医療と科学の〈架け橋〉である
“メディカルサイエンスリエゾン”

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

まず、立松さんの仕事内容を教えてください。

立松さん

立松さん

僕は今、製薬企業でメディカルサイエンスリエゾンという仕事をしています。どんな仕事かというと、科学的なコミュニケーションを社内と社外のステークホルダー(※1)たちと行い、自社製品の価値を最大化するといった仕事になります。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

科学的な観点から、薬の価値を高めていくといったイメージですか?

立松さん

立松さん

そうですね。具体的な例を挙げるとすれば、その領域で著名な先生方と論文や学会報告についてディスカッションを行い、自社製品の価値を上げるため、今後どういったエビデンス(情報)を作っていけばいいのかを探っていく…といった職務内容になります。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

目に見えるカタチで価値を生み出す、そのプロセスを描くんですね。

立松さん

立松さん

はい。薬と言うのは、基本的に〈物〉自体が価値を持つものではなく、どういった症状に効いて、どういった病気の治療に役立つのか、といった〈情報〉が付加されて初めて価値が出てくるもの。そういった付加情報を発掘し、作ってゆくことも製薬企業の大切な役割のひとつなんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

そのエビデンスは、薬が上市(※2)される時に一緒に届くものなのですか?

立松さん

立松さん

上市される前であれば、その製品が上市されるタイミングで適応症(※3)という形で一緒に出されますし、既に医薬品として出ているものであれば「こういった使い方をしたら、もっと患者さんのためになりますよ」といったエビデンスをさらに付加していくこともあります。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

既存の薬にも随時情報が付加されていくんですね。

立松さん

立松さん

そうですね。「こんな疾患にも使えるよ」といったエビデンスだけでなく、「使用量を減らしても有効性を維持できるし、副作用を抑えられるよ」といったエビデンスが付加されることもあるんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

MRさんに説明されたりもするんですか?

立松さん

立松さん

はい。臨床研究の結果が出た後に、社内のステークホルダー(MR含む)向けに勉強会などを行い、説明を実施することもあります。よくMSLとMRの違いについて質問されるのですが、僕らMSLは“薬が上市される前から関わり、製品価値を高めるために上市後も関わっていく職種”であり、MRさんの仕事は、“上市後の製品の販促活動を行っていく”こと。ゆえに、そもそもの目的が大きく違う職種なんです。かなり大雑把にいうと、MSLが製品価値を高め、その製品を世の中に広めてくれるのがMRさん、といったイメージですね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

なるほど。では、臨床試験の結果得られた“最新のエビデンス”に関して、医師を含む医療従事者の方々に説明する機会はありますか?

立松さん

立松さん

医療の現場で認知されている製品情報と、最新の製品情報のギャップを埋めていくのもMSLの大切な仕事のひとつなので、医療従事者の方々の情報のアップデートのため、面談などで情報提供をしていきます。「医療と科学の橋渡しを行う」といった意味で“メディカルサイエンスリエゾン”といった名前がついているんです。

今までの自分の価値観を変えてくれた
〈研究〉との出会い

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

薬学部を卒業し、なぜMSLの道に進まれたんですか?

立松さん

立松さん

最初は薬学部を卒業して就職するために就職活動をしていたのですが、どうしても自分の将来図が見えてしまって「面白くないな」と思ったんです。そこで、大学院へ進学したのが今の仕事に繋がるひとつのキッカケでした。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

その選択は、どういったキッカケで?

立松さん

立松さん

大学院では4年間ずっと基礎研究(※4)をしていたんです。与えられたテーマについて、アプローチ方法を探りながら自分でロジックを組み立てていく、そういった研究をずっとしていて。今まで一般的な学校で義務教育を受けて進学をしてきた僕にとって、自分の好きなように何かを考えて実践していい環境が新鮮で。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

〈研究〉との出会いが、今の仕事に繋がったんですね。

立松さん

立松さん

そうです。加えて、今後自分が働いていくことを考えた時に「医療に貢献できる何かをしたい」という思いが強くあって。自分の研究を通して医療の質を向上することができたらすごく嬉しいですし、良い医療に繋がっていくような仕事をしたいと思うようになっていたんです。ただ、基礎研究で論文を1本、2本出したところで現場が変わることなどほとんどなく…。そこで、実際に現場で臨床研究(※5)をする必要があると考えたんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

おー!基礎研究から臨床研究へ。

立松さん

立松さん

はい。基礎研究は、細胞を使ったりマウスを使ったりしている研究だったので、臨床の現場へ行って臨床研究を行うほうが、もっと直接的に医療の現場に還元できる仕事があるんじゃないか、と思って。4年制の大学院を出た後は、任期付きのポジションで病院に3年間勤務をして、薬剤師をしながら臨床研究を行っていました。

“自分の哲学を持って新たな変化を”
研究の幅を広げるために製薬企業へ

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

病院勤務から製薬企業へ転職されたキッカケはなんだったんですか?

