対談インタビュー
患者1人ひとりに寄り添い、負担を軽減。再生医療の力を信じ続ける整形外科医
今回インタビューにお答えいただいたのは、芦屋楓鍼灸院 院長の宮川氷治さん。鍼灸師として宮川さんが担われているさまざまなお仕事や、業界全体の今後の発展に対する特別な想いについて伺いました。また、経営者として求める人材や、転職を考える際の心持ちについてもアドバイスをいただきました。
編集者
クラミー
まず最初に、宮川さんの現在の仕事内容を教えてください。
宮川さん
鍼を使い、身体の不調の治療や美容の手助けをする鍼灸師の仕事をしています。ただ、鍼と一言で言っても、いろいろな目的がありまして。肩こりや腰痛といった体の悩みに対する鍼や、最近だと美容にアプローチする美容鍼であったり、高齢者など、ご自宅で寝たきりの方の元へ訪問して治療を行うものもあります。私の院で行っているのはこの3つです。
編集者
りょうちゃん
3つそれぞれの比率は大体どれくらいなのでしょうか。
宮川さん
スタッフが計10人いまして、5人ずつで分かれて動いています。体や美容に関する鍼を院内で行うスタッフが5人、1日、院の外に出て訪問治療を行うスタッフが5人という形です。そういう意味では、院内・院外での治療がおおよそ半々になります。
編集者
クラミー
なるほど…!訪問治療も行われているんですね!今の院長のお仕事は12年やられているとお聞きしました。それ以前は他の場所でお仕事をされていて、その後独立された形なのでしょうか。
宮川さん
はい、そうです。ちなみに、鍼灸院って行かれたことありますか?
編集者
りょうちゃん
実は行ったことがなくて…。
宮川さん
そうなんですよね。鍼灸院に行ったことがない方って結構いるんです。接骨院はどうですか?
編集者
クラミー
接骨院ならあります!
宮川さん
そうですよね。多くの方が同じようにおっしゃるんです。整骨院に比べて鍼灸院自体の数が少ないので、自ずと求人も少なく、院長が1人で切り盛りされている鍼灸院がほとんどになるんですよ。要は何が言いたいかというと、最初は鍼灸院ではなく、院数や患者数が多い接骨院で働き始める鍼灸師が多いということ。私も、専門学校を卒業して、21歳で鍼灸師の資格を取ってからは尼崎の接骨院にまず就職しました。
編集者
りょうちゃん
そうだったんですね…!そこでは鍼治療に携わっていたのでしょうか。
宮川さん
はい。その接骨院は1日に300人くらい患者さんが訪れるような場所で、鍼を通して多くの方を診てきました。大体そこで2年くらい働いて、23歳の時に独立したんです。最初は訪問診療からのスタートで、自分の家を拠点として、高齢者のご自宅や施設などを回って治療を行っていました。その後、今の芦屋楓鍼灸院がある場所に空きが出て、改めてオープンした形です。それが12年前の話ですね。
編集者
クラミー
美容鍼という言葉を耳にし始めたのは、ここ4〜5年のような気がします。12年前から比べると鍼自体もどんどん進化してきていると思うのですが、宮川さんご自身が美容鍼を取り入れようと思ったキッカケは何だったのでしょうか。
宮川さん
厳密に言うと、美容鍼というジャンル自体は私が開業した時からあったんです。昔、介護事業を展開している会社を作っていたことがありまして。その事業を辞めるタイミングで、美容鍼の可能性を大きく感じたことがあったんです。実際に勉強してみて、さらには自分自身も美容鍼をやってみたらとても効果を感じました。そこから本格的に美容鍼を仕事として始めていった形ですね。
編集者
りょうちゃん
美容鍼の可能性については、具体的にどのようなキッカケで実感されたのでしょうか?
