病院看護師から
訪問看護・介護の世界へ

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

まず始めに、現在に至るまでのお仕事の経歴について教えてください。

黒田さん

黒田さん

看護学校を卒業した後、病棟で6〜7年ほど看護師として働いていました。その後出産・育児で10年ほど仕事から離れていたのですが、また看護師として病院に復帰しました。ただ、子育てとの両立がなかなか難しいこともあり、その後療養型の病棟を知人から紹介されて。そこでしばらく働いたのち、今度は訪問看護の仕事を始めました。ただ、やっていくうちに自分の手で事業を立ち上げたいと思うようになり、経営者である今に至ります。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

途中でお仕事を休まれたり、分野が変わったりはしても、ずっと看護の道を歩き続けてこられたんですね。

黒田さん

黒田さん

そうですね。現在は看護・介護両方の側面を持って、訪問看護ステーションや介護施設など、複数事業を展開しています。

子を持つ母親ならではの
キャリアの苦労

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

出産や育児による長いブランクを経ての仕事復帰という点は、多くの女性が気になるポイントだと思います。ぜひこの辺りのお話を詳しく伺いたいのですが、お子さんができたのはいつ頃だったんですか?

黒田さん

黒田さん

27歳のときに1人目ができました。実は、育休明けで一度職場に戻ったことはあったのですが、子どもはどうしてもすぐ熱を出すので、仕事を抜けなければいけない状況が多々あって。周りの同僚は「仕方ないよ」と優しくフォローしてくれたのですが、それでも迷惑をかけているのは事実だったので、やっぱり復帰はやめようと思ってそこで身を引きました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

小さいお子さんを持つ働くお母さんならではの悩みですよね。

黒田さん

黒田さん

そうですね。そしてその後、2人目を授かりまして。その子が2歳を迎える少し前、私は39歳だったのですが、「40歳になる前には一旦仕事に戻りたい」と思うようになり、ここで10年ぶりに現場に戻りました。ただ、いざ戻ってみると10年というブランクに打ちのめされてしまって。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

と、言いますと?

黒田さん

黒田さん

結婚前は、現場でそこまでパソコンの導入が進んでいたわけではありませんでした。ただ、10年の間に状況が大きく変わって、久しぶりに現場に戻ってみると当たり前のように電子カルテが使われていたんです。ブランク期間が長いので、教育体制が行き届いている総合病院を選んで看護師に戻ったのですが、人材不足などもあってなかなか思うように仕事がこなせなくて苦労しました。それでも夕方には子どものお迎えに行かないといけないし、次第に子育てとの両立が物理的に厳しくなって、その病院は辞めることになりました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

仕事は頑張りたいけれど子どものことを放っておくわけにはいかない、歯がゆいジレンマですね…。

黒田さん

黒田さん

その後知人から、「病院よりも緩やかに働けると思うよ」と、療養型病棟のような場所を紹介されて、そこでは7年くらい働いていました。ただ、ここのオーナーさんが亡くなったため、最終的に病棟を閉じることになって。訪問看護の仕事を始めたのは、その後のことです。

〈思いやり〉を大事に。
〈お互い様〉の精神で仕事に臨む

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

仕事復帰を考えているお母さんたちに向けた「こんな心持ちでいてほしい」といったメッセージを、経験者目線でぜひお聞きしたいです…!

黒田さん

黒田さん

一言で言うなら、〈思いやり〉の気持ちを大事にしてほしいな、と。看護師はシフト制の職場が多いと思うのでこれを例に挙げると、子どもがいるとどうしても出勤できない日や時間帯があると思います。ただシフトの相談をするときは、「この日は出れません」だけではなく、「この日出れない代わりに、別のこの日には出ます」「この前ここでお休みいただいたので、次の大型連休は私出ます」など、他の所でカバーしようという気持ちを積極的に見せたほうがいいです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

「子どもが小さいから仕方ない」と優しくしてくれる同じ職場の方々も、より気持ちよく仕事ができるかもしれませんね。気遣いの大切さが窺えます。

黒田さん

黒田さん

そうなんです。シフトの件以外でも、たとえばコールが鳴ったら誰よりも早く取るとか、医師の先生の指示を誰よりも丁寧に拾いに行くとか、そういった心がけを私自身大事にしてきました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

子持ちの方と子なしの方が同じ環境で仕事をしていると、どこか不和や歪みが生まれてしまう状況はどんな業界でも起こり得ることだと思います。思いやりの積み重ねは、そういった状況を防ぐことにもつながりますよね。

黒田さん

黒田さん

そうですね。お母さん側は、子どもがいるからと疲弊しすぎる必要もないし、逆に、子どもがいるから融通効かせてくれるのは当たり前とも思ってほしくはありません。「お互い様」の精神が大事なのではないでしょうか。

訪問看護師としての悔しさが
開業のスイッチに

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

自らの手で訪問看護の仕事をやろうと思ったキッカケは何だったんですか?

黒田さん

黒田さん

まず最初の所からお話させていただくと、私は元々病院や療養型病棟で看護師として長く働いてきましたが、同じ看護師といっても、訪問看護は自分にとってはまったく知らない世界でした。でも、だからこそ興味を持ったんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

長いブランクを感じさせない、バイタリティの強さがとても伝わってきます…!実際に訪問看護の仕事をやってみて、どんなことを感じましたか?

