対談インタビュー
人をつなぐ〈架け橋〉として輝く。信頼関係を大切にする訪問診療の同行ナース
今回インタビューにお答えいただいたのは、看護師資格を持ちながら、「貧血女子のたまり場」代表として、女性の貧血症状の相談と解決に努める渡辺綾さん。「なぜ“貧血”にフォーカスしたのか」といったお話から、コミュニティを築くに至ったお話まで、“女性の健康”について考えながらお話をお伺いしてまいりました。
編集者
クラミー
現在の渡辺さんのお仕事内容を教えてください。
渡辺さん
現在は、保健師の資格と貧血カウンセラーとして両方の軸を使いながら働いております。
編集者
りょうちゃん
保健師としては具体的にどのような業務をされるのでしょうか?
渡辺さん
保健師の仕事内容は、健康診断で引っ掛かってしまった方の特定保健指導を行うといったもの。皆さんの健康のサポートをしています。
編集者
クラミー
なるほど。渡辺さんはそれに加えて、女性に特化したサポートも行われているとお伺いしました。
渡辺さん
はい。“女性の貧血”に特化したカウンセリングを行っています。貧血について書き始めたブログを皮切りに、貧血持ちの女性だけのコミュニティを運営したり、セミナー講師としてお話させていただいたり、一対一でのサポートも行ったりしています。
編集者
りょうちゃん
もともと看護師として働かれていた渡辺さんが、“貧血”を調べ出したキッカケはなんだったんですか?
渡辺さん
新卒の時から児童精神科という、子どもの精神疾患や発達障害を主に扱っている病棟に勤務していたのですが、27歳の時に寝たきりになってしまった時期があって。
編集者
クラミー
寝たきりですか!?
渡辺さん
そうなんです。27歳の夏、寝たきりになってしまったんです。ドクターにも診てもらったのですが、「原因不明」と言われ続けてしまい…。そこで、一人の看護師として海外の論文を読み漁ってみたんですよ。そうしたら、自分とまったく同じ症状の論文を見つけて。その症状の原因が“貧血”と書かれていたんです。「私の不調の原因は貧血にあるんだ」と思い、もっと詳しく調べるために図書館や大学病院を歩き回りました。
編集者
りょうちゃん
原因不明の不調、ちなみにどういった不調だったのでしょうか?
渡辺さん
私の場合は、激しすぎる頭痛とめまい、うつの症状もありました。そのせいか気絶を繰り返してしまっていて。いくら自分で調べても原因が出てこなかった時に、海外の論文と出会い、“貧血”というワードを英語で検索してみたら、酷似した症状が引っ掛かったんです。
編集者
クラミー
そこで確証を得たのですね。
渡辺さん
はい。私の症状を聞くと特殊に思われてしまうかもしれないのですが、たまたま貧血になるスピードが早かっただけの話で、他の女性たちの言う「私、貧血なんです」と、何ら変わりない原因だったんですよ。
編集者
りょうちゃん
女性は生理もあるせいか、貧血気味の方が多い印象があります。
渡辺さん
そうなんですよね。日本って実は貧血大国と呼ばれているんです。世界に比べて、貧血への理解と国としての対策がすさまじく遅れていて。
編集者
クラミー
そうなんですか!?全然知らなかったです…
渡辺さん
厚生労働省は、2人に1人は鉄分不足と発表しているんです。私以外にもそれだけの数の女性が苦しんでいるのならば、“貧血”への理解を深めて、治療をしていく活動をはやくしなければ、と思うようになって。ただ、ネットで“貧血”を調べても、医師が書いた教科書に載っているような情報しか出てこなかったんですよ。そこでブログでの情報発信から着手しました。
編集者
りょうちゃん
ご自身の不調を治しながらの情報収集と発信活動、すごい行動力だと思います。それを経て、看護師として現場復帰されたんですか?
渡辺さん
病棟には戻らず、アメリカのベンチャー企業の看護師として復帰しました。
編集者
クラミー
えぇ!それはどういった経緯で?
渡辺さん
その頃には「貧血への理解を深めて、同時にサポートも行えるような事業を立ち上げたい」と思っていたので、その事業に役立つ勉強をしたいと思ったんです。ベンチャー企業の職場は、アメリカの予防医学と栄養学、コーチング、心理学を使って健康の相談にのるサポートをするという業務内容だったので、「これは役に立つな」と。3年半で約1500人の方の健康サポートを行い、現在の事業を立ち上げました。
編集者
りょうちゃん
日本の病棟で働かれていた時と大きな差はありましたか?
渡辺さん
アメリカのベンチャー企業といっても、勤務地は日本で、日本の方向けのサポートを行っていたのですが、アメリカの知識で診ることと、在宅で働くことができたのは大きな違いでしたね。
編集者
クラミー
在宅!アメリカでは看護師の在宅ワークは主流な働き方なんですか?
渡辺さん
最近出てきた働き方で、世界各地の在宅で働きたい医療従事者と企業がアプリでマッチングをして、企業から仕事の依頼がくるんです。
編集者
りょうちゃん
知らなかったです。“在宅”という勤務形態も選べる時代なんですね!
編集者
クラミー
海外のベンチャー企業の職場で、何か今後の仕事の〈原動力〉になったような出会いはありましたか?
