対談インタビュー
人をつなぐ〈縁〉と〈愛〉を大切に。未来への布石を打ち続ける薬局薬剤師
今回インタビューにお答えいただいたのは、株式会社アクアメディカルの代表・川端篤さん。会社では調剤薬局を始めとして、介護施設や訪問看護事業の運営を行われています。薬剤師として現場に立っていた川端さんが起業を選んだ理由や、会社を経営するにあたっての従業員に対する想いのほか、独立や副業を検討されている方へのアドバイスなどをたっぷり伺ってまいりました。
編集者
クラミー
現在の仕事内容について教えてください。
川端さん
調剤薬局のほか、介護施設や訪問看護事業の運営を行っています。
編集者
りょうちゃん
最初はどの分野から展開されたのでしょうか?
川端さん
薬局です。10年前に起業した際は既存の薬局で薬剤師として3年ほど勤務していて、その後自分の手で店舗展開を開始しました。年2店舗ずつくらいのペースでオープンしていって、現在は三重と岐阜で全15店舗の薬局を運営しています。介護施設は4年前から、訪問看護事業は3年前から運営を始めました。
編集者
クラミー
元々、川端さんが起業した理由は何だったんですか?
川端さん
この先も調剤薬局で薬剤師として働き続けるキャリアについて考えたとき、調剤薬局のエリア長などの管理職に進む道と、独立する道の選択肢が浮かび上がりました。「仕事の幅を広げていきたい」という想いを元々抱いていたため、自分なりの薬局を作ってみたいと志すようになり、最終的に独立を選びました。
編集者
りょうちゃん
川端さんが理想として思い描いていた薬局像はどのようなものだったのでしょうか。
川端さん
患者さんへのサービスをより強化した薬局です。企業の中でいち従業員として働いているとどうしても企業の方針が優先されるので、自分の理想像があるならば独立したほうがいいのではないかと考えました。患者さんに気に入っていただいて、頻繁に足を運んでもらえるような薬局を作ることができれば、結果的に自分が興した会社の成長にも繋がるはずです。
編集者
クラミー
独立時に特に苦労したことは何でしたか?
川端さん
元々従業員として働いていた店舗を引き継いだ形でのスタートだったので、業務内容自体はそれまでと変わらなかったんです。ですが、私のほかに薬剤師が1人と、事務員も2人いたので、従業員の皆さんを自分が雇用しているという立場の変化にはプレッシャーを感じました。
編集者
りょうちゃん
そこからどんどん会社を大きくされてきて、現在はトータルでどれくらいの従業員がいらっしゃるのでしょうか?
川端さん
120人くらいですね。
編集者
クラミー
立時のおよそ30倍もの人数を束ねているんですね…!会社を大きくしていくうえで、これまで大切にされてきたことは何かありますか?
川端さん
「もう1つの家族」というのを会社のモットーとして掲げておりまして。働いていると、家で過ごす時間よりも仕事に費やす時間のほうが必然的に多くなります。自分の時間の大半を占めることになる会社でただ単に仕事をするだけではなく、「ここで良かったな」と職場にいる意義を感じてもらいたいと私はずっと考えてきました。
編集者
りょうちゃん
ちなみに、従業員さんとの関係性を構築するために特に心がけていることは何ですか?
川端さん
会社はあくまで「人」であると同時に「私自身」でもあるということは忘れないようにしています。従業員の皆さんは私を選んで会社に入ってきてくれていると考えているので、どれだけ会社が大きくなってもコミュニケーションは疎かにしたくありません。いまの会社の規模だと、どうしても従業員1人ひとりと接する時間は少なくなってしまいますが、いつでも連絡を取れるような体制は整えておくようにしています。
編集者
クラミー
人と人のつながりをずっと大事にされているんですね…!
編集者
りょうちゃん
この媒体の読者には今後面接に臨まれる方が多くいらっしゃるのですが、面接を受けるうえでのアドバイスをぜひ教えてください。
川端さん
先ほどもお話したように、長い時間を過ごすことになる会社は生活の一部になっていくものなので、ご自身のやりたいことや希望しているものと、会社が従業員に与えるものや全体の雰囲気がいかにマッチするかが肝だと思います。なかなか面接の場だけで会社の全体像を掴むのは難しいかもしれませんが、少なくとも中小企業であれば、そこで働く社員の雰囲気に会社の色がそのまま出ています。教育制度や設備の充実度、給与面や待遇面なども大事ですが、1人の人として合うかどうかが一番重要です。
編集者
クラミー
面接を受ける側だからといって決して受け身になるのではなく、会社の雰囲気を能動的に察知する必要がありますよね。
川端さん
そうですね。近年は転職の動きが活発化していますが、基本的に入社したらしばらくの期間はそこで働くことになるので、自分が仕事をする姿をイメージしながら会社側とコミュニケーションを取ることを面接の場で意識するといいのかな、と。
編集者
りょうちゃん
川端さんは、面接をされるときにどういった所をよく見ていますか?