立松さん

立松さん

病院で臨床研究を行っていくなかで、薬剤師ができる臨床研究の規模がすごく小さいことが分かったんです。研究施設のドクターであれば、医師主導の臨床研究として大きな規模で研究を行いエビデンスを作り、結果が出ればその内容がすぐに医療現場に反映されるのですが、薬剤師にはそういった機会がほとんどなくて。論文を出すことはできるけれど、研究の規模が小さいので参考程度の研究になってしまうんですよ。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

医療の現場に届く研究となると、薬剤師主導の臨床実験だと時間がかかりそうですね。

立松さん

立松さん

僕は直接、「医療の現場に還元できる仕事をしたい」と強く思っていたので、病院に勤めた後、製薬企業に就職するために就職活動を行いました。大学院を出て博士の資格を持っていたこともあり、「自分の哲学を持って新しいものを作りたい」といった、良い意味での欲もあって。自分で新しいものを作りたいと思って仕事を探した時に、MSLと出会ったんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

MSLを選ばれた一番の理由はやはり「医療現場に還元できる新たなものを作りたい」といったもの?

立松さん

立松さん

もちろんそれは大前提として、その上で自分の強みを活かせる職種だと思ったんです。当時は「自分のやりたいこと」よりも「自分にできること」で、MSLを選んだことを覚えています。

研究職・MSLの現場で感じた〈ギャップ〉と
企業に属するからこそ戦える〈心強さ〉

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

実際にMSLとして仕事をされていくなかで、思い描いていたイメージとのギャップなどはありましたか?

立松さん

立松さん

ギャップはありましたね。実際はエビデンスを作る仕事だけではなくて、学会の先生の対応だったり、MRさんからの問い合わせの対応だったり、研究以外の業務も割と多くて。ただ、ギャップはあるけれど、会社という頼もしいバックグラウンドのなかでエビデンスの創出に携われるというのは大きなメリットだと感じています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

頼もしいバックグラウンドは心強いですよね。MSLという、やりたい仕事と自分の強みを活かせる職業。“やり甲斐”はどんな時に感じますか?

立松さん

立松さん

自分のこれまでの経験を活かして、誰も気づかなかった視点で物事を考え、チームで活動の方針を決めていく、ダイバーシティ&インクルージョン(※6)に基づいてディスカッションを行った結果、より良いものを作れた瞬間はやり甲斐を感じますね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

いろいろな意見を聞き、伝え、その先にある医療現場への還元ですね。

立松さん

立松さん

そうですね。あとは、先生方とディスカッションをしていて、研究の相談をされた後に「こういう方針で研究進めていくことにするね」など、直接現場に還元できる仕事が出来た時にもやり甲斐を感じます。

“患者さんのため”に動く、プロ集団の生きざまに触れて

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

たくさんの方と関わって来られた立松さん。影響を受けた方はいらっしゃいますか?

立松さん

立松さん

もう本当にいろんな方に影響を受けています。まずは大学院の時の自由な研究者たちとの出会い。やっぱり、研究者ってみんな自由なんですよ(笑)。ただ、みんなに共通しているのは「やりたいことをやっている」ということ。その姿に「自分のやりたいことをやってもいいんだ」と、価値観を変えてもらいました。そう思わせてくれる人たちに出会えたことは、僕の人生にすごく大きな影響を与えてくれたと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

それが、今のMSLでもあり、研究者でもある立松さんに繋がっているんですね。

立松さん

立松さん

そうですね。あともう一つは、病院で出会った研究者の先生方。僕はがん研究センターというところにいたのですが、多くの医師、薬剤師の先生方が、自分のプライベートを投げうって、臨床と研究をされているんです。中には、名誉や出世のためという方もいらっしゃるとは思うけれど、ほとんどの先生方が、心から患者さんのためを思ってやられていて。「こんなに頑張っている方々がいて今の医療があるのだから、その医療に微力でも貢献したい!」と改めて思わせていただきました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

では、今の仕事現場ではいかがですか?

