対談インタビュー
いつまでも、どこまでも、自分の足で元気に歩けますように。足から美容と健康を支える作業療法士
今回インタビューにお答えいただいたのは、ハウスクリーニングを始めとした清掃業と、理学療法として訪問リハビリの仕事を行っている新井彬恭さん。一見まったく異なる業種のように思える仕事を掛け合わせた理由と、それぞれの仕事に対する想い、さらにはご自身の経験から基づいたコミュニケーションやキャリアのアドバイスなどについてたっぷり伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まず始めに、現在の仕事内容について教えてください。
新井さん
ハウスクリーニングと予防医療に関する個人事業を行っています。ハウスクリーニングでは一般家庭のエアコンや水周りなどの清掃を主にやっています。また、私は元々理学療法士として病院で働いていました。そのときの経験を活かし、在宅でのリハビリや整体を予防医療事業として展開しています。
編集者
りょうちゃん
どのような経緯で現在のお仕事に辿り着かれたのでしょうか?
新井さん
ハウスクリーニングは元々父が家業として営んでいたのですが、最初はまったく継ぐ気がなくて。ただ、父が病気にかかり、併せて年齢的にも引退が近くなってきた辺りで、長年築き上げてきたものが途絶えてしまうのはもったいないな、と思うようになりました。また実際の訪問リハビリでも高齢であることや病気・ケガのため意外とお掃除が行き届いてないという現状を感じることがありました。なので自分ができることを技術を増やしてみてもいいんじゃないか、と。一般家庭に伺うという意味では、ハウスクリーニングと理学療法の訪問リハビリは一緒なので、ここを掛け合わせてみたら面白いんじゃないかと思い、現在の仕事に至ります。
編集者
クラミー
確かに、あまり関係がない業種のように思えますが、共通点があると両方を仕事にすることも可能になりますよね。
新井さん
そうなんです。空間のケアも身体のケアも、種類は違えど心地良い生活を作る点では同じだな、と。また、掛け合わせに関してだと、現在一般家庭のほかにホテルの大浴場の清掃も行っているのですが、ホテルにおけるマッサージも今後担っていけたらと考えています。私は国家資格を持っていて、回復期で6年間患者さんの身体を見続けてきました。これは強みになるのではとないかと思い、今後手を広げていきたいなと考えている分野です。
編集者
りょうちゃん
6年間病院で仕事をされていたということでしたが、独立しようと思ったキッカケは何だったんですか?
新井さん
給与面のほか、上司との人間関係等、職場環境のことで悩む場面が多くて。次第に自分の手で働く環境を作りたいと思うようになり、独立を決めました。
編集者
クラミー
職場における人間関係で悩まれている方はおそらくかなり多いと思うのですが、「こういうときはこんな風に接したらいいんだ」といった学びはこれまでの経験のなかでありましたか?
新井さん
プリセプターと呼ばれる指導役の先輩についていただきながら仕事をしていた時期があったのですが、その先輩がとある上司から目をつけられていた関係で、教え子である僕も同じようにその上司から目をつけられました。
編集者
りょうちゃん
閉鎖的な場所だと、そういった歪な関係性が作られてしまうことがあるんですね…。
新井さん
そうなんです。その上司が私に対して何か言いたいことがあっても、ほかの先輩を通して伝えてきたりしたこともありました。どうして直接言ってこないんだろう、とすごく嫌な気持ちになって。違うフロアでお互い仕事をしていたのですが、あるタイミングで責任者が変わり、その上司と同じフロアになったんです。上司とのありきたりな面談が行われた際、「何かある?」と最後に訊かれたので、「いや、まずは腹割って話しましょうよ」と。
編集者
クラミー
新井さんのほうからストレートに言ったんですね!
新井さん
はい。思っていることを素直に話したことで、最終的には打ち解けられて関係値がそれ以前よりもずっと良くなりました。この経験から思うのは、面と向かって話せる相手ならばしっかり自分の気持ちを伝えたほうがいいということ。モヤモヤしたままだと状況を打開することはできません。もちろん、腹を割って話してみてもどうにもならないケースはありますが、それはそれで仕方ありません。人間なので。ただ、最初から一方的に嫌うのではなく、ちゃんとコミュニケーションを取ってから判断したほうがいいと思います。
編集者
りょうちゃん
確かに、「この人苦手かも」と思ったら逃げたり避けたりしたほうが早いけれど、それをやってしまったら関係がそこで決まってしまいますよね。相手にも相手なりの言い分があるかもしれないのに…。
新井さん
人間だから多少なりとも先入観は持ってしまうものだと思うのですが、対人関係においてはなるべくこの先入観を削って関わることを意識するようにはしています。
編集者
クラミー
独立して初めて直面した課題はありましたか?
新井さん
掛け合わせることができるんじゃないか、と思ってやり始めたことではありましたが、とはいえやはりそれまでいた医療業界と清掃業界とではまったくジャンルが違うので、改めて「知らないことが多すぎる」と実感しました。
編集者
りょうちゃん
具体的にどんな場面で実感されましたか?