渡辺さん
そうですね、私の働いていたベンチャー企業はダイエットアプリを開発していた企業だったのですが、途中でメンタル面のサポートをアプリに加えるプロジェクトが始まったんです。その時に、日本のトップをやらせていただくことになり、メンタル面から食事を変えてゆくことに着手をし出したことが、私にとってすごく良いキッカケでした。
編集者
りょうちゃん
メンタルとヘルスが、ダイレクトに繋がったんですね。
渡辺さん
はい。過去に私自身のメンタルが落ちていたこともあったので、「上に立っていいのだろうか」といった考えもありながら引き受けたのですが、結果的に本当にいい経験になりました。
編集者
クラミー
その頃の経験が、今の渡辺さんの事業にも役立っているんですね。では、上に立たれてみて、何か苦戦したことはありましたか?
渡辺さん
苦戦したことは、貧血から元気になったタイミングで、今度は落ち込めなくなってしまったことですかね。聞こえはいいものの、実は「落ち込めない」って大変なことで。本気で悩んでいた時に遺伝子検査をしたら、私はどうやらポジティブな遺伝子を持っていたらしく(笑)。そこでやっと自分に納得できて「これが本来の私なんだ」と、上に立つ決意ができたんです。
編集者
りょうちゃん
うつ状態だった時の渡辺さんは、遺伝子レベルで渡辺さんの本来の姿じゃなかったってことですね。
渡辺さん
そうなんです。私が「貧血だよ」と最初に言われたのは中学2年生の時だったのですが、その頃から割とうつな状態が続いていて。遺伝子よりも栄養不足の方が影響力が勝るのだと気づかされました。
編集者
クラミー
渡辺さんの活動のモチーフになっている“ハイヒール”。すごく素敵だと思いました。
渡辺さん
ありがとうございます。4年前、事業立ち上げの際に、「私の目標としているところには、自分だけの力じゃ辿り着けない」と考えて、人を集めていくために何かマークが必要だと思ったんです。
編集者
りょうちゃん
まさに「毎日を生き抜く女性」の象徴的なモチーフですよね。たくさんの女性と関わられてきた渡辺さんから、今、仕事や生活に悩んでいる女性に何か伝えたいことはありますか?
渡辺さん
自分の悩みの原因を諦めないで探して欲しいと思います。女性ってどうしても生理前後のPMS(※1)などの影響で、イライラや落ち込む気持ちを感じやすいじゃないですか。
編集者
クラミー
ようやく最近になってPMSといった言葉を一般的に聞くようになりましたもんね。
渡辺さん
そうなんです。ただ、PMSって一種の症状なのに「しょうがない」と、諦めて我慢される方が多いのが現状で。そういった方たちにこそ、お金をかけることなく、食事から解決できる方法を味方につけて欲しいな、と思います。解決策は薬だけでなく、もっとたくさんあるのだということを知って欲しいですね。
編集者
りょうちゃん
渡辺さんがSNSでの情報発信をされるうえで、何か気をつけていることはありますか?
渡辺さん
まず第一に、発信する時に確実に根拠を置くことを意識しています。実際に今まで発信している情報は、論文か書籍か症例か、いずれかのソースがある情報です。
編集者
クラミー
情報が溢れる時代、根拠の分からない投稿もたくさん目に入りますもんね。
渡辺さん
そうなんですよね。私自身、調子が悪かった時にすごく困ったんです。「どれが正しくて、どれが違うの!?」と(笑)。助けを求めて情報を探しに来ている方が多いからこそ、正しい情報だけを伝えたいと思っています。
編集者
りょうちゃん
それができるのは専門職の方の特権だと思います。情報を見る側としても、安心感がありますし。
渡辺さん
そう思っていただけていたら嬉しいです。もっともっと分かりやすく、皆さんが知りたい情報を発信していけたらな、と思います。
編集者
クラミー
最後に、渡辺さんの今後の展望を教えてください。
渡辺さん
すごく壮大な目標なのですが、私がおばあちゃんになるまでに、健康診断でフェリチン(※2)を測定することがスタンダードになればいいな、と。今は病院で「測定したいです」と、自ら言わなければ測定されない名目なので。
編集者
りょうちゃん
確かに、健診で数値として出てくれたら、一発で自分が鉄分不足だと認識できますもんね。
渡辺さん
そうなんです。実際、少しずつですがフェリチンの測定をスタンダードにするための活動をしているドクターも増えてきていて。そういった具体的な動きを医師会などがしてくれるように、私はここで、女性向けに情報を発信して理解を深めてもらう活動をしっかり行っていきたいと思います。
【インタビューに答えてくれたのは…】
貧血相談カウンセラー/看護師・保健師
貧血女子のたまり場 代表 渡辺 綾さん
1991年生。看護師、保健師、予防医学士(取得中)、貧血相談カウンセラー。
病棟看護師、アプリベンチャー企業での経歴を得て、
2019年より「貧血」をテーマにInstagramでの情報発信、
個別カウンセリング、コミュニティの運営やセミナー講師として活動中。
Instagram(https://www.instagram.com/tamu_hinketsu_soudan/)
【注釈】
※1:PMS・・・Premenstrual Syndrome(月経前症候群)の略。月経前=月経前の3〜10日の間に続く精神的、身体的な症状で、月経が始まるとともに症状がおさまったり、なくなったりするもの。
※2:フェリチン・・・細胞内で鉄と結合することにより鉄を保存し、必要なときに鉄を放出する鉄結合性タンパク質の一種。貯蔵鉄。