対談インタビュー
人をつなぐ〈架け橋〉として輝く。信頼関係を大切にする訪問診療の同行ナース
今回インタビューにお答えいただいたのは、フリーランスの薬剤師として活動しつつ、薬局のコンサル業務を行う高原愛さん。なぜ、フリーランスという働き方を選んだのか、から、自分時間を大切に新たなキャリアを築こうと歩まれているお話まで、たっぷりとお伺いしてまいりました。
編集者
クラミー
現在の高原さんのお仕事内容を教えてください。
高原さん
現在フリーランスの薬剤師として、様々な企業において薬剤師業務を行ったり、客観的視点から経営アドバイスや薬剤師の育成を行っています。将来的にいま以上にコンサルティングを行っていきたい思いと、経験から基づく教育的なジャンルの活動も視野に入れているので、その経験値を貯めているところです。
編集者
りょうちゃん
コンサルティングというと、具体的にはどのようなところをフォロワーアップされるのですか?
高原さん
薬剤師さんだけでなく、薬局で働かれているスタッフさん、テクニシャンの方に「今後生き残っていくために、どういったことをしなければならないのか」や「どんな心持ちで患者さんと接して欲しいか」などを、経験をもとにお伝えしていきます。
編集者
クラミー
薬局経由でなく、いままで出会った薬剤師の方から相談を受けることも?
高原さん
業務以外でもこれまで出会った薬剤師さんや経営者の方たちから相談を頂くこともあり、可能な範囲でお答えしたり助言を行っています。
編集者
りょうちゃん
なぜ、フリーランスという働き方を選ばれたのでしょうか?
高原さん
私は徳島県の出身で、大学を卒業して最初に就職したのは地元の企業だったんです。はやい段階で管理薬剤師を任されるようになり、薬局の支店長のような役割で5年ほど働くなかで、無菌調剤室(※1)で点滴を作る業務や、スタッフの指導・育成、講演会などもさせていただくことが増えてきて。成功も失敗もいろいろな経験をして、薬剤師としての実績を積ませていただきました。ある時、自分が培ってきた経験をひとつの会社だけでなく、広い視野で他の薬剤師の方や薬局の力に使えたらいいな、と思ってフリーランスの道を選ぶことにしました。
編集者
クラミー
地域は限定されることなく、いろいろな場所で働かれているのですか?
高原さん
そうですね。この1年間は、依頼があった地域に伺っています。その場所でプレイヤーとして業務をしながら、経営のアドバイスやスタッフ育成などの業務も並行してやっていることが多いです。
編集者
りょうちゃん
フリーランスの薬剤師も、患者さんの処方箋の情報と照らし合わせて、お薬をお渡しするという業務は変わらないものなのでしょうか?
高原さん
基本的には変わりません。海外では『テクニシャン制度』(※2)という制度が確立されていて、この制度が日本にも導入されると、薬剤師は本来しなければならない“患者さんとのコミュニケーション業務”に注力することができるようになるんです。フリーランスの薬剤師は人手が足りないところに行くことが多いので、『テクニシャン制度』が導入されたとしても、その環境のなかで働くことは難しいかもしれないのですが、いずれはコミュニケーションのための指導なども行っていけたらいいな、と思っています。
編集者
クラミー
ご自身が現場をまわしながら、経営などのアドバイスもできる…薬局にとっては頼もしい存在ですね!
編集者
りょうちゃん
仕事はどのようにとってくることが多いのでしょうか?
高原さん
私の場合は紹介を通じて数ヶ月単位での契約や、年間を通しての契約で定期的な訪問を行うことが多いです。お話をいただいた段階で経営者の方にヒアリングや商談を行い、契約を結んだ後に勤務といった流れが主です。また合間には人手不足の薬局にて薬剤師業務を行いながら、薬剤師さんや患者様との新たな出会いや自身の勉強を行っていますし、その他の仕事も行っています。
編集者
クラミー
自分自身でしっかりとスケジュール管理をしなければならないんですね。ご紹介になってくると、高原さんのお人柄も大きく影響している気がします。
高原さん
そう言っていただけると嬉しいです(笑)。基本的に恐れがなく、チャレンジ精神だけがあるタイプなので、外交向きなのかな、とは思います。
編集者
りょうちゃん
フリーランスはもちろんのこと、よく、薬剤師自体にも〈コミュニケーション能力〉が求められると伺うのですが、高原さんが対人関係で意識していることがあれば教えてください。
高原さん
まずは“相手を知る”ということが一番大事だと思っています。実はそれって、簡単なようですごく難しいことで。私たちは「患者さんはどういった思いで過ごされているのか」、「どんな食事をとっているのか」など、実際の生活と外に出さない精神状態の両方に目を配らないといけない仕事なのですが、実際に現場に立つとそれどころじゃなくなってしまうことが多いんですよ。
編集者
クラミー
業務に追われて…というお話をよく耳にします。
高原さん
本当にそうで、学生の時は実習などでコミュニケーションを行いながら学ぶことができるのですが、社会に出ると、その学びを適用するのって難しいことなんです。そういった時に、“患者さんへの想い”が、「もっとコミュニケーションをとりたい」と思うキッカケになるんじゃないかな、と思います。
編集者
りょうちゃん
高原さんの仕事への〈原動力〉を教えてください。
高原さん
やっぱり、先ほども言った“患者さんへの想い”ですかね。患者さんが必要としていることを、私の技術を使って助けられた時の感動は大きなものがありますし、「もっと頑張らなきゃ」という気持ちにもさせてもらえるんです。
編集者
クラミー
特に記憶に残っている患者さんとのエピソードはありますか?
