カラダに優しいカフェを経営されています。患者さんとより深い関係が築ける理学療法士ならではの想いや、健康を支える場所にカフェを選んだ理由、樋口さんが作りたい空間のあり方などを、たっぷりと伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まずは現在のお仕事内容を教えてください。
樋口さん
現在は主に、カフェの経営と整体サロンの二つをやっており、整体サロンでは、整体はもちろん、セラピストの育成もやっています。病院ではない、地域や社会で働くセラピストを育てるための育成業です。また、チラシや名刺などを作成するデザイン関係もやっています。
編集者
りょうちゃん
もともと理学療法士さんだと伺っているのですが、どのような順序で仕事の幅を広げていかれたのでしょうか?
樋口さん
はい。理学療法士として5年程病院で働いていたときに、休みの時間を活用して院外で整体をやり始めたのが整体のはじまり。そのタイミングで、ずっと描いていた「カフェを作りたい」という目標を実現するために、病院を出て色々と活動をはじめました。「まずは僕の活動を知ってもらう必要がある」と考え、外に出て影響力をつけようと思ったんです。その活動の中で人脈が広がり、カフェに辿り着き、いまここにいます。
編集者
クラミー
つまり、病院、整体、カフェ、という流れで広がったのですね!デザインにはどこで触れられたのでしょうか?
樋口さん
デザインは、趣味の延長です。12歳の頃から自分で映像を作っていて、ショートムービーの編集などにハマっていたんです。いまの目標は、理学療法士という職業を映像で伝えられる人になること。ふと「理学療法士のドラマや映画ってあまりないな、そういう番組があってもいいんじゃないかな」と思って。実際に自分が怪我したりスポーツをやっていたりしないと、理学療法士に出会うキッカケがないのが現状なので、映像作品で理学療法士を知ってもらえたらいいな、と思っています。
編集者
りょうちゃん
ちなみに、樋口さんが理学療法士という職業に出会われたキッカケは何だったのでしょうか?
樋口さん
僕は、本当は映像系の大学に進学しようと思っていたのですが、当時はそもそも映像系の学部が少なく、倍率も高かったんですよ。受験したけれど、結果落ちてしまって。「もう一度頑張ろう」とも思ったのですが、長男というのもあって両親に反対されてしまいまして。そこで、国家資格の取れる堅い道へ進もうと考え直し、理学療法士を目指しました。スポーツが好きだったこともキッカケの一つです。
編集者
クラミー
では、仕事をしていく中で、理学療法士という職業を広めていきたいという想いが芽生えたのですね。
樋口さん
はい。その想いは、実習で実際の現場を見るようになってからですね。理学療法士って、他の医療従事の職業に比べ、患者さんと長く深く関われる職業だと思うんです。看護師さんやお医者さんの多くは、診察する5分10分の間しか患者さんに関わることができないけれど、理学療法士は一回の施術が60分もあって。その後も、家まで一緒に行ったり、退院の手続きに付き添ったりと、病気だけでなく人の人生にも関わることができるんです。こんなに素敵な職業なのに、あまり世の中に伝わっていないことがもったいないと感じたんですよね。
編集者
りょうちゃん
確かに、部活などで怪我した方が、理学療法士さんと今でも仲が良いというエピソードを聞くことがあります。それほど密度の濃い職業なのですね。
樋口さん
はい。僕も一年目の時に診させてもらっていた患者さんから、年賀状が届いたことがあります。患者さんと深い関係を築ける、大事な仕事だと感じています。
編集者
クラミー
樋口さんが、勉強していた時に苦労したことや、現場で感じたギャップなどがあれば教えていただけますか?
樋口さん
勉強は結構大変でした。暗記項目がたくさんあったり、ひたすら骨の画を描かなければならなかったりと、「何のために勉強しているんだろう?」と思う時もありましたね。試験の勉強は辛い部分もありましたが、現場での実習では、知識と知識が繋がってゆく感覚がして楽しかったです。また、人と関わることが好きなので「自分に向いているかも」とも思いました。病院に就職した時も、同期に比べたら学力は劣っていたのですが、一方で、患者さんとの関わりや、信頼関係を構築することに関しては負ける気がしませんでした。
編集者
りょうちゃん
患者さんと関わる時間が長い理学療法士では、一番大切なことかもしれませんね。
樋口さん
はい。患者さんに関わって感謝されることが「その人のために勉強しよう」とか、「何かしら力になれるかな」というモチベーションにつながって、勉強の仕方にも変化が生まれたんです。
編集者
クラミー
その変化というのは・・・?