宮川さん
当時、自分自身も介護業務を日々行っていたのですが、かなり疲弊していて。顔にたくさんブツブツができてしまっていたんですね。10年くらい前の話ですが、今よりもかなり老け込んでいました。そんな時に鍼を打ってみたら、肌のトーンが上がったり、クマが薄くなったり、目も開きやすくなったりと、みるみるうちに変化が出てきたんです。そして次第に、もっと多くの人々に鍼の効果を実感してほしい、喜んでほしいという思いが自分の中で大きくなっていきました。悩みを解決できたという自分自身の体験が、美容鍼を本格的に始めようと思った理由ですね。
編集者
クラミー
確かに、お肌がとても綺麗ですよね…!
宮川さん
ありがとうございます(笑)。周りの人からも、「何かやったの?」「若返ったね!」と言われることが実際に多くて。自分自身も美容についてだんだん意識し出すようになって、美容には大きな可能性があるという考えに変化していきました。意識を正しい方向へしっかり向けていければ、おそらく人はいつでも綺麗になれるし、状態も良くなっていくと思うんです。予防という意味でも鍼の効果は高いです。そのあたりの意識の変化は、やっぱり自分の経験による影響が大きいと思いますね。
編集者
りょうちゃん
宮川さんご自身が実際に経験されているからこそ、説得力がありますね…!
編集者
クラミー
仕事を頑張ろうと思うキッカケになった出来事で、何か心に残っているものはありますか?
宮川さん
やっぱり、人から「ありがとう」と感謝されたり、「周りの人から『綺麗になった』と言われた」というような言葉を聞くととても嬉しいです。それから、自分の将来について思い悩みながらも、うちの院に入ってきてくれる子がいるんですね。毎日頑張って仕事をしてくれて、次第に自分の本当にやりたいことが見えてきたりとか、最終的に独立していったりする子もいるので、そういった姿を見られるのは純粋に嬉しいです。中には独立しても、未だに連絡をくれる子もいますしね。
編集者
りょうちゃん
経営者の方ならではの想いですね…!では、従業員を採用する側の立場として、「こういう人がいてくれたら助かる」という素質って何でしょうか。
宮川さん
個人的には、成長意欲がある方ですかね。「成長と貢献」というのが私の好きな言葉なのですが、僕は〈成長したい=人に喜んでもらいたい〉だと思っているんです。喜んでもらえたり、「ありがとう」と言われたりすると、人って自然と成長していくじゃないですか。この「貢献」と「成長」って繰り返していくものだと思うんです。逆に、「ここにいたらお金がもらえるから」とか、「何もしなくても誰かが動いてくれるから」というような考えは、〈貢献心がない=成長意欲がない〉に繋がるんじゃないかと。なので、成長意欲があって、自分の将来像をしっかり決めて、なおかつ今いる場所で自分にできることで貢献していこうとする心を持っている方は、即採用しますね。
編集者
クラミー
成長意欲がある方、というのは、その方の言葉の節々などで分かるものなのでしょうか。
宮川さん
これまで面接の機会も多くありましたが、割りと分かると思いますね。とはいえ、最終的には「この子がいいな」というフィーリングの部分も大きいです。ただ、フィーリングが合って採用しても、いざ働き始めてみると「ちょっと違かったな」ということもあって…。このあたりはなかなか難しいですね。
編集者
りょうちゃん
人と人との関わりは、縁の力も大きいですよね。では、宮川さんが考える、鍼灸師に向いている方とは、どんな人だと思いますか?
