看護師と介護士の連携プレーで成り立つ
訪問医療の現場

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

まず、旭爪さんの仕事内容を教えてください。

旭爪さん

旭爪さん

僕の仕事内容は訪問看護です。病院であれば、入院されていたり、診療に来られたりする方を看護するのですが、僕らはご自宅や施設で生活されている方に対して看護を提供しています。「病院よりも家のほうが過ごしやすい」という方々に、少しでも良い生活を送っていただくための仕事です。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

訪問看護ステーション「すもも」の、グループ会社には訪問介護士さんの会社もあるとお伺いしました。

旭爪さん

旭爪さん

はい。訪問介護士(ヘルパー)さんたちは僕らのような医療処置ではなく、身体介護や生活介護などの部分を担当されています。シャワーやご飯の買い出しと調理など、利用者の方の生活を援助する方たちです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

お互いが協力して、利用者の方の生活を心地いい物にしていくんですね。

旭爪さん

旭爪さん

そうですね。特に僕らの訪問看護ステーションの場合は、訪問看護師とヘルパーさんが関連会社内にいるので、マメな連携をとっています。「看護ではこうだったのですが、ヘルパーさんはいかがでしたか?」と情報を共有したりして。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

具体的には、どういった連携プレーを?

旭爪さん

旭爪さん

例えば、利用者の方がお薬を飲み忘れていらっしゃったとしたら、ヘルパーさんから「今日、この薬を飲むのを忘れていたみたいなのですが、今から飲んでもいいですか?それともスキップしたほうがいいですか?」などの相談を受け、その質問に答えて、利用者さんに伝えていただきます。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

基本的に訪問看護師さんとヘルパーさんはセットで動かれているんですか?

旭爪さん

旭爪さん

利用者さんのお家を訪問する頻度と、全体的な人数はヘルパーさんのほうが多いです。常にセットで動くというよりは、利用者さんの中で医療的な治療が必要な方に対してのみ、看護師が看護を提供するという形になります。量の多いお薬の管理や、お家で病気の治療をされている場合に、僕ら看護師が入って管理していくといったカタチですね。

HCUの現場から、訪問看護の世界へ

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

患者さんがいらっしゃる病院施設とは違い、利用者さんを自分で探しにいかなければならない訪問看護・訪問介護。どのように営業されるのですか?

旭爪さん

旭爪さん

僕らの営業は、とにかく“訪問看護の強み”をアピールしていく、といったもの。24時間対応をしていたり、緊急時に訪問ができたり、そういった部分をアピールしていきます。個人的なことでいうと、僕の場合はHCUなどで重篤な疾患などを診てきた経験があるので、他の施設で断られた患者さんに僕が点滴を投与する場合もあります。そういった、“経験があるからできること”も一つアピールポイントかな、と思いますね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

なるほど。となると、自分たちの強みを知っておく必要があるんですね。ちなみにHCU勤務から訪問看護のお仕事に転職された理由は何だったんですか?

旭爪さん

旭爪さん

看護学生の頃から訪問看護師になりたいと思っていたんです。というのも、訪問看護の現場って看護師が独立できる唯一の場所なんですよね。病院だと看護主任や師長がいるのですが、看護師って夜勤をしないと食べていけない職種なので、お給料の面でいうとその二者は新人の看護師よりも下がるんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

そうなんですか!?

旭爪さん

旭爪さん

はい。夜勤ありきのお給料なので、夜勤のない主任や師長は1年目、2年目の看護師よりもお給料が安くなるんです。そういった、役職がついても安定せず、逆に不安定になるところにずっと違和感を感じていて。そこで、「看護という仕事で生活を安定させてゆくためには、自分でやっていかないといけないな」という気持ちになったんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

その気持ちの芽生えがキッカケに?

旭爪さん

旭爪さん

そうですね。ちょうど僕が訪問看護の分野へいこうと思っていた時に、知り合いがたまたま訪問看護ステーションを立ち上げて、そこで管理者を募集している話を聞いたんです。ありがたいことに僕にその話をくれたので、今の訪問看護ステーションに入りました。

一般病棟以上に
“現場での学び”が必要とされるHCU

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

先ほどもお話に出てきたHCU。一般病棟勤務かHCU勤務かはどのように決まるのですか?

旭爪さん

旭爪さん

一般的には、病院に入職したら最初に「どこの課に配属されたいか」の希望を出すんです。僕は最初に勤務した病院で救急外来を希望し、救急外来とオペ室に配属されました。その後、宮崎の大学病院の救命救急センターで2年働いたのですが、そのセンターの体制がHCUやICU(集中治療室)(※2)を含んだユニット制で、そこの患者さんがいらっしゃる病棟の看護を勤めることになったんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

一般病棟とはまったく違う病棟なんですか?

