対談インタビュー
健康寿命を延ばし、幸せな時間を増やす。スポーツトレーナー×薬剤師が広げる健康の輪
今回インタビューにお答えいただいたのは、大阪府・やまおか内科クリニック院長の山岡祥さん。地域に寄り添い、訪問診療も行う山岡さんの“医師としての想い”と、“圧倒的な行動力”について、お話をお伺いしてまいりました。
編集者
クラミー
まず、山岡さんの仕事内容を教えてください
山岡さん
今年の5月に『やまおか内科クリニック』を開業しまして、クリニックでは生活習慣病から、コロナ感染症の治療まで幅広く対応しつつ、訪問診療にも力を入れているところです。
編集者
りょうちゃん
勤務医という選択肢がある中で、なぜ開業を選ばれたんですか?
山岡さん
キッカケはコロナの流行ですね。もともと「いずれは開業したいな」という想いを持っていたなかで、コロナが流行りはじめて。当時は、コロナ治療最前線の病院で働いていたこともあり、通常の診療プラス、コロナ診療を行っていくうちに世の中の急激な変化を感じるようになったんです。それをキッカケに自分のキャリアを見つめ直しはじめ、時代が変化しているのに、今まで先輩方が通ってきた道通りに進むことが正解なのかな、という考えに至って開業を決めました。
編集者
クラミー
確かに、ガラッと世の中全体が変わったタイミングでしたもんね。
山岡さん
そうなんです。コロナの治療現場にいたので、それを如実に感じたんですよね。開業医になれば、自分のやりたい診療、僕の場合だと訪問診療などを積極的に行っていける。何が起こるか分からない時代の波を体感したからこそ「やりたいことは早くやろう」と思うようになったのが、開業に踏み切った大きなキッカケでした。
編集者
りょうちゃん
開業を決めて動き出してから、不安になることはありませんでしたか?
山岡さん
めちゃくちゃありましたね(笑)。今までの自分の職場は、先輩から同僚、後輩までたくさんのドクターが勤務している場所だったのに対して、開業したら一人なわけですから。聞きたいことがあっても、今までのように気軽に相談することもできなければ、休みもなくなる。そういったスタイルが自分に合っているのかもやってみないと分からない。そういったことも含め、とても不安でした。
編集者
クラミー
いざ、クリニックを開業されてみて、その不安に変化はありますか?
山岡さん
正直、その不安がすべて払拭されたかと言われると、まだ悩むことはあります。ただ、やってみないと分からないからこそ、それも含めて早く行動したほうがいいと思ったんです。その方がリカバリーが効くな、と。
編集者
りょうちゃん
確かにそうですね。やってみたいことがあるのであれば、とにかく行動して自分とその仕事の環境・方法が合うのか、まず確認することが大切ですよね。
山岡さん
そうなんです。早く行動することで、人生的な視点でも、キャリア的な視点でも「違うな」と思った後の修正が効くのかな、と思います。
編集者
クラミー
今までお仕事をされてきた中で、山岡さんが“影響を受けた出来事”は何かありますか?
山岡さん
やっぱり一番はコロナですかね。当時は消化器内科を担当していたので、入院で抗がん剤治療をしたり、緩和ケアをする方などを診ていたんです。そういった方々が、コロナ禍で急にご家族の皆さんに会えなくなってしまう状況になって。
編集者
りょうちゃん
第一波、第二波の時は、お見舞いなどの規制がかなり厳しかった記憶があります。
山岡さん
お看取りになりそうなのに、お見舞いにも行けないし、行けたとしても時間制限や組数が決まっていたりと、かなり辛い現場もたくさん見てきました。その時に〈在宅医療〉が改めてクローズアップされるようになったんですよね。ターミナルの方の療養を最後は自宅でしよう、という考え方が広まって。在宅医療のなかで、僕の抗がん剤治療の経験をもっと役立てることができるんじゃないか、と考えるようになったんです。
編集者
クラミー
コロナ禍で、在宅医療のニーズがかなり増えた感覚はありますね。ちなみに“影響を受けた人”はいらっしゃいますか?
山岡さん
僕が一番医師として影響を受けたのは、研修医の時に出会った救急部長の先生です。僕が研修していた病院は一番ハードと言われていた病院で、3、4日に一度しか家に帰ることができないこともあって…(笑)。
編集者
りょうちゃん
3、4日に一度ですか!?