樋口さん
学生の時は、とりあえず国家試験に受からなければ!という気持ちでただただ勉強していたのですが、患者さんと接して自分にできることを考えるうちに、足りない知識や経験が明確になってきて。「ここは先輩に聞いてみよう」「ここは自分で知識を身につけよう」と、勉強を重ね、現場で学んだことをすぐにアウトプットすることで、すべてが身になっていきました。
編集者
りょうちゃん
患者さん一人ひとりに合わせて勉強をしていったのですね。
樋口さん
はい。1、2年それを続けていると、自分の中で繋がった知識と経験が蓄積されてきて、今度は色々な患者さんに応用が利くようになってきました。その頃には“楽しい”と思えるようになりましたね。
編集者
クラミー
頑張りが報われるタイミングや、嬉しい、楽しいと思えるタイミングが、さらなるモチベーションにも繋がりますよね。
編集者
りょうちゃん
今まで理学療法士をされてきて、心に残っている出来事はありますか?
樋口さん
嬉しい、楽しい、とは逆になるのですが、新人の頃、患者さんのリハビリしたことをまとめて発表する症例検討会での出来事が心に残っています。その時、半年前くらいに担当した、ガンが治った患者さんをリハビリした症例を発表することにしたんです。その方は、歩けない状態だったところから、無事歩いて自宅に帰れるほどにまで回復し、本人にも家族の方にもとても喜んでいただけていました。しかし、症例検討会の3日前に患者さんの奥様からお電話で、亡くなった、と聞いて。
編集者
クラミー
え!
樋口さん
自分のリハビリのせい、とまではいかないけれど、「自分にもっとできたのではないか?」と思ったんです。症例検討会では、その患者さんの思いも一緒に乗り越えようと、涙を堪えながら頑張った記憶があります。その時から病気に対して、リハビリテーションに関わる前からサポートができていれば、たくさんの人が病に悩まなくて済むんじゃないかと思うようになって。それまでは目の前のリハビリに精一杯でしたが、病気になる前に人の役に立ちたい、と思うキッカケになりました。
編集者
りょうちゃん
新人の頃のその経験が、現在経営されているカラダに優しいカフェなどにもつながっているのですね。
樋口さん
はい。食生活もそうですし、病気になる前のことに視点が移った出来事でした。確かにリハビリテーションというのは、病気になって手術をした後、リハビリをして自宅復帰するという流れがセオリーですが、本当はもっとその前に、リハビリしなくても良い人たちを増やすことが自分の使命なのではないか、と考えるようになったんですよね。
編集者
クラミー
では、「カフェをやりたい」という思いは、その考え方が変わったタイミングで生まれたのでしょうか?
樋口さん
その患者さんの出来事ももちろんあるのですが、もう一つのキッカケに、女性スタッフの存在があります。病院には看護師さんやセラピストに女性が多く、何故か急に帰ったり、休んだりしている姿をよく目にしていました。しかし、当時の自分にはその理由が分からなくて。後々理由を聞いて、生理痛など女性特有の悩みが原因だったことを知ったんです。カラダのスペシャリストとして勉強していたのに、女性の身体に無知な自分がとても不甲斐なく感じました。このままじゃダメだと思い、そこから女性医学、女性の身体に対する勉強を始めたんです。
編集者
りょうちゃん
女性の身体の勉強が、どのようにカフェに繋がるのでしょうか?