黒田さん

黒田さん

訪問看護は、24時間体制を取っている所とそうではない所の大きく2つに分かれるのですが、私が働いていた場所は24時間体制ではありませんでした。ただある日、寝たきりの娘さん(利用者さん)を持つお母さんから連絡があって。24時間体制ではないので、普段なら連絡が来ることがないはずの時間帯だったのですが、たまたま以前そのお母さんとLINEを交換していて、「おしっこが出ない、どうしたらいい?」とメッセージが届いたんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

その後黒田さんは、お2人のご自宅に?

黒田さん

黒田さん

行きたい気持ちは山々だったのですが、上長の管理者に連絡したら「うちは24時間対応の訪問看護じゃないから、行かないで」と止められてしまいました。この経験がどうしようもなく悔しくて、だったら自分のやりたいようにできる訪問看護を自分で立ち上げようと思ったんです。

自分が作りたい施設を自ら実現
仲間の存在も熱いエンジンに

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

現在は介護施設も運営されていますが、こちらはどのような経緯で?

黒田さん

黒田さん

施設に関しては、成り行きで関わる機会が増えていったのがキッカケでした。訪問看護は一般のご家庭に1軒1軒伺う形ですが、それの施設バージョンで同じ仕事をすることが多々ありました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

確かに、老人ホームなどにおいても訪問看護の需要はかなり高そうですよね。

黒田さん

黒田さん

そうなんです。「じゃあこの人も見て」「それからこの人も」とどんどん依頼が増えて。ただ、施設といっても、そこに入っている方々にとっては日常生活の場であり、言わば「家」です。「もうちょっとこんな風にしてあげたらいいのに」と、看護の目線から施設運営に対して思うことが出てくるようになって、ここでもまた「それなら自分で作ろうかな」と思ったんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

多数の方が入居される施設を作るとなると、それ相応の資金が必要になってくるのでかなり勇気のいる決断だったのではと思うのですが、そこに踏み切れた原動力は何だったんですか?

黒田さん

黒田さん

決して1つではなく、いくつかの要素が組み合わさって原動力につながっていったのかなと思います。まず医療職はどうしても、国の制度が変わるごとに左右されやすい仕事だなと前々から思っていて。だからこそ、自分の“ハコ”を持っておきたくなりました。それから、先ほどの訪問看護の話にも通ずるものですが、施設においても看護師を24時間常駐させるべきだと思っていたので、それを自ら実現しようと。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

「こうなったらいいのに」という理想を、理想のままで終わらせないのはすごいです…!

黒田さん

黒田さん

子どもたちに遺せる場所を作りたかった、というのも1つの理由ですね。それから、事業を始める際は仲間も一緒だったので、彼らを路頭に迷わせるわけにはいかないという想いもエンジンになりました。ついてきてくれて、頑張ってくれているんだから、そんな彼らの生活だけは守らなければ、と。

「自分の親だったら」と想像して。
相手への配慮は1つひとつの所作に滲む

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

経営側の黒田さんは面接の経験なども豊富かと思いますが、人を雇う際に大切にしているポイントについて最後に教えてください。

黒田さん

黒田さん

正直、面接は基本的に全員が完全武装で臨んでくるので、なかなか判断が難しい所があるんです。それもあって、私は面接含め、新しく入職してきた人には厳しく接することを心がけています。きちんとした身だしなみやあいさつはまず最低条件。それからここでも、〈思いやり〉をちゃんと持って仕事をしているかどうか、細かくチェックします。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ここでの〈思いやり〉と言いますと?

黒田さん

黒田さん

主に、利用者さんに対する姿勢です。たとえば「右向きますよ」と声かけするにしても、優しく手を添えるのか、それともただ作業のように身体の向きを変えさせるのか。思いやりの有無はそういった所作にかなり滲み出ます。おむつ交換も、何も気にせずさらけ出したまま作業するスタッフを見つけたら、私は必ず怒ります。いくら身体の自由が効かない相手といっても、たとえばバスタオルをかけてあげるなど、そういった配慮を欠かしてはいけません。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

思いやりがあるかどうかで、きっと利用者さん側の感じ方も変わってきますよね。

黒田さん

黒田さん

そうですね。ただ、スタッフを見ていると〈思いやり〉が足りていないと感じる場面がよくあります。だから彼らに対して、「自分のお母さんがもし同じように身体の自由が効かなくなったとして、人から雑に服を脱がされてオムツ替えされたらどう思う?」と私は問いかけたいです。きっと、自分の親と仮定すればより自分ごととして捉えられて、「嫌だ」と思うはず。その気持ちを、すべての利用者さんに対して持ってほしいと私は思っています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

インタビューを通して〈思いやり〉というワードがたくさん出てきましたが、これは人と人が接するうえでの最も根本的な部分になってくるのかもしれませんね。

黒田さん

黒田さん

はい、とても大事だと思います。ちょうどこの間も、急に「怖い」と繰り返し叫び出した利用者さんがいたのですが、たとえ仕事をする手が止まってしまうとしても、まずは目の前の利用者さんを優先させました。時間はないけれども話を聞いてあげて、「怖いんだったらこのままここで一緒に寝よう」と気持ちを落ち着かせ、隣で手を握りながら横になったらそのまま寝てくれました。これと同じことをしてほしい、というわけではありませんが、それくらいの心持ちを意識してほしいな、と。仕事をこなさなければと時間に追われる気持ちもわからなくはないけれども、看護師を目指し始めた頃のホスピタリティの精神は忘れないでいてほしいです。

【インタビューに答えてくれたのは…】
黒田千尋さん
看護師/訪問看護・介護施設経営
株式会社NBCナーシングサポート代表取締役
看護師/グループホーム・サポーティブハウス・有料老人ホーム・訪問看護運営
https://www.nbc2015.com