立松さん

立松さん

製薬企業に入ってからは、周りのみんなに刺激を受けている毎日です。頭の良い人が本当に多くて、そういった人たちがそれぞれの強みの歯車を回しながら、大きな会社のなかで大きな仕事を築いている環境がとても楽しいんです。大学院までは個人の研究だったのが、会社に入ってからは「大きな身体をみんなで動かす」というイメージのもとで働くことができていて。そういった意味で影響を受けていると思いますね。

英語力より必要な、MSLの〈伝達力〉と〈考察力〉

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

立松さんが思う、この仕事に向いている人はどんな人ですか?

立松さん

立松さん

MSLは英語の論文を読まないといけないので、英語の論文を読むことを苦に感じないことが必要だと思います。ただ、英語の能力があるにこしたことはありませんが、それよりも、得た情報を自分の頭のなかで噛み砕いて人に説明できる能力の方が大切だな、とも考えています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

読んだうえで、情報をどう自分に落とし込むかですね。

立松さん

立松さん

そうです。そしてその意味を考えること。例えば、ある研究をして結果が出てきたとする。この研究結果は、データだけで見るとただの数字なのですが、専門家が見るとすごく大事な意味を持つ数字になるんです。研究結果から「どうしてその研究をされたのか」「どういう根拠で研究を進められたのか」「どういった患者さんに使われたのか」など、いろいろな考えを膨らませられる人でなければならないと思いますし、「研究結果に基づいたより良い治療を、患者さんに受けていただく」という部分まで深く考えてディスカッションができるかどうか、そこまでできる人じゃないと難しいと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

それをチームで考えていくからこそ、研究結果をもとに自分の意見を見つけることが大切なように感じます。

立松さん

立松さん

チームでディスカッションをするからには、自分の強みを持っていて、それを理解しておくことが必要になってくるんですよね。僕のチームのメンバーみんなに共通していることは、それぞれが得意な分野を持っていること。その得意なところを持ち寄って、ひとつのチームとして仕事をしていくので、強みがないと難しい職種でもあると思います。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

もしMSLを目指すのならば、強みを持つ、見つける、といった作業が必要になるわけですね。

立松さん

立松さん

そうですね。就職活動までに、自分の強みを見極めるのは大切だと思います。僕が就職活動をしている時に企業の採用担当者の方に「キャリアというのは、自分で作っていくものだ」と教えていただいたんです。もし就きたい仕事があるのなら、あらかじめ準備をしなければならないと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

就きたい仕事から逆算してキャリアを積み上げていく、とても大切だと思います。

立松さん

立松さん

どういったスキルが必要な仕事なのか、どんな経験が強みになるのか、そういったものをあらかじめ調べておいて、そこを目指して自分のキャリアを選択・構築していく。「何歳の時にこういった仕事をしたい」という目標を決めておけば、自ずと進む道は見えてくると思います。

自分が“楽しい”と思えることが、
どの環境ならできるのかを考えて

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

では最後に、いま現在、自分の仕事のフィールドやステージを変えたいと思っている方にアドバイスがあればいただけますか?

立松さん

立松さん

今言ったことがアドバイスだとすれば、メッセージとしては「自分が一番楽しいと思うことを選択して欲しい」ですかね。仕事ってずっとしていかなければいけないことなので、やり甲斐を感じられる仕事を選んで欲しいと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

自分の「これが楽しい」の声に耳を傾けることが大切ですね。

立松さん

立松さん

そうですね。別に薬剤師免許をとったからって、薬局や病院に勤めないといけないわけでもないので、本当に自分がやりたいことをできる場所を探して進んで欲しいと思います。

【インタビューに答えてくれたのは…】

東京都・製薬企業 MSL 立松さん

【経歴】
2004~2007年
名古屋高等学校 

2008~2014年
鈴鹿医療科学大学 薬学部 

2014~2018年
鈴鹿医療科学大学大学院 薬学研究科

2018~2021年
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院

2021年~
外資系製薬企業 

【注釈】
※1:ステークホルダー・・・企業組織における利害関係者

※2:上市・・・新しい製品やサービスを市場に出すこと。市販すること。

※3:適応症・・・医薬品の製造・販売を規制当局(厚生労働省)が許可するにあたって、どの疾患の治療に使って良いか(治療用途)を限定して許可された疾患。あるいは疾患群。

※4:基礎研究・・・細胞や動物実験による研究

※5:臨床研究・・・臨床の現場において行われる研究(人を対象としたもの)

※6:ダイバーシティ&インクルージョン・・・多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方