宮川さん
先ほどお話した成長意欲はもちろんなのですが、鍼灸師の仕事って本当に幅が広くて。美容を担いたいのか、高齢者の方に向けて治療をしたいのかなど、ある程度自分のなりたい姿を決めておくのは大事だと思います。将来像を決めておくと、目標により早く到達することができるんじゃないかなと。
編集者
クラミー
寄り道も悪くはないのかもしれないけれど、目標をしっかり持っていることで寄り道しすぎずに済みますもんね。
宮川さん
そうですね。それに、目標や夢は自分の軸になるので、仮に寄り道してもまた戻れるじゃないですか。軸がないままあちこち寄り道すると、どうしても薄くなってしまって、どこかペラペラな印象を受けてしまう方もこれまで見てきました。もちろん、いろいろな経験をすることは大事なので、寄り道自体は否定しません。ただ、自分の大事なものは何なのか、どういうことをしていきたいのかというのを決めている方がいいのかなと思います。
編集者
りょうちゃん
軸をしっかり持っている方だったら、寄り道さえも糧にしていたりしますもんね。
編集者
クラミー
これまで多くの医療人の方々に、転職に関するご意見をお伺いしてきました。傾向として、経営者の方は「今の環境からすぐに逃げることはやめてほしい」、従業員の方は「嫌だと思ったら勇気をもって辞めることも大事」とおっしゃることが多いんです。宮川さんは経営者側ですが、転職を考えているけれども新たな一歩を踏み出せていない方に対して、どんな言葉をかけますか?
宮川さん
そうですね…、まず基本として、〈感謝の心〉は忘れないようにしないといけないなと思います。例えば、職場でどれだけつらく苦しい思いをしていたとしても、それは自分が今までに選択を重ねてきた結果そうなっているという部分も少なからずあると思うんです。だからもし辞めるのであれば、あまり周囲のせいにしすぎずに、あくまで職場に対しては感謝の心を持ったうえで次の場所へ進んでいくといいと思います。
編集者
りょうちゃん
なるほど。確かに、あまり人のせいにしても良いことはなさそうですね。
宮川さん
「こういう所が嫌だから」とネガティブな思いだけで逃げるように転職すると、次の場所でもまた同じ思いをするような気がするんです。それならば、「ここではこんな経験をした」とニュートラルな気持ちで捉えて、会社に対して感謝の気持ちを持ったうえで次のステップへ向かっていけば、転職は自分にとって良い経験になると思います。〈自分の問題に置き換える〉という考え方を持っておくと、たとえ次の職場で何か問題が起こったりしても、それをすぐに人のせいにすることはないんじゃないかなと。「これは成長できる機会だ」と思って、そこでも根底には感謝の心を持っておくといいと思います。
編集者
クラミー
「会社のせいで」と思い続けると、どこへ行っても同じことを繰り返しかねないですよね。
宮川さん
採用する側としても、前の職場のことを悪く言う人はあまり採りたくはないですしね。パワハラがあって、セクハラがあって…と、実際はいろいろな理由があるんだと思います。言いたいこともきっとたくさんあるはずです。ただ、そういったことを自分の問題に置き換えて、次の場所へのステップアップのためにどうしていけばいいのか考えられる人は、結果的に成長できると思います。転職にしろ何にしろ、結局人生って自分のものじゃないですか。だから他人の軸ではなく、自分の軸に合わせて転職してもらえたらいいなと思いますね。
編集者
りょうちゃん
先ほどおっしゃっていた「成長意欲」は、まさに自分軸の話ですもんね。
編集者
クラミー
23歳で独立されて、26歳の時に今の場所で開業されたとお聞きしましたが、自分の力で事業を行っていくのはとても勇気がいることだと思います。当時の出来事で思い出深いことや、大変な経験などはありましたか?
宮川さん
大変なことしかなかったです(笑)。独立に関しては、とにかく勢いによる行動だったので何も考えておらず、支払いの面などでとても苦労しましたし、体調を崩したせいで稼ぎがゼロになった時もありました。独立時よりも、その後事業を展開していく時の方が大変なことが多かった印象があります。
編集者
りょうちゃん
人を雇い始める時などはどうでしたか?
宮川さん
そうですね、正直、人を雇うのってとても怖いことだと思っていました。それまで自分がやっていたことを人にお願いするのも怖かったのですが、給料をちゃんと払い続けられるのかという不安もありましたし、その人の人生に対して少なからず責任が生まれることにもなりますし。ただ、実際に雇ってみて感じたのは“従業員それぞれの良いところを見極めて伸ばしていくこと”が経営者の役目であり、面白さや楽しさでもあるのかな、ということ。怖いことばかりではない、人を雇用する意味を見つけた気がします。
編集者
クラミー
なるほど…!逆に、雇った人が辞めていく時などは何か葛藤はありましたか?