旭爪さん

旭爪さん

はい。一般病棟とユニット型病棟の2つに別れていて、ユニット型というのは重症者の方が主で、救急で運ばれて経過を見ないといけない患者さんが多いんです。そこで人工呼吸器の管理方法などを学びました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

人工呼吸器管理は、勤務中に業務が必要になったうえで学んでいくものなんですか?

旭爪さん

旭爪さん

一応、看護学生の時に学ぶことは学ぶのですが、看護学校の先生によって使っているモードが違ったり、最新の人口呼吸器のモードを教えてもらわなかったりするので、実際に管理を行う場合は、知識のアップデートと幅広い情報の収集をしないといけないんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

なるほど!身体と違って、あくまで機械ですもんね。そこでの1年の勤務を終えて大阪の病院へ?

旭爪さん

旭爪さん

はい。その頃には年齢や経験を重ねていましたし、宮崎の病院よりも大阪の病院のほうがお給料も高かったので、企業の安定性を求めて大阪行きを決めました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

そこでまたユニット型の病棟へ?

旭爪さん

旭爪さん

僕としては「一般病棟を経験してみたい」と思って、一般病棟への配属希望を出していたのですが、「人工呼吸器を見ることのできる看護師はユニットのほうへ行って欲しい」と言われ、HCUでの勤務が決まりました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

一般病棟とユニットの看護師だと、お給料の差はあるものですか?

旭爪さん

旭爪さん

病院によるとは思うのですが、僕の勤務していた大学病院などでは“危険手当”というものがついていました。ユニット型の病棟では、感染症の治療や、放射線治療に携わることもありますし、重症者の方の場合はレントゲン室へ行くことなくレントゲン写真を撮影しなければいけないこともあるので、どうしても被ばくリスクがついてきますし。そういった業務に対する“危険手当”がプラスされる場合もあります。

新人看護師時代に見た、
忘れられない院長先生の大きな背中

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

さまざまな場所で看護師として勤務されてきた旭爪さんですが、影響を受けた方や、尊敬されている方はいらっしゃいますか?

旭爪さん

旭爪さん

僕が一番影響を受けたのは、看護師1年目に勤務した病院の院長先生です。とにかく患者さんのことを一番に考えられて、ずっと病院にいらっしゃるんです。僕がいた救急では緊急オペが必要な患者さんが曜日関係なくいらっしゃっていたのですが、院長先生がいつも病院にいらしてくださるので、すぐにオペをすることができて。何かあった時にすぐに相談ができる先生でした。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

そんな先生がいてくださったら、安心感がありますよね。

旭爪さん

旭爪さん

そうですね。労働基準法で考えると、あまり良いことではないのかもしれませんが、僕からすると医療者として尊敬できる先生でした。「何かあってもこの先生がいるから大丈夫だ!」そんな安心感をいただいていました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

では、影響を受けた出来事は何かありましたか?

旭爪さん

旭爪さん

一つの出来事ではないのですが、意識のなかった患者さんの目が覚めた時にはグッとくるものがありますね。救命救急センターやHCUの患者さんには意識のない方も多いので、そういった方の目が覚めて、後遺症もなかった時は本当に嬉しかったです。たまにお手紙を書いてくださる方もいらっしゃって。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

それは確かに嬉しいうえに、忘れられない出来事ですね。

旭爪さん

旭爪さん

そうですね。意識レベルの改善が難しいと言われていた患者さんが、退院した話を聞くと、本当に嬉しい気持ちになりますね。

学び、培った経験が、患者さんの改善に繋がる現場

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ユニットの看護師として、大変だったことは何ですか?

旭爪さん

旭爪さん

夜勤などの肉体的な大変さは確かにあるのですが、何かあった時に自分で学んだ知識で患者さんが改善していくと、それ以上にやり甲斐と嬉しさを感じます。それって実は、一般病棟ではなかなか味わえないやり甲斐な気がしていて。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

そこには、一般病棟とのどういった違いがあるんですか?

旭爪さん

旭爪さん

例えば、呼吸状態が改善しない患者さんがいらっしゃったとして、そこで僕たち看護師が呼吸器管理を行うことで呼吸状態が改善することがあったり、肺の解剖生理などを考えながら看護をすると良くなっていったり、自分の力を活かしていけるのはユニットの現場ならではのやり甲斐だと思います。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

大変な業務の中で、勉強を続けられた原動力は何だったんですか?

