対談インタビュー
患者1人ひとりに寄り添い、負担を軽減。再生医療の力を信じ続ける整形外科医
今回インタビューにお答えいただいたのは、ケアタクシー事業を展開するBellAid(ベルエイド)の代表・鈴木寿恵さん。元々は看護師だった鈴木さんが驚いたケアタクシー業界の実態や、民間救急の役割に対する想いなどについてたっぷり伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まず始めに、現在の仕事内容について教えてください。
鈴木さん
ケアタクシー事業と民間救急に携わっています。具体的には、身体の不自由な患者さんを車でご指定の場所までお連れする仕事です。タクシーと救急車の間と言ったらイメージしやすいかもしれません。
編集者
りょうちゃん
元々看護師資格をお持ちだと伺ったのですが、現在の業界に入ったキッカケは何だったんですか?
鈴木さん
デイサービスやサービス付き高齢者住宅で看護の仕事をしていた前々職時代、介護タクシー事業を行っていた方から数ヶ月間にわたって「ぜひうちに来ない?」とお声がけいただいて。当時私が働いていた環境はかなりブラックだったため、「サービス残業もないし給料もちゃんと支払うよ」という話を聞いて、一旦やってみようかな、と思い、転職を決めました。キッカケとしては、そういったひょんな出来事でしたね。
編集者
クラミー
転職して介護タクシーの仕事を始め、患者さんとの関わり方などでやりがいを感じられたから現在もこの業界に携わり続けているのでしょうか?
鈴木さん
そうですね。確かにやりがいは大いに感じられたのですが、同時にこの業界の実情に危機感も覚えたんです。介護タクシーと銘打ってはいるものの、ドライバーの多くが介護未経験者で。言ってしまえば、車の運転さえできれば誰でも始められてしまう仕事でもあるんです。たとえばお運びしている間に患者さんの身体に少し傷を負わせてしまったとしても、「ちゃんと目的地までお連れしたので」と、何事もなかったかのように支払いを求めるようなケースが散見されていました。私としては、まずこの実態にショックを受けまして。
編集者
りょうちゃん
それは確かに驚きです…。「介護」とも呼べないですよね。
鈴木さん
そうなんです。また、患者さんの情報や病状について何も詳しい説明をされないままお迎えに行くことも多々あり、その状況にも違和感を覚えました。退院する生後7ヶ月の赤ちゃんをお運びする依頼があった際も、いざ病院に向かったら人工呼吸器をつけていて。人工呼吸器が振動などで外れると大変なので、走るルートも急遽変更してなるべく大きい道路を選んだりと、かなり緊張感がありました。前もって患者さんの状態についてある程度知らされておけば相応の準備もできますし、一般のタクシーとは違うので諸々の事前確認は必要なのではないかと社長に直接訴えたのですが、「それはプライバシーに関わることだから」となかなか聞き入れてもらえず…。
編集者
クラミー
看護師である鈴木さんとしては、とても歯がゆい思いをされていたんですね。
鈴木さん
はい。さらに、後部座席で患者さんが倒れないよう、ドライバーのほかにもう1人同乗者を手配したり、吸引器などの医療機器を車内に完備したりすることも社長に要望を出していたのですが、こちらもなかなか叶いませんでした。たとえば痰が絡んで患者さんが苦しそうにしていたとしても、「もうすぐでご自宅に着きますよ」と声をかけることだけしかできなくて。知識も経験もあるはずなのに、何の処置もできない自分に無力感を感じずにはいられませんでした。
編集者
りょうちゃん
鈴木さんの悔しさや悲しみがとても伝わってきます…。
鈴木さん
私が転職したことで、その会社は「看護師付きの民間救急」を掲げられるようにはなったのですが、実際の所、看護師としての価値を仕事に対して何も感じられなくて。それならばもう、自分でやろう、と。転職して3ヶ月後にはすでに、開業を決意していました。
編集者
クラミー
ケアタクシーは病院との関わりも密になってくるものだと思いますが、「こんな風に病院と連携を取りたい」といった鈴木さんなりの想いはありますか?