川端さん
私の会社はほぼ中途採用なので、面接に来られる方は自分のなりたい薬剤師像をある程度しっかり持っています。介護士などの他の職種に関しても同様です。そのため、会社から細かく指示を出したりマニュアルを用意していたりというよりかは、従業員の皆さんがやりたいことをバックアップするスタンスを社の方針としています。もちろん、入社後にしっかり勉強したい方には研修などのサポートを行いますし、かたや家庭を持っていてプライベートの時間を大事にしたい方にはそちらを優先してほしいと思っています。
編集者
クラミー
では面接の際は、求職者の方が理想とする働き方を遠慮せずに伝えてもらったほうが、お互いにとって齟齬がなくなるということですね。
川端さん
そうですね。素直な想いを話していただかないと、本当に会社と合うのかどうかはわからないと思います。同じ調剤薬局だとしても会社によって考え方はまったく異なってくるので、面接に来られる方がなりたい姿ややりたいことに特に注目しています。
編集者
りょうちゃん
これまでのご経験を踏まえたうえで、今後独立を検討されていたり経営者を目指されていたりする方へのアドバイスをお願いします。
川端さん
まさに私の会社でも独立支援を行っているのですが、独立をしたいと思っていても実際に行動に移す方は多くないのが現状です。会社には現在30名ほど薬剤師がいるものの、まだ1人も独立はできていません。勤続年数によっても変わってくるかと思いますが、1つの場所である程度の期間働いていると気持ちが落ち着いてきてしまうのかもしれませんね。
編集者
クラミー
なるほど。独立の意識があったとしても、それを本当に実現させるかどうかとなると話が少し変わってくるんですね。
川端さん
そうですね。介護士や看護師だとそもそも独立はしづらいのかもしれませんが、薬剤師は比較的独立しやすい職種だと思います。「こういう薬局を作りたい」「こういう薬剤師になりたい」という想いが強ければ強いほど、独立したほうが夢を叶えやすくなるのではないでしょうか。何よりもまずは、経験を培うことが大事ですね。
編集者
りょうちゃん
最近は特に起業ブームの傾向が見られ、勢いで飛び込む方が決して少なくない印象も受けます。起業するにあたっては、勉強や経験をしっかり肥やしておくことはマストでしょうか。それともある種の勢いも必要でしょうか?
川端さん
薬局開業においては、経験はある程度積んでおいたほうがいいです。また、1つの場所だけではなく2〜3ヶ所見ておいたほうがより参考になると思います。独立を検討されている方は、ただ単に従業員として勤務するのではなく、独立の視点を常に持ちながら働くことをおすすめします。独立しないにしろ、薬剤師として職能を発揮したいのであれば、仕事に対する想いを強く持っておいたほうがやりがいや充実感を感じられると思います。
編集者
クラミー
起業のほか、最近は副業に注目している方も多いと思います。このようなマルチな働き方について、川端さんはどう思われますか?
川端さん
収入を増やすことを目的とされているのかもしれませんが、薬剤師や看護師などの場合、例えばYouTubeチャンネルを立ち上げて情報発信をしたり、コミュニティの中でイベントや講演などを行ったりなど、幅はあるといえどすぐにお金にはならないと思います。何よりもまずは本業でしっかり経験を積むことを忘れてはいけません。地に足つけて着実に経験を重ねると、それが自然と周囲に広がって知名度が上がっていくこともあります。
編集者
りょうちゃん
本業において専門性を高めていった方が、キャリアアップの道が開けていくようなイメージでしょうか?
川端さん
そうですね。一番は、自分が持っている柱や軸を大事にすること。そのうえでコミュニティを増やしたり、情報発信にチャレンジしてみたりすると、本業に還元できるものがまた生まれてくることはあると思います。特に薬剤師は他の職種よりも独り立ちしやすいので、自身の頑張りようで収益を増やすことはできると私は考えています。
編集者
クラミー
薬剤師と経営者、「こんな人だったら向いている」といった素質についてそれぞれ教えてください。
川端さん
医療サービスなので必要な知識を深めていくのはもちろんですが、それを目の前の患者さんに届けられる人がまず薬剤師に向いていると思います。それぞれの患者さんが抱えている問題を解決し、「大丈夫ですよ」と安心を与える職業が薬剤師です。安心を裏付ける知識と経験をしっかりつけたうえで、患者さん1人ひとりと誠実に向き合ってほしいです。
編集者
りょうちゃん
ありがとうございます。では、経営者についてはいかがですか?
川端さん
医療業界においては、経営者であっても患者さんを大事にするのは変わりませんが、抱えているスタッフや取引先の方々など、人とのつながりが従業員のとき以上に増えていきます。経営といっても、相手はすべて「人」。対等な関係を築いていくためには、相手の希望することをいかに汲み取って応えていくかが非常に重要です。
編集者
クラミー
現場に立っていなくとも、コミュニケーションが要であるのは経営者も同じなんですね。
川端さん
そうですね。従業員を雇ったりするとさまざまな困難にぶつかることもあるかと思いますが、どんな問題からも逃げずに立ち向かい、乗り越えていこうとする気概があれば会社を運営していけると思います。恐れず挑戦できる人であれば、経営者に向いているのではないでしょうか。
【インタビューに答えてくれたのは…】
川端篤(かわばた・あつし)様
株式会社アクアメディカル(三重県)
薬局経営者
1983年生まれ(40歳)
薬剤師免許保有
HP:https://aquamedical.net
2006年 国立金沢大学薬学部 卒業
2006年 株式会社ジップドラッグ 入社
2009年 一般社団法人三重県薬剤師会 入会