対談インタビュー
人をつなぐ〈架け橋〉として輝く。信頼関係を大切にする訪問診療の同行ナース
今回インタビューにお答えいただいたのは、クリニック看護師の野間田香さん。野間田さんは、訪問診療の同行ナースとしてお仕事をされているほか、スタッフの労働環境を整備する法人運営業務にも関わっています。訪問診療の同行ナースの働き方や、多数の人と関わるうえで意識しているコミュニケーションのポイントなど、さまざまな観点からたっぷりお話を伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まず始めに、現在の仕事内容について教えてください。
野間田さん
訪問診療の同行ナースとして、施設や個人宅に伺い、先生の診療介助を行うのが主な仕事です。先生は以前同じクリニックで働いていた方なのですが、開業時に「一緒にやらない?」とお声かけいただいたんです。そのため、今のクリニックは立ち上げ時から関わっています。診療同行に加え、看護師・ドクター・事務員などの全スタッフが働きやすいような環境を整えていく、運営業務も仕事の1つです。
編集者
りょうちゃん
現場だけではなく、裏方にも関わられているんですね。日々とてもお忙しいのではないでしょうか。
野間田さん
そうですね。前職までは看護業務しかやってこなかったので、経験のない仕事に関しては毎日模索しています。診療の同行に関しても、決められた時間の中でいくつも施設や個人宅を回り、スピーディかつ正確に先生の補助をすることが求められます。ひと息つく間がないくらい忙しいですね。
編集者
クラミー
以前は病院で看護師をされていたのでしょうか?
野間田さん
はい、ファーストキャリアは病院看護師です。途中で出産も挟みましたが、当時はまだ休職しづらい時代柄だったので、休んだ期間は産休・育休合わせて半年間だけで、すぐに仕事に戻りました。ただ、その後子どもが成長して、チアリーディングに力を入れている有名中学に進学したんです。学校が終わった後には体操教室にも通っていたので送迎が必要で、子どものサポートのことを考えると、夜勤がある病院看護師と両立するのは難しいと思うようになりました。
編集者
りょうちゃん
働くお母さんならではのお悩みですね。
野間田さん
そのタイミングで、かつて病院で一緒に働いていた女医さんから、「開業したからぜひおいで」とお誘いいただいて。そこで初めて、訪問診療の同行ナースという働き方と出会いました。車であちこち移動しながら仕事をするのがとても新鮮で、なおかつ病院と比べたら比較的時間の融通が効きやすいので、これは良い仕事だと思ってやってみることにしました。
編集者
クラミー
訪問看護師さんにインタビューさせていただくと、「病院である程度経験を積んでからのほうがいい」とよく伺うのですが、訪問診療の同行ナースも同様でしょうか?
野間田さん
そうですね。特に個人宅の場合は、常に設備が整っているというわけではありません。患者さんから急に呼ばれて伺う際は、先生がそばにいないこともあります。先生に電話してもすぐにつながらない状況ももちろんあるので、そのときはなすべきことを自分で判断しなければいけません。そのため、病院でさまざまな科を経験しておいたほうが、どんな状況下でも臨機応変に対応できると思います。
編集者
りょうちゃん
一見類似しているようにも思えるのですが、訪問看護師と訪問診療の同行ナースの違いについて詳しく伺ってもいいでしょうか。
野間田さん
まず、訪問看護ステーションにいる訪問看護師は、訪問診療の先生からの指示書に基づき、患者さんにとって必要な情報を整理していくのが主な仕事です。対して訪問診療の同行ナースは、先生のそばについて介助を行います。先生の業務量は膨大なので、書類の整理や電話対応など、同行ナースの補助業務も多岐にわたります。先生の仕事が円滑に進むよう、訪問看護師、患者さんのご家族、施設のスタッフさんなどとの橋渡しをするのが同行ナースの大きな役割の1つです。
編集者
クラミー
訪問の現場において、中枢を担っているんですね。
野間田さん
そうですね。なので、訪問看護師と比べるとドクター寄り、というのが同行ナースのイメージかと思います。大変ではありますが、その分達成感も大きいのでやりがいのある仕事です。
編集者
りょうちゃん
訪問診療の同行ナースに向いているのはどんな人だと思いますか?
野間田さん
外に出ることと、コミュニケーションが好きな人はとても向いていると思います。間に立って、人と人をつなぐことに面白さを感じる人も良いですね。
編集者
クラミー
先生の先回りをして動くことが求められるお仕事ですよね。同行ナースをやっていてよかったな、と感じた瞬間はありますか?
野間田さん
同行ナースは信頼関係が命なので、先生や施設のスタッフ、訪問看護師さんから頼りにされたときは「役に立ってるんだな」と感じられて嬉しくなります。先生のなかには、「看護師の◯◯さんはちょっと自分とは合わない」とぽろっとこぼされる方もいるんです。詳しく話を聞いてみると、先生の指示に対して「でも」と異を唱えてくることがあるようで。言わば「素直さ」も、看護師に求められる要素なのかな、と。とはいえ、目の前にいる相手が何を欲しているのか、看護師自ら考え続けることも大事です。よく考えて先回りして動いた結果、患者さんから「ありがとう」と感謝されると、看板である先生の株を1つあげられたかなとも思えるので、そんなときもやりがいが感じられます。
編集者
りょうちゃん
時には先生に対して意見を伝えなければいけない場面もあるかと思いますが、そういったときはどのような対応をされるんですか?