山岡さん
今では考えられないですよね(笑)。僕らが研修医だった頃、といっても10年も経ちませんが、今では考えられないほどのハードな仕事環境がザラだったんです。そういった働き方が許容されていた最後の世代ですね。
編集者
クラミー
そういったハードな環境で、働き方を変えてくれた先生だったとか…?
山岡さん
いえ(笑)。どちらかと言うとその逆で、呼んだら例え夜中でも飛んできてくださるような先生だったんです。ご家庭もあるのに、患者さんのためだったら自分を顧みない方で。僕らの「(診療・治療)どうしましょう」という質問にも「患者さんのためを思うのなら、検査も治療もやればいい」と、迷わず答えるようなスタンスの先生だったんですよ。賛否あるかと思いますが、その先生の「例え些細な選択でも、患者さんのためになるかどうかを第一に考える」という診療スタイルが、今の僕の診療スタイルにも繋がっています。
ただ働き方に関しては、残業ゼロや有給消化などホワイトなクリニックにしたいですね。
編集者
りょうちゃん
実際に、そのスタンスが活かされていると感じる場面はありますか?
山岡さん
在宅医療の現場は、病院と違って出来ることが限られているので「様子を見る」のか「できる検査をする」のか、それとも「病院へ送る」のか、その選択肢に悩むことが結構あるんです。その時に、救急部長の「何が患者さんのためになるのかを徹底的に考える」というスタンスを思い出しています。
編集者
クラミー
在宅医療の現場に行くようになった当初、驚いたことはありましたか?
山岡さん
正直、すべてが衝撃でした。そのなかでも一番に感じたのは、限られたリソースの中で、どういった選択をするのかの重要性。診療するドクターの考え方やスキルによってかなり変わってくるな、と感じたのを覚えています。
編集者
りょうちゃん
病院よりも限られた場所で行われる診療がゆえの責任もありそうです。
山岡さん
そうなんです。言ってしまえば家の中で診療が完結するので、ドクターの責任には多大なものがあると思いますし、僕自身もひしひしと責任を感じています。常に知識のアップデートが必要だと感じ、勉強をし続ける毎日です。
編集者
クラミー
一人のドクターに求められる知識量もかなり多そうですね。
山岡さん
本当にそうで、内科だけを診ていたらいいわけでなく、爪のことから目のこと、耳のことまで様々な箇所の相談を受けるので、ある程度の知識を網羅している必要があるんです。
編集者
りょうちゃん
家に来てくださるドクターには、ご家族の方もつい相談したくなってしまいそうですよね。
山岡さん
ご家族の方との関係値や患者さんと向き合う深度は、病院での診療時とは全然違いますね。ご家族の方とお話する機会が圧倒的に増えたので、治療の仕方も見出しやすくなった気がしますね。
編集者
クラミー
1対1で向き合うから生まれる信頼がありますよね。
山岡さん
そうですね。最初は不安を感じている方でも、不安な部分をしっかりとお伺いすると、それだけで安心される方もいらっしゃいますし。病院でバーッと説明を受けて、逆に不安が溜まっていってしまう部分と比較すると、だいぶ不安を解消できているのかな、とは思います。
編集者
りょうちゃん
その場にご家族の方も加わることで、患者さんの不安がさらに解消される気がします。
山岡さん
僕らドクターからしても、ご家族の方との時間が増えるのはすごく助けになるんです。医学的に「こうしたほうがいいな」と思う治療があったとしても、ご家族の方がそれを望んでいない場合もあって。そういった声をダイレクトに聞くことができますし、ご家族の方の要求がズレている場合はきちんと修正することもできる。近い距離で声を聞くことができるからこそ、「何を一番大切にしなければならないのか」が見やすくなるんですよね。
編集者
クラミー
患者さんの周りのご家族や環境まで知ることのできる繋がりの深さが、在宅医療の特徴でもあるんですね。
山岡さん
そうです。ドクターにとって、患者さんを取り巻く環境まで理解できるのはありがたいこと。これからも町と密着して診療できるクリニックを目指していきたいと思います。
編集者
りょうちゃん
勤務医の経験を経て、開業医になられた山岡さん。山岡さんから見て、率直にどんな方が開業医に向いていると思いますか?