高原さん
最初に勤務した企業が県内でも大きな無菌調剤室という設備を整えていたんです。ただ、私がそこを引き継いだ時にはまったく稼働していない状態で。薬剤師の職能の可能性を考えた時に、この設備を使えることが必ず役に立つと思って、周知活動をはじめました。とはいえ、当時はまだ薬剤師が無菌調剤室で輸液を調製できる、ということを知らないドクターも多く、「点滴の調製を薬局に任せるのは怖い」という声もあり、案件に繋がることはなかったんです。
編集者
りょうちゃん
新しくアウトソーシングできる先が増えれば、タイムパフォーマンスは上がるけれど、新しいがゆえに不安は残りますよね。
高原さん
そうなんです。それでも地道に活動を続けていた矢先、大学病院からひとつの依頼がきて。
編集者
クラミー
え!大学病院からですか?
高原さん
はい。依頼内容は、「大学病院の小児科に入院している女の子の輸液を作ってください」というもので。その女の子は稀少な疾患で、輸液を毎日作って、それをその日に使い切る必要がある子だったんです。ミックスされた輸液を使う時に準備すればいい、というわけではなく、その女の子のために作った輸液を毎日自宅に届けに行かなければならなくて。
編集者
りょうちゃん
確かにそれは特殊な依頼ですし、大変な業務ですね。
高原さん
他の薬局でも引き受けてもらえず、うちに話がきたみたいで。当時、その女の子は2歳だったのですが、輸液の問題がネックとなって、生まれてからずっと家族で過ごす時間がなかったらしく、その話を聞いて引き受けることを決めました。いつそういった依頼がきても大丈夫なように準備や勉強をしていましたし、この依頼を引き受けることで自分の薬剤師人生も変わる気がして。結果、その子は半年後に亡くなってしまったのですが、ご家族や医療スタッフの方々から、「あの輸液のおかげで家族で過ごす時間を作れました」というお言葉をいただいたんです。その言葉を聞いて、改めて輸液の調製を薬剤師ができるところまで持ってこないといけないと確信しました。
編集者
クラミー
新たな場所に踏み入れることで、そこで必要とされていること、問題点を感じられたんですね。
高原さん
そうですね。薬剤師をしていると、いろいろな患者さんが元気になった姿を見せに来てくださるんです。「あいさんのおかげでこの子が生まれました」だったり、「あの時はありがとうございました」だったり、そういった患者さんの元気になった笑顔を見ることが、大きな〈原動力〉になっています。だからこそ、もっと薬剤師が引き受けられる業務の幅を広げて、薬剤師業界自体を盛り上げていきたいな、と思います。また、最近では薬剤師やスタッフさん、経営者の方から、出会ったことへの感謝の言葉やLINEを頂くことが多く、それも原動力になっています。出会った人達が自分らしく生きる道標のような存在で居たいと思いますね。
編集者
りょうちゃん
ご自身の目標のために、新たな働き方を実践されている高原さんから、いま転職を悩んでいる方にメッセージをいただけますか?
高原さん
踏み出したことのない場所に踏み出すのは、間違いなく怖いこと。「フリーランスでやっている」と言うと、いい出会いをして明るく仕事をしていると思われることも多いのですが、私自身、いまでも不安を感じることはあります。“かかりつけ薬剤師”という言葉をよく聞くようになった時代のなかで、自分のしていることは違うベクトルを向いているのじゃないか、など。会社員だった時のように仲間がいるわけでもなく、ひとりで闘わないといけない日々が続く働き方ですしね。でも、踏み出したからこそ見える景色、出会える人たち、味わえる感動を考えると、まったく後悔はしていないんです。
編集者
クラミー
ひとりだからこそ、見えるもの、得られるものが必ずありますもんね。
高原さん
本当にそう思います。過去の自分を見直す機会に出会えたり、自分のマインドセットや精神力が鍛えられる場所に出会えたり、「この働き方が私は好きだ」と実感することがとても多いです。考えなしに踏み出すことは絶対にだめ。けれど考え抜いた先の一歩なら、勇気をだして踏み出してもいいんじゃないかな、と思います。
編集者
りょうちゃん
最後に、フリーランスの薬剤師に向いている素質があれば教えてください。
高原さん
自分のなかに何か軸となるものがあって、薬剤師として「自分だからできること」「他とは違う強み」があれば、フリーとしてやっていく素質があると思います。ただ、個人的には、きちんと就職して薬剤師としての経験を積んだほうがいいとは思いますね。
編集者
クラミー
それはなぜですか?
高原さん
まずはいろいろな経験をして、自分は薬剤師としてどのくらいのことができるのかを認識する必要があると思うんです。そのなかで失敗や悩みも出てくると思いますし。それをどう乗り越えていくのか、周りに先輩や仲間がいる環境で学ぶことをおすすめします。「自由になりたいからフリーランスになる」は、あまりにも容易な考え。フリーランスはその職業で自立した先にあるものだということを伝えたいです。私もまだまだ未熟で、もっと向上したいという思いが強く、薬学的な知識だけでなく、経営に対する考え方や、「人」の勉強のために今年は海外にも出向き勉強に行っています。フリーランスとして自分らしく生きていきたいと思います。
【インタビューに答えてくれたのは…】
フリーランス薬剤師 高原 愛さん
1990年徳島県出身
2015年 武庫川女子大学薬学部卒業
同年 徳島県の企業に就職
2021年 退社
同年 個人事業主として独立
【注釈】
※1:無菌調剤室
・・・無菌製剤処理を行うことができる作業室。点滴の輸液を調製する際などに用いられる設備。
※2:テクニシャン(薬剤師助手)制度
・・・アメリカなどの薬剤師先進国で導入されている制度。テクニシャンがピッキングなどを行い、薬剤師は処方監査や服薬指導などの専門性を用いた業務を主にするというもの。