旭爪さん

旭爪さん

一番は「自分の力で患者さんを良くしたい」という想いですかね。患者さんを常に見ているのは看護師なので、患者さんの些細な変化に気づくことも大切な看護師の仕事。気づいた変化に対して、自分の能力や経験値を活かしていきたい、そのために今でも勉強を続けています。

HCUなどの現場で必要とされる〈線引き〉
訪問看護の現場で必要とされる〈ふれあい〉

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

旭爪さんが思う、ユニットの看護師に向いている人はどんな人ですか?

旭爪さん

旭爪さん

ユニットの看護師の難しいところは「患者さんのことばかり考えていてもダメ」だという点。HCUやICUにいらっしゃる患者さんは、やっぱり重症者の方が多いので、あまりに感情移入してしまうと仕事ができなくなってしまうんです。実際、仲の良かった患者さんが亡くなってしまい、辞めていく看護師もたくさんいますし。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ある程度の線引きが必要なんですね。

旭爪さん

旭爪さん

そうですね。患者さんの情報や、患者さんのことを考えるのはもちろん大切なのですが、それと同時に俯瞰して考えることも大切だと思います。冷静な自分を持っておくことができる人が、ユニットの看護師には向いている気がします。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

お話を聞いていると、同じ看護師でも、訪問看護師のお仕事とは心持ちが違うように感じます。

旭爪さん

旭爪さん

全然違いますね。訪問看護の場合は「患者さんと話す」というところが一番大切なので、コミュニケーションがないと訪問看護は成り立たないんです。患者さんとの信頼関係を築くうえで、“会話のスキル”のある方は訪問看護師に向いているんじゃないかな、と。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

HCUで必要とされるスキルと訪問看護で必要とされるスキル、まったく違うんですね。

旭爪さん

旭爪さん

訪問看護では、患者さんと2時間話すような日もあるので、話を膨らませつつ、聞き上手になることが大切なんです。患者さんの誕生日や好きなモノを覚えておいて、さり気なく会話に入れたりできることは必要とされるスキルだと思います。

看護師は〈信じる〉ことと同様、〈疑う〉ことも大切

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

では、看護師として働くために就活をしている方、看護師になりたいと思っている方に、現場にいる旭爪さんからアドバイスをお願いします。

旭爪さん

旭爪さん

僕が看護師として10年働いてきて思ったことは「疑いを持つことも大事」だということ。例えば、処方されている薬ひとつにしても「この薬はこの処方であっているのかな?」と疑って確かめたり、「この人、いつもより少し血糖が高いよな」と採血のデータをしっかりと確認したり、そういった些細なことに疑いを持つことが大切だと思います。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

指示されたことをこなすだけでなく、自分の目を信じる大切さですね。

旭爪さん

旭爪さん

はい。人を信じるのももちろん大事だけれど、疑うのも大事なんです。そして自分のしたことを絶対に覚えておくこと。誰かにインシデントを疑われた時、「自分は正しい看護を行えていた」と言い切れるように、責任を持って業務をこなしておくことが、いざという時に自分の身を守ってくれるんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かに、自分の身を守れるのは自分だけですもんね。最後に、看護師業界の中で割合的に少ない男性看護師に向けたメッセージをいただけますか?

旭爪さん

旭爪さん

実は訪問看護師って、割と男性の働きやすい現場だと思うんです。力仕事が必要なことも多いですし、利用者さんが倒れたりした時にも一人で対応できますしね。そう考えると、筋トレも必要な気がします(笑)。男性看護師のニーズは必ずあるので、是非、男性看護師の方とも一緒に働いていきたいです。男性看護師と女性看護師、お互いの強みを活かしながらチームで仕事を築いていきましょう。

【インタビューに答えてくれたのは…】

大阪府・訪問看護ステーション「すもも」
管理者・看護師 旭爪 涼さん

【経歴】
22歳 大学卒業
22歳〜 就職
1〜4年目:救急
5〜6年目:消化器外科病棟
7〜9年目:HCU
転職 訪問看護ステーション

【注釈】
※1:HCU(高度治療室)・・・「High Care Unit」の略称で、患者4人に対して1人の看護師の配置基準が設けられた治療室。一般病棟での看護が難しい状態の患者を対象としている。
※2:ICU(集中治療室)・・・「Intensive Care Unit」の略称で、集中治療が必要な重症患者を受け入れる病棟。患者2人につき看護師1人の配置が基準。