対談インタビュー
人をつなぐ〈架け橋〉として輝く。信頼関係を大切にする訪問診療の同行ナース
今回インタビューにお答えいただいたのは、現役の在宅訪問薬剤師でありながら、同時にタレント活動も精力的に行われている菊池遥香さん。“薬剤師タレント”という2足のわらじにこだわり続ける理由や、双方の仕事におけるやりがいや厳しさ、さらには就職を控える学生やキャリアに悩んでいる方々に対する頼もしいメッセージなどをたっぷり伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まず、現在の仕事内容について教えてください。
菊池さん
いまは現役で薬剤師をやりながら、モデルなどのタレント活動をしています。薬剤師の仕事は在宅訪問がメインで、週に3日ほど患者さんのご自宅に伺っています。
編集者
りょうちゃん
菊池さんのTikTokを拝見したのですが、ドラッグストアで販売されているお薬についてとてもわかりやすく説明されていましたよね。薬剤師さんならではだな、と思いました。
菊池さん
以前ドラッグストアで薬剤師の仕事をしていたこともあったので、その時に培った知識やノウハウも活かしています。
編集者
クラミー
タレントとしての活動はいつから始められたんですか?
菊池さん
社会人になってからすぐに始めました。当時は薬剤師ではない別の仕事を正社員でやっていたのですが、なかなか思うように芸能活動ができなくて。だんだんと正社員の仕事も忙しくなってきて、両立はもう難しいな、と。どちらを取るか悩んだとき、考えたのは〈夢〉のことでした。
編集者
りょうちゃん
どんな夢を抱かれていたんですか?
菊池さん
“薬剤師タレント”です。でも、それなのに現役薬剤師じゃないのは説得力がないと思って、そこから本格的に薬剤師タレントを目指すために正社員の仕事は辞めました。その後、パートタイムで薬剤師の仕事を始めた形です。
編集者
クラミー
薬剤師の仕事と芸能活動は全くジャンルが異なると思うのですが、この2つを掛け合わせようと思ったキッカケは何だったんですか?
菊池さん
芸能活動をしたいという夢は高校生の頃から口にしていたのですが、母親からは「芸能活動をするなら薬剤師になってから始めなさい」と言われていました。元々、家族の中で医療職に就いている人が多かったので、医療関係の仕事に興味は持っていました。薬剤師という母の言葉は「手に職をつけてほしい」という想いから来ていたもので。化学と数学が得意教科だったので「薬剤師を目指してみようかな」と本腰を入れて勉強し始めて、その後薬学部に進みました。でも薬剤師をやっていると、世間一般のイメージがあまり良くないな、と感じる場面が多いです。
編集者
りょうちゃん
それは意外ですね…!どちらかというと、「賢い」「真面目」といった印象を受けるような気がします。
菊池さん
なかにはそういったイメージを持たれている方もいるのかもしれませんが、一番ショックだったのが、芸能関係の方々が集まる場に参加させていただいたときに「薬剤師をやりながら芸能活動をしています」とご挨拶したら、「AI化の影響で最も失くなる職業って言われてるやつでしょ」と返されたことです。
編集者
クラミー
確かにその言葉はショックですね…。
菊池さん
でも、TikTokでも同じようなコメントが見受けられることがあります。「医師の処方箋通りに薬を出してるだけだから、薬剤師はいつか失くなる仕事だよね」とか「処方箋に従って薬を出しているだけなのに何で時給が高いの」とか。薬剤師という仕事はこんなにも世間に認知されていないのか…と衝撃を受けました。だからこそ、薬剤師の本来の仕事をもっと知ってもらうために、薬剤師タレントという夢を大きく掲げるようになったんです。「薬剤師のイメージに革命を起こしたい」という意志がより強くなりました。
編集者
りょうちゃん
私自身も薬剤師なので、歯がゆさは共感できる部分があります。薬剤師の地位向上のためには、やはり仕事内容をもっと知ってもらうことと、そのためにこちらから積極的な発信をすることが必要になってきますよね。ちなみに、そもそも芸能活動に関心を持ったのはなぜだったんですか?
菊池さん
最初のキッカケは、小学校6年生のときに観たテレビドラマ「花より男子」です。表現を通してこんな風に人を楽しませることができる職業があるんだ、と感銘を受けて。当時はクラシックバレエをやっていたこともあり、自己表現を通じて観る人に感動を与えるという点に共鳴しました。そこから、芸能界に興味を持つようになっていきました。
編集者
クラミー
菊池さんはいわば“2足のわらじ”を履きながらお仕事されていることかと思いますが、それぞれにおいて、これまで影響を受けた方や尊敬している方はいらっしゃいますか?
菊池さん
薬剤師のほうだと、いま働いているまんまる薬局の先輩方です。まんまる薬局は個人宅への訪問がメインなので、他の薬局にはあまりない形態だと思います。私自身、薬剤師としてのキャリアはまだ2年ほどのため、経験豊かな職場の先輩方の背中を常に追いかけ続けています。一番目標としている存在ですね。
編集者
りょうちゃん
ありがとうございます。芸能活動のほうだといかがですか?
菊池さん
薬剤師ではありませんが、女医の西川史子先生です。芸能の表舞台に数多く立たれてきた西川先生の薬剤師版を、自分が将来なりたい姿として掲げています。キャラクター的な部分で言うと、吉高由里子さんです。人を惹きつけるトーク力が魅力的だな、と。
編集者
クラミー
これまで仕事をされてきたなかで、やりがいや楽しさを感じた瞬間はどんなときでしたか?