宮川さん
だんだんと自分の元から人が離れていくっていうのも、ある種自分の成長に繋がるんだな、と思うようになりました。「辞めた人が悪い」とは決して考えず、あくまで会社として「何がいけなかったのか」を考えるようにしていましたね。会社としていけなかった部分を探して、それを今後の経営の糧にしていくというか。
編集者
りょうちゃん
今のお話も、まさに宮川さんにとっての自分軸ですね。
宮川さん
まさにそうですね。
編集者
クラミー
お仕事をされるうえで、一番大事にしている軸は何でしょうか。
宮川さん
私は、「鍼灸の可能性を広げる」という自分にとっての理念やビジョンを大事にするようにしています。鍼灸って、先ほどもお話したように、活躍の場がとても幅広いものなんです。健康や美容を目的として行うものであったり、高齢者に対して行う治療もそうですし、不妊治療、小児治療、スポーツ選手への治療、劇団のパフォーマーやダンサーのパフォーマンスを上げるための鍼もあります。他にも、海外で日本の鍼灸を普及させていくのも1つの展望なので、とにかく大きな可能性を秘めているんです。なので、それらの可能性を広げる場所を作りたいという思いがまずありますね。活躍の場を拡大させて、鍼灸師たちの未来をより明るいものにしていきたいです。
編集者
りょうちゃん
とても大きなビジョンを持たれているんですね…!新たな事業展開など、今後に向けて何か具体的に考えていることはありますか?
宮川さん
今一番考えているのは、同業者向けに「鍼灸の可能性を広げていく会」のようなものを作ろうかなと。内容としては、海外での解剖実習の研修や、美容鍼の知識の習得、鍼灸の事業を自ら経営していくなかでどうメニューを作っていけばいいのか、数字をどうやって見ていけばいいのか…といったようなことを教えるセミナーですね。それらを行う会を作りたいです。
編集者
クラミー
鍼灸師全体の知識の底上げを図っているんですね。
宮川さん
そうですね。今後の展望として、今はそういったことを考えています。
編集者
りょうちゃん
これまでお話を伺っていて、宮川さんには大きなリーダーシップがあると感じました。帝王学と言いますか、そういったものは誰かから学ばれたものなのでしょうか?それとも、独立などのご自身の経験から培われていったのでしょうか。
宮川さん
やっぱり、自分の経験が大きいですね。本などを読んで学んだことも多少はありましたが、自分が実際にその立場に立ってみないと身体に入ってこないこともあるんです。自分と同じような悩みを持っていたり、同じ境遇にいたりする方々の話を聞いて、それらを参考にしながら自分の中に落とし込むようにしていました。実行して、行動を重ねていった形ですね。
編集者
クラミー
ご経験のなかで、修正を繰り返していかれたんですね。
宮川さん
そうですね、まさに“トライアンドエラー”という感じでした。挑戦しては失敗しての繰り返しです。今でもまだまだ至らない部分はありますが、それでも昔の自分よりステップアップできているように日々心がけてはいますね。
【インタビューに答えてくれたのは…】
宮川氷治さん
株式会社CROSSLINK代表取締役
芦屋楓鍼灸院/訪問治療院かえで院長
フェイシャル&脱毛サロンkaede 代表
鍼灸師の可能性を広げる会 主宰
鍼灸師/柔整師/セラピスト向けタイ解剖実習 主催
2008年、兵庫県神戸市にて往診専門で開業。
その後兵庫県芦屋市にて芦屋楓鍼灸院を開業し、美容やエステ、訪問治療など地域に貢献する傍ら、鍼灸業界の更なる発展に寄与するため『鍼灸師の可能性を広げる会』を主宰。解剖実習やコンサルなど行い、全国の鍼灸師をサポートしている。