鈴木さん
確かに病院から患者さんをお運びするのが主ではあるのですが、ケアタクシーの対象は決して病院に限ったものではないんです。病院以外にも、さまざまな場所へ営業や挨拶回りに伺います。荷物や患者さんの身体だけではなく、〈心〉も運“べる”“救護者(=Aid)”でいたいという願いも込めて、自分の会社に「Bell Aid(ベルエイド)」という名前をつけました。本来は叶えられる願いなのに、自由が効きにくい身体を理由にしてどこか諦めてしまっている方々に寄り添えたら、と。
編集者
りょうちゃん
「本来は叶えられる願い」について、ぜひ詳しくお聞きしたいです。
鈴木さん
たとえば、お孫さんの結婚式に行きたいけれど車椅子に乗っているからという理由で諦めようとするケースです。ケアタクシーなら車椅子でも問題なくお運びできますし、「柔らかいものしか食べられない」「オムツの交換や注射が必要」といったお困りごとがあったとしても、私たちなら食事介助もオムツ介助も注射のお手伝いも対応可能です。できない理由をどんどん潰していって、「あのひとときを過ごすことができてよかったね」と思っていただける瞬間を作るために日々仕事に励んでいます。
編集者
クラミー
確かに、身体が悪いとついナイーブになってしまうのかもしれませんが、行きたい場所や会いたい人がいるのなら、やっぱり諦めてほしくはないですよね。そんなときに、民間救急が大きな力になる、と。
鈴木さん
そうなんです。なので、この仕事をまずはたくさんの方に知ってもらわないといけません。Instagramで情報発信をしたり、人が多く集まる場に積極的に顔を出したりしてケアタクシーの啓蒙活動に励んでいます。移動手段の選択肢として知っているだけでも、考え方が大きく変わってくるのではないか、と。
鈴木さん
また、車でのお運びのみではなく、私が看護師単体として新幹線や飛行機での移動に付き添うことも多々あります。さらに、民間救急の稼働範囲はとても幅が広くて、マラソン大会のテント下での救護業務にあたったり、小さな保育園の運動会でよく冷やした車を待機させておいて、熱中症患者などの対応を行ったりもします。
編集者
りょうちゃん
なるほど…!民間救急は人々の日々の暮らしとも密接な存在なんですね。
鈴木さん
「対象じゃない人はいない」という話を先ほどしましたが、たとえば、元気な19歳の女の子も対象になり得ます。その子は元気だとしても、おじいちゃんやおばあちゃんはどうでしょう?車椅子に乗っているかもしれないし、あるいは施設に入っているかもしれません。当事者だけではなく、ご家族の方やその他周囲の方々にも民間救急の存在を知ってもらうと、いざという時にすぐお力になることができると思うんです。
編集者
クラミー
110番のような感じで、番号を知っておくと安心かもしれないですね。
鈴木さん
はい、ぜひお守りとして知っていただけたら嬉しいです。ゆくゆくは、妊婦さんを車でご指定の場所までお連れしたり、お子さんを塾まで送ったりするなど、ケアタクシーとしての役割の幅をもっと広げていけたらと考えています。
編集者
りょうちゃん
危険を防ぐことはまさに、より多くの人のお困りごとを減らすことにもつながりますよね。
編集者
クラミー
自らケアタクシー事業を運営していくなかで、女性だからこそのつらさなどを感じた経験はありますか?
鈴木さん
ドライバーの多くが年上男性であるため、やっぱり舐められることはどうしても多いですね。名刺を渡しても受け取ってもらえなかったり。悔しいとは思いますが、「いつか『この人の名刺が欲しい』と絶対に思わせてやる」という気持ちを燃やし続けています。
編集者
りょうちゃん
上の世代であればあるほど、男女の性差で偏見を抱いてしまう方がまだまだ多いのかもしれないですね。
鈴木さん
その一方で、異様に私のことを持ち上げてくる方も少なくありません。「僕たちは資格なんか何も持っていないから」「格が全然違うから」と。 看護師だから儲かってるんでしょ、なんて言われることもあります。
編集者
クラミー
あまり良い気はしないですよね…。
鈴木さん
そうですね。看護師という資格はケアタクシーを営むうえでの1つのツールでしかないので、「看護師資格を持っているから偉い」とは決して思いません。ケアタクシーを利用する方の状況に応じて、私が必要だと感じる処置やお手伝いを行うだけです。この業界で他のドライバーと話をするとモヤモヤすることも多いですが、私は私の仕事をしよう、この仕事の存在を正しく広げていこう、と思っています。
編集者
りょうちゃん
この媒体の読者には、看護師資格を使って新しいアプローチをしたいと考えている方や、看護師のキャリアはまだ浅いけれどもこれからたくさんの経験を積んでいきたいと野望を抱いている方が多くいらっしゃるのですが、そんな方々にもぜひケアタクシー業界をより深く知っていただきたいと思っています。業界の先輩として、ぜひメッセージをいただきたいです。
鈴木さん
まず1つ言えるのは、とてもやりがいのある仕事だということです。泣いて喜ばれるうえにお金を直接いただけるので、病院看護師とはまったく感覚が違います。患者さんのみならず、ご家族の方からも「あなたがいてくれて本当に良かった」とストレートに感謝の言葉をいただくことが多くあります。この充実感はなかなか病院では味わえません。
編集者
クラミー
確かに、諦めようとしていた願いを叶えられた患者さんにとっては、感謝してもしきれないものなんでしょうね。
鈴木さん
その反面、シビアな点もお伝えするのであれば、ケアタクシーは思っているより儲かりません。病院からお運びする依頼の場合、時間帯は平日の午前中であることがほとんどです。とは言っても、1台の車につき1人しかお運びすることができないので、限られた時間の中でどれだけ捌けるかが肝になってきます。また、あまり大きくない車の場合、車内に積むことのできる荷物にも制限がかかってくるため、「寝たきりの患者さんを運ぶから、一度事務所に戻ってストレッチャーを取りに行かないと…」といった時間のロスが発生するケースもあります。「運転免許はあるから、ちょっとやってみようかな」くらいの気持ちで始めようとしている方には、正直厳しい仕事ですね。営業力や資金力のほか、認知してもらうまでの会社の体力も求められます。
編集者
りょうちゃん
決して軽い気持ちで始めていい仕事ではないということですね。
鈴木さん
そうですね。責任感も非常に大きいですが、やっぱりどんなに大変な思いをしたとしても、「ありがとう」の言葉で全部が報われる気がします。
【インタビューに答えてくれたのは…】
鈴木寿恵(すずき・ひさえ)様
BellAid(ベルエイド)代表
https://bellaid.pro
ケアタクシー事業/搬送専門看護師