菊池さん
薬剤師に関しては、薬の処方を通して患者さんの症状がどんどん良くなっていったり、感謝の言葉をかけられたりすると「やっててよかったな」と思います。「あなたが来ることを毎回楽しみにしてるのよ」と言ってくださる患者さんもいらっしゃって、その度にやりがいを感じています。
編集者
りょうちゃん
「頑張ろう」と力がみなぎりますよね。
菊池さん
そうですね。芸能活動については、元々自分が憧れ続けた職業だったので、〈好き〉を仕事にできている時点で楽しいです。なかでも、テレビ番組に出演したときに「観たよ」「映ってたね」と周りの人に気づいてもらえたり、TikTokやInstagramなどのSNS活動についても「面白いね」と声をかけられたりすると、嬉しいですしモチベーションにもつながります。
編集者
クラミー
逆に、薬剤師と芸能活動それぞれの仕事において、つらかった出来事などはありますか?
菊池さん
受け持っている患者さんがありがたいことにみんな良い方ばかりなので、薬剤師の仕事でつらいと感じたことはあまりありません。ただ、在宅訪問という特性上、患者さんによってご自宅の環境がかなり異なります。室内の様子から厳しい生活状況などが垣間見えたときは、どうしても苦しい気持ちにはなりますね。
編集者
りょうちゃん
内勤にはない、在宅訪問薬剤師ならではの見え方ですね。芸能活動のほうではいかがですか?
菊池さん
業界ならではの厳しさを感じるときです。オーディションの書類審査がなかなか通らなかったり、仮に通ったとしてもその後の審査で落とされてしまったりするので、選んでもらえる機会は100回に1回といっても過言ではありません。選ばれなくてもやり続ける気持ちを維持するのが大切ですね。
編集者
クラミー
なるほど、メンタルの強さがより必要になってくるんですね。
菊池さん
そうですね。先程TikTokのアンチコメントの話をさせていただきましたが、そういった言葉に関してもいちいち気にしないタフさが大事だと思います。
編集者
りょうちゃん
SNSでの心ないコメントに傷つくケースは一般人でもよく見られるような気がして、実際私の周りでも落ち込んだり悩んだりしている方がいます。そういった方に対して、菊池さんならどんなアドバイスをしますか?
菊池さん
まず、全員が全員攻撃的な意見をぶつけてきているわけではないので、悩んでいる時間がもったいないな、と私は思います。気にする時間があるのなら、もっと他のことにその時間を費やしたほうがいいんじゃないかな、と。
編集者
クラミー
これまでの経験を経て、薬剤師に向いている人はどんなタイプだと思いますか?
菊池さん
病院薬剤師は勉強意欲がある人で、調剤薬局の薬剤師に関しては比較的単調な作業が多いと思うので、淡々と物事を処理できる人が向いていると思います。調剤薬局の薬剤師はある程度慣れてくるとどうしても業務がルーティン化してくるため、飽きずにこなせることも大事な力です。窓口では患者さんと接しますが、どうしてもその場限りの関わりになりがちなので、そこまで深いコミュニケーションは取れません。なので、逆に言うとコミュニケーション力に自信がなくても問題ではないお仕事だと思います。
編集者
りょうちゃん
なるほど。一方、菊池さんがやられているような在宅訪問の薬剤師の場合、必要な素質は変わってくる形でしょうか?
菊池さん
そうですね。患者さんと1対1で、週に1回あるいは2週間に1回お会いするので、コミュニケーションのとり方によって関係性がかなり変わってきます。在宅訪問薬剤師は、コミュニケーション能力が高いほうがやりやすいです。患者さんの状態もより把握できますし、絆を深めることもできます。
編集者
クラミー
ご自宅に出向くようなお仕事はなかなか珍しいのではないかと思っていて、身内などではない人が自分の家に上がると考えると、どうしても身構えてしまうイメージがあります。
菊池さん
おっしゃる通りですよね。まさに最初は、玄関先でしか対応させてもらえないこともありました。でも、何度か伺ううちに「中に上がっていいよ」とおっしゃっていただけて、その度に「少しは信頼関係が築けたかな」と嬉しくなります。「実は先生に言えていなかったことがあって…」とこっそり相談事をされたりすることもあって、密なコミュニケーションの大切さを日頃から実感しています。
編集者
りょうちゃん
これから就職される学生の方や、キャリアに悩んで転職を検討されている方に向けて、メッセージをお願いします。
菊池さん
薬剤師の面でお話させていただくと、薬学部に進学後、多くの方がそこまで深く考えずに薬剤師を目指して、病院や薬局で将来働くことを想像されると思います。ただ、薬剤師の免許を持ったからといって絶対薬剤師として働かなければいけない決まりはありません。薬学部に進んだのであれば薬剤師の免許を取るべきだとは思いますが、本当に薬剤師という仕事が自分のいま一番やりたいことなのかどうか、立ち止まってじっくり考える時間をとってもいいのではないでしょうか。
編集者
クラミー
確かに、何となく固定観念に縛られている人は少なくないのかもしれませんね。
菊池さん
人生は一度きりなので、自分が一番やりたいことについて常に考えながら行動するほうが、より自分が生き生きとして楽しさを感じられるのではないかと思います。仮に失敗したりうまくいかなかったとしても、それですべてが終わるわけではありません。薬剤師のような資格を持っていれば、別の道に進んで行き詰まったとしても、資格を生かした仕事に改めて就くという打開策もあります。ぜひ恐れずに、自分の素直な気持ちに従ってほしいです!
編集者
りょうちゃん
力強いメッセージをありがとうございます!
【インタビューに答えてくれたのは…】
菊池遥香さん
東京薬科大学を卒業後
CRAとして2年間勤務
その後、在宅訪問薬剤師として働きながら芸能活動を行っている。