樋口さん
女性医学を勉強しているうちに、食をはじめ普段の生活や、その延長が大きな病に繋がるのだと気づきました。大きな病になる前の働き盛りの世代から、生活習慣自体にアプローチをしなければならないなと思ったんです。同時に、自分の身体も見直してみると、背中にニキビがあったり、疲れが溜まりやすかったりというのに気づいて。まずは自分の食生活を見直して、自分の身体で実験をしました。その話を周りの女性陣にしたのですが、「そういうの大事だよね」とは言ってくれるものの、なかなか理解してもらえなくて。やはり、男性が女性の話をしても、という感じで。
編集者
クラミー
どうしても、性別が違うと「理解しきれないでしょ?」と思ってしまう部分もありますよね。
樋口さん
そうですね。ただそんななかでも協力してくれる女性もいて、看護師やセラピストの友人は「そういうの男性が考えてくれるのって大事だと思う」と、肯定してくれたんです。彼女たちに「そういった女性特有の悩みってどういうところに相談するの?」と聞いたところ、私達も分からないし、女性同士でも喋りづらいと言っていて。「そうなんだ!」という発見になりました。
編集者
りょうちゃん
確かに、相談していいのかさえ分からない女性も多そうです。
樋口さん
そこで、女性が気軽に来れる場所ってどこだろう?と考え、カフェに思い至ったんです。何気なく入ったカフェの店員が、カラダのスペシャリストだったら良いいんじゃないかな、と。食材の話などを入り口に、お身体の悩みの相談に乗れたり、誰かを紹介できたりする。そんな場所になるんじゃないかなと思いました。
編集者
クラミー
カフェの経営と理学療法士では、全く違う職種ですが、まずは何から始められたのでしょうか?
樋口さん
カフェ経営を思い描いたのは、理学療法士として働きはじめて2、3年目のときだったので、まずはとにかく勉強からはじめました。自分の身体や、親、当時付き合っていた彼女などの身近な女性の身体から改善できるよう、勉強し実践を重ねていきました。また、カフェに理学療法士がいる前例がなく、ツテも何もなかったので、自分でカフェやお料理教室に通っていましたね。
編集者
りょうちゃん
お料理教室!
樋口さん
はい。栄養学を勉強するついでに、ちゃんと料理もできるようになろうと思って。
そこで出逢った女性の中に、カフェに繋がりがある方がいたんです。
編集者
クラミー
やっぱりそういう“ご縁”ってありますよね。
樋口さん
あります。そこで紹介していただいたカフェに行って、その場でお客さんに整体の施術を行うことを、週一ぐらいでやりはじめたんです。それをSNSで発信していたら、「うちのカフェでもやってほしい」という声や、カフェのお客さんがまた別のカフェへ繋げてくださるなど、徐々に活動の範囲が広がりはじめて。カフェで身体を整えてからご飯を食べる、という文化を作ることができ、自分が目指す“カフェに理学療法士”の形に近づいている気がしました。
編集者
りょうちゃん
実際にカフェでやることで、“カフェに理学療法士”の需要も確認できますね!
樋口さん
はい。それも踏まえて、「将来カフェを自分でやりたいんです」と言って独立しました。理学療法士の独立=まずは整体院というイメージが強いと思うのですが、整体院だと痛みをとった先の繋がりが薄くなってしまう気がしていて。僕は、いつでも帰って来れる場所、何気なく相談に乗れる場所を、必要な方に届けるサービスを作りたかったんです。
編集者
クラミー
確かに、素敵なカフェメニューのある整体院に行くよりも、カラダのスペシャリストがいるカフェに行く、のほうが気軽に行きやすい気がします!
樋口さん
まさに「病気になる前の方を診たい」という初心に立ち返った瞬間でした。僕は、健康な人にカフェに来ていただいて、病気にならないような積み立てができる場所を作りたかったんですよね。
編集者
りょうちゃん
お話を伺っていて、理学療法士は人とお話をして、その方が必要としていることを察知するスキルが必要なお仕事だと感じたのですが、樋口さんは、何かコミュニケーションで意識されていることはありますか?