野間田さん
言わずもがなかもしれませんが、先生は看護師とはまったく違う免許を持っているので、越権行為に当たらないように気をつけています。なので、何か進言するときは「この前この患者さんにこういうことを教えてみたら状態が良くなりましたよ」と、実際に起こった出来事を伝えたうえで、「どうしたらいいか教えてください」と言うようにしています。
編集者
クラミー
「こうしたほうがいいんじゃないですか」という直接的な表現ではなく、あくまで先生の意向を立てるような言葉選びを意識されているんですね。
野間田さん
そうですね。微妙な違いかもしれませんが、言い方に少し気を遣うだけで雰囲気はかなりマイルドになります。そうすると、「過去にそういうことがあったのなら、今回も使ってみようか」と、こちらの意見を比較的受け入れてくれます。
編集者
りょうちゃん
目上の立場である先生とのコミュニケーションと、その他スタッフとのコミュニケーションは意識するポイントがまた異なってくるのではないかと思います。この辺りはいかがですか?
野間田さん
ひと昔前であれば、厳しく注意されるのは当たり前のことでした。でも、いまは飴と鞭を上手く使い分けなければいけないということを日々実感しています。たとえば、任せた仕事が仮に終わっていなかったとして「できてないよ」と一方的に言うと、若いスタッフはかなり落ち込みます。褒めて育てることがいまの時代なんだな、と。
編集者
クラミー
以前は当たり前のことでも、いまだとコンプライアンス的に問題視されてしまうことがたくさんありますよね。
野間田さん
そうですね。ここまで上ってきてほしいという到達点に対する間の過程には、そこまでこだわる必要がないのかな、と思うようになりました。「こうでなければいけない」という教育はきっともう存在していなくて、一人ひとりの個性に見合った教え方をするのがベストなんだろうな、と。どうしたら離職せずに定着させられるかということを日々考えています。
編集者
りょうちゃん
訪問看護の世界を志している方へ向けてメッセージを送るとしたら、どんな言葉を選びますか?
野間田さん
まずは、人とのつながりを大事にしてほしいです。技術的には未熟だったとしても、そこをカバーしてくれる看護師さんは周りにたくさんいると思うので、やっぱり一番はコミュニケーション面なんです。技術力は場数を踏めば自ずと上がっていきます。この仕事をするうえで、「人の役に立ちたい」という気持ちは必要不可欠です。この想いだけはしっかりと持ち、楽しむ気持ちで仕事に臨んでくれたら嬉しいですね。
編集者
クラミー
人を想う心こそが、原動力になっていくんですね。
野間田さん
そうですね。私たち法人の方針としても、医療はほぼサービス業だと思っていて。理事長もよく「ゼロ回答はダメ」とおっしゃっています。
編集者
りょうちゃん
ゼロ回答、と言いますと?
野間田さん
たとえば、他のクリニックで「診れません」と言われた患者さんに対して、「私たちはこれはできないけれど、ここまでならできる」と、必ず「できること」を伝えます。患者さんが飽和しているいまの時代に訪問診療の機関として生き残るためには、白黒つけず、患者さんにどこまでも寄り添った対応が必要なんです。
編集者
クラミー
なるほど。確かに患者さんのために尽くす医療にはサービス業的な側面も大いにありますね。
編集者
りょうちゃん
最後に、今後の展望について教えてください。
野間田さん
訪問看護師の認知は広がってきていますが、訪問診療の同行ナースはまだまだ知らない人がたくさんいると思うんです。実際、私も病院時代はまったく知りませんでした。忙しい仕事ではありますが、きっと合う人もたくさんいるはずです。看護師として先生のアシストをするだけではなく、たくさんの人と関わり合う医療マネジメント的な仕事だということをもっと広めていきたいです。
編集者
クラミー
ぜひ、たくさんの看護師さんに知ってほしい働き方ですね。
野間田さん
そうですね。それから、訪問診療の同行ナースは業務が多岐にわたるので、分業制にできたらと考えています。具体的には、まずコールセンターを作りたいな、と。電話対応に苦手意識を持つ人も一定数いるので、人と話すのも電話を取るのもそこまで苦ではない人は電話対応部門、往診に興味がある人は同行部門と、適材適所で仕事を回していくのが良いと思うんです。患者の数を増やして質も落とさないためには、この方法が一番なのではないか、と考えています。
編集者
りょうちゃん
ぜひ実現してほしいです、応援しています!
【インタビューに答えてくれたのは…】
野間田香さん
クリニック看護師
【経歴】
平成8年 大阪市立大学医学部附属看護専門学校卒業
⚫︎市立豊中病院勤務 12年
循環器外科、内科病棟 集中治療室、救急診療部、内科、婦人科混合病棟勤務
⚫︎市立池田病院 7年
消化器内科、消化器外科病棟勤務
⚫︎某医療法人 訪問診療クリニック勤務 5年
⚫︎医療法人良樹会 入職
現在に至る。