山岡さん
開業して間もないので、私自身に開業医としての資質があるのかはまだ分かりませんし、アドバイスするなんておこがましい気がします。。そのなかで、僕が感じたことで言うと、いわゆる「かかりつけ医」として開業する場合、何に対しても〈好奇心〉が大切だと思います。
編集者
クラミー
好奇心!意外な言葉でした。
山岡さん
町のクリニックって本当にいろんな方がいらっしゃるんです。(なので、逆に「決まった疾患だけを診たい」と思っている方にはあまり向いていないのかな、と思います。)自分のもとにいらした患者さんを、その都度、好奇心を持って診ることのできる方のほうが向いている仕事かな、と思いますね。あと、開業すると診療だけでなく経理や人事労務、広告など全て自分で対応しなければなりません。税理士さんや社労士さんにサポート頂きますが最低限の知識は求められます。そういう意味でも好奇心は必要だと思いますね。
編集者
りょうちゃん
先ほどおっしゃっていた「知識を網羅する」と繋がる部分ですね。
山岡さん
はい。探求心がないと続けていくのは難しいと感じます。あとは人付き合いも大切。特に内科や訪問診療だと関わる人の数が一気に増えるので、いろいろな人の話を聞きながら柔軟に判断していく姿勢が大切です。
編集者
クラミー
いわば、チーム戦に近いところもありますよね。
山岡さん
そうですね。ケアマネージャーさん、訪問看護師さん、薬剤師さん、たくさんの方と支え合いながら患者さんを支えていかなければいけないので。それぞれの専門分野のエキスパートが集まっているからこそ、お互いに教え合いながら高め合っていけるような人じゃないと、業務的にも大変だと思います。
編集者
りょうちゃん
では、いま現在、自分の仕事のフィールドやステージを変えたいと思っている方にアドバイスがあればいただけますか?
山岡さん
僕らの業界って、一度その世界に入ると自分の周りにある環境が当たり前だと感じてしまうので、他の働き方や選択肢があることになかなか気づくことができないんです。ただ、外に目を向けてみたら、本当に多種多様な働き方が存在していて。開業スタイルも従来の古典的な開業だけでなく、オンライン診療や専門疾患、訪問診療に特化したクリニックなど新しい開業スタイルも出てきますね。情報感度を高めて、他の選択肢の存在に気付くことが大事なのかなと思います。
編集者
クラミー
自分から動いて情報収集するのも大切?
山岡さん
今の時代、SNSひとつにしても、たくさんの方が働き方やアイデアをシェアしてくれている時代じゃないですか。そういった情報に自分から目を向けていくのは大切だと思いますね。実際、僕も開業を決めた時にSNSなどで情報収集をしていました。
編集者
りょうちゃん
一歩踏み出してみると、世界は広いですもんね。
山岡さん
そうです。僕自身、大学を卒業してずっと同じ環境で働いていたら、何も疑うことなくこれまでの大多数の人が歩いてきたキャリアのレールの上をずっと進んでいたと思います。転職やセカンドキャリアを考えている方は、まず今の環境から飛び出すという意味でも、所属しているコミュニティ以外の人の話を聞いて欲しいですね。開業医の方でもいいですし、勉強会などでお話するのでもいいですし。
編集者
クラミー
コミュニケーションを通して知ることのできる世界に、自分からたくさん触れていくのは大切だと感じます。
山岡さん
普段関わることのない方たちの話を聞くのは本当に貴重です。同じ病院内でも、他職種の方たちとしっかりとコミュニケーションをとって、自分のキャリアの参考にして欲しいと思います。自分の興味のある分野のコミュニティに入るのもいいんじゃないかな。僕の場合は開業医のコミュニティに入って、情報交換やクリニックの見学にも行かせていただきました。Twitterで気になる先生にメッセージを送ってお会いしたこともあります。実は今回のインタビューも、たまたま参加したゴルフコンペがきっかけで繋がったご縁です。
編集者
りょうちゃん
ここ数年でオンラインコンテンツがさらに身近になりましたもんね。人と人の関係が希薄になっている…と聞きますが、出逢いの場は意外に増えているようにも感じます。
山岡さん
そういったコンテンツや機会を存分に利用しつつ、自分で情報をきちんと精査しながら、いろいろな世界や意見に触れていって欲しいと思います。
【インタビューに答えてくれたのは…】
大阪府・やまおか内科クリニック 院長 山岡 祥さん
30代前半
経歴
大阪大学医学部
初期研修2年
後期研修3年
勤務医、クリニック勤務数年の後にクリニック開院