樋口さん
僕、コミュニケーションはめちゃくちゃ苦手で。
編集者
クラミー
そうなんですか!全然苦手なようには感じませんでした。
樋口さん
一対一でゆっくり話す分には大丈夫なのですが(笑)。今は話をする機会が多く、だいぶ喋れるようになってきました。以前は自分のことばっかり話してしまうことが多くて、人の話を聞けなかったんですよ。それを自覚するようになってからは、YouTubeで対談の動画等を見ながら、受け手が相手の話を引き出すためにはどうすれば良いのかを研究して、練習しました。
編集者
りょうちゃん
なるほど。苦手だったことを、努力で克服されていたのですね!同時に、人想いな方なんだな、という印象も受けたのですが、ご家族や従業員の方と関係性を築くコツはありますか?
樋口さん
僕はもともと、初めましての人にはクールに見られがち、距離を置かれがちなので、自己紹介の時点で自分の駄目なところをオープンにすることを意識しています。
編集者
クラミー
確かに、ウィークポイントがあると分かれば、親近感がわきますね!
樋口さん
最近は年下の方と接する機会も多いので、「僕はこれができないから、手伝ってほしい」など、できないことを宣言するようにしています。そうすると、上下関係に捉われず意見しやすくなるだろうし、アドバイスもフランクに聞いてもらえるようになる気がするんです。
編集者
りょうちゃん
最後に、理学療法士やカフェに限らず、〈志〉があってチャレンジをしようとしている方達に、先輩としてアドバイスがあれば、教えてください。
樋口さん
まずは「やってみよう」ということですかね。僕も最初は両親から反対されていたし、カフェ経営にも前例がなく、周囲の人に色々と言われることもありました。でも、いざやりはじめてみたら、みんなの目線が変わってきたんです。周囲の目が応援に変わる体験って、挑戦した人にしか味わえない。躓いてもいいから、まずはやってみてほしいですね。
編集者
クラミー
加えて、挑戦を続けられる気持ちがあれば、トライアンドエラーで徐々に成功に近づくことができますね。
樋口さん
そうですね。あとは「やる!」と、宣言することも大切だと思います。僕もまだまだこれからな部分があるのですが、色々な方に出会って新しいことを教えていただけましたし、SNSで声をあげたら助けてくれる方がたくさんいて、人の温かみに触れることもできました。宣言することで周りは話を聞いてくれるようになり、自分としてもやるしかない状況を作ることもできます。
編集者
りょうちゃん
なるほど。ではアドバイスは、“宣言して、やる”ということですね!
樋口さん
はい。宣言することで、近道ができたり、ご縁が繋がったりと、挑戦に厚みが生まれる気がします。やりたいという気持ちがあるのなら、“宣言して、やる”だけです!
編集者
クラミー
素敵なアドバイス、ありがとうございます!樋口さん自身の、今後の展望はありますか?
樋口さん
大きな目標は、10年後に理学療法士のことを伝える映画を作ることです。直近の目標は、人が集まって健康を伝えられる空間を軸にさらに事業を広げてゆきたいです。空間といえば、僕はサウナが好きなので『サウナを語る会』をやりたいと思っています。ととのえていない方とか、熱くてサウナに入れないという方に、サウナの入り方をレクチャーする会を(笑)。カフェが女性をメインターゲットにした空間であるならば、サウナは男性をメインターゲットに健康を考える空間にしたいですね。
編集者
りょうちゃん
男性でも、気軽に健康のことについて聞ける空間があれば嬉しいと思います!
【インタビューに答えてくれたのは…】
樋口亮佑さん
株式会社クオリアフィールド代表取締役。
理学療法士の経験を活かし、カラダに優しい健康カフェ、SEREN Pêcheを経営している。
【経歴】理学療法士 10年目
◆回復期リハビリ病院勤務(3年半)
◆療養型病院リハビリテーション化立ち上げ(2年半)
◆訪問リハ、整形外科クリニック、デイサービスでのリハビリを非常勤で経験。
◆2017年〜自費での活動開始(病院勤務しつつ副業)
◆2020年
QUALIA BODY SALONをオープン!
育成事業本格化〜セラピスト向けアカデミー運営
◆2021年
株式会社クオリアフィールド 設立
ヒューマンアートメソッド(セラピスト育成)開発
◆2022年
米粉ヘルシーカフェSER