新井さん
清掃の技術的な部分はもちろんですが、「◯◯だからこんな風に掃除をしなければいけない」といった根本的な物の見方や考え方についても学ぶことが多かったです。清掃に関しては、病院勤務時代から副業として父のもとで手伝いをしながら仕事を覚えていったのですが、改めて「長年この業界に携わっているだけあるな」と父の背中を見ながら思いました。
編集者
クラミー
将来的に独立を目指している方が近年増加傾向にあると思うのですが、この独立に関して「こういうことをしておけば良かった」「逆にあれをやっていてすごく助かった」といった、過去のご経験に基づいたアドバイスをぜひ伺いたいです。
新井さん
まず、人間関係は大事にしたほうがいいと思います。実は私は元々、人を寄せ付けないようなオーラを強めに出していたタイプで…。
編集者
りょうちゃん
そうなんですか!?意外です。
新井さん
1年目のときに同じようなタイプの先輩がいたんです。クールで、技術力があって、「こういう人がカッコいいんだ」と思っていたのですが、次第に考えを改めるようになって。時代の変化の影響もあってか、もっと上の人間が下の人間に寄り添わないと円滑なコミュニケーションは生まれないな、と。何に関しても、やっぱり根本にあるのは人と人のつながりです。先ほどもお話したように、一方的な先入観で相手のことを決めつけないのも大事だと思います。
編集者
クラミー
人との関わりは、どんな状況であれ切っても切り離せないものですよね。
新井さん
そうですね。また、私の場合は長く医療業界にしか関わっていなかったので、独立時にはお金のことを始めとした一般教養についてあまりにも無知だなと実感しました。そこから勉強を始めて、いまではファイナンシャルプランナーの2級まで資格を取得済みです。お金以外にも、話し方もこれまで以上に意識してみたりと、今後に役立つんじゃないかと思うものは積極的に自分のなかに取り入れるようにしています。積み重ねた経験や知識は決して無駄にはならないと思うので、何事にもチャレンジしてほしいですね。学生時代のアルバイトのほか、病院勤務時代も副業として飲食店で働いていた時期がありましたが、こういった経験も後に活きているな、と実感しています。
編集者
りょうちゃん
飲食店でのお仕事で言うと、コミュニケーション能力的な部分でしょうか?
新井さん
はい。マニュアル通りに仕事をこなすのも大切だとは思いますが、接客業である以上、やはり大事なのはその場その場でのコミュニケーションです。相手1人ひとりに応じた会話のスキルは、その後の仕事においてもかなり活きています。
編集者
クラミー
確かに、場数を踏むと瞬発力も上がっていきそうですよね。
編集者
りょうちゃん
患者さんとの関わりのなかで嬉しかったエピソードについて教えてください。
新井さん
いままでできなかったことができるようになった患者さんの姿を見たり、患者さんが退院する際に「ありがとう」「やっと家に帰れる」と涙しながらおっしゃってくださったりしたとき、この仕事をやっていて良かったなと思いました。患者さんに喜んでいただくと、やっぱりやりがいが感じられますね。
編集者
クラミー
独立後、清掃1本に絞るのではなく医療の現場にも立ち続けていることからも、理学療法士に対する新井さんの想いが伝わってきます。
新井さん
確かに病院はもう辞めた身ではありますが、理学療法士そのものを辞めたいとは昔もいまも思っていないんです。仕事としてはかなりやりがいがあるので今後も続けていきたいですね。将来的には指揮する側に回り、ある程度は人に任せられるような形にしていきたいとは思っているのですが、とはいえ任せきりにしてもあまり良くないので、この先も現場には携わり続けたいです。
編集者
りょうちゃん
最後に、今後の展望について教えてください。
新井さん
まずは独立前と同程度まで稼げるようになることを目指し、来年には会社を立ち上げられたらと考えています。現状に対してどこか燻った気持ちを抱えている病院勤務時代の後輩が絶対にいると思うので、彼らに声をかけて、集めた仲間たちと共に仕事をしていきたいです。
編集者
クラミー
基盤を着実に整えたうえで、さらなるステップアップを考えていらっしゃるんですね。
新井さん
また、「将来一緒に何かやろう」と言い合っている先輩がいて、まだ何を作るかは明確にはなっていないのですが、その準備という意味でも、いま目の前にある理学療法や清掃を自分の揺るぎない武器にできるよう、さらに経験を重ねていきたいです。
編集者
りょうちゃん
まさに、「積み重ねた経験や知識は決して無駄にはならない」ですね。新井さんの未来にワクワクが止まりません!
新井さん
ありがとうございます。まだまだこれからです!
【インタビューに答えてくれたのは…】
新井彬恭(あらい・ひんきょう)さん
PT&清掃業 個人事業主