偶然辿り着いた、
小児専門の理学療法士という仕事

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

まずは現在のお仕事内容を教えてください。

平垣さん

平垣さん

今は、小児を中心に、理学療法士の仕事をしています。週四日、大阪の茨木市にある小児専門の訪問看護ステーションで、おうちを周りながら子どもたちのリハビリを行っているのと、週に一回、大阪の富田林の方にある重症心身障害児施設という、生まれた時や幼児期に障害を持たれた方が、大人になられて暮らす施設に勤め、リハビリPTとして働いています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ありがとうございます。先程、小児専門の理学療法士さんは珍しいと伺いましたが?

平垣さん

平垣さん

はい。一般病院には、なかなかいらっしゃらないのかなと思います。各都道府県に一つは、障害を持った子供たちに向けて、保育やリハビリなどの福祉サービスをする専門的な施設があるんです。だから、学生の時に小児を専門にしたいと決めた方は、基本的にそういった専門病院に就職をして、小児に特化した仕事をしながら、学んでいくことになりますね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

ちなみに、平垣さんはなぜ小児を専門にしようと思ったのですか?

平垣さん

平垣さん

私は京都大学の理学療法士科で学んでいたのですが、たまたま、小児を専門に研究している先生がいて、1年生の時から身近で見る機会があったんです。元々小児を目指していたわけではなかったのですが、実際に治療している現場を見て、やりたいと思うようになりました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

なるほど、偶然のご縁があったのですね。

平垣さん

平垣さん

はい。大学や専門学校を選ぶ際に、小児を専門にしている先生がいるかいないか、というのはとても重要なことなんです。小児を専門にしている先生がいないと、小児の実習先がなく、就職したくても実習経験が無くて出来ないこともあって。すごく門戸の狭い業界にはなるのですが、私の場合、たまたま小児の先生がいてラッキーでした。

小児の患者さんと
ご家族の強い気持ちを目の当たりにして

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

実際に小児の現場を見て、どういうところに興味を持ったのですか?

平垣さん

平垣さん

一つは、遊びと治療を融合させるような、小児ならではのリハビリをみて、こういう理学療法士になりたいなと思ったことがきっかけです。もう一つのきっかけは、成人の病院へ実習にいった時に、たまたま小児の子に出会ったことでした。その時に初めて、いわゆる重症心身障害児と呼ばれる、自分で身体を動かせない、目も開いたまま、人工呼吸器をずっとつけていなければならない子の治療を目の当たりにしたんです。お父さんお母さんの「一緒にお家に帰って生活したい」とか、「動けないけれど一緒に出来る事をしたい」といった思いを聞くうちに、重症心身障害児の子がおうちに帰って生活ができるように支えられる仕事をしたいと思うようになりました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

学生時代からまるで導かれるように小児の世界に入っていかれたのですね!

平垣さん

平垣さん

はい。学生時代から経験を積めたことは大きいかなと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

保護者の方との関わりなど、小児だからこその難しさもあるのかなと思います。

平垣さん

平垣さん

はい。難しい部分ですね。私自身、直接怒られたことも、「もう来ないでください」と言われたこともあります。きっと、「もう来ないでください」と言い出すまでに、何か嫌な気持ち、しんどい気持ちが積み重なっていたのだろうなと思うんです。また、直接言われずとも、我慢しながら受け入れてくださってるな、と感じることも。そういったご家族やご両親が抱える複雑な想いを汲み取りながら、介入を進めていったり、新しい提案をしたりというのは正直とても難しいですね。

〈チーム〉での対峙が、支援に繋がる

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

一見明るく振る舞っているご家族でも、きっとその裏に多くの複雑な思いを抱えている方もいらっしゃると思います。そんな中で、患者さんやご家族と関わっていくために、何が必要だと考えますか?

平垣さん

平垣さん

私は“チーム”が必要だな、と思っています。私が勤めている訪問看護ステーションでも日々実感しているのですが、やはり誰かひとりが背負うのではなく、しっかりと役割分担をして、さまざまな職種の人で棲み分けをすることが、ご家族の支援に繋がるんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かに、それぞれのプロフェッショナルがチームとなって支えてくれたら、心強いですね。

平垣さん

平垣さん

はい。何か患者さんやご家族との間に難しい問題が生じたときに、相談できる人がいるというのもとても大きいと思います。一人でその方と対峙していたら、責任をすごく大きく感じてしまって。対して、チームで対峙すれば、感情と切り離して冷静な判断が出来るんです。私たちそれぞれの職種の目線で、何が問題だったのかを話しあえるので、一つ一つ問題を解決することにつながります。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

なるほど。チームだからこその強みですね。

平垣さん

平垣さん

他にも、問題の原因が人と人との相性だと感じたら、対応する人を変えるという選択肢を持てることも、チームの強みだと思います。若い時は、トラブルが起きた時に、自分の治療や、人間力が足りていなかったからだと強く感じてしまっていたんです。しかし今は、人の相性など、どうしようもない部分、変えられない部分もあるから、他の人に変わることでご家族のためになるならば、そうしようと思えるようになりました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かに、人が違えば相性が違ってくるのって当たり前なんですよね。最初は自分のせいだと思ってしまう気持ちも、とてもわかります。

平垣さん

平垣さん

やっぱり一番良いことは、患者さんやご家族が安心して、訪問看護やリハビリなどのサービスを受けられることなんです。それを大前提にした時に何がベストな選択肢なのかということを、考えられるようになってきたと思います。

「みんな生きている」ということ

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

今までたくさんの患者さんと関わってこられたと思いますが、中でも印象的だったことはありますか?

平垣さん

平垣さん

赤ちゃんの時に関わっていた子が、もう20歳になるんだ、とか、思春期の時に担当していた方が、30代になっているんだ、とわかると、少し気恥ずかしいですけれど、「ちゃんと生きているんだな」と感じます。やっぱり突然亡くなってしまう方も少なくないので、生きてまた会えることが、とても大きく心に残ります。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

実際に患者さんと再会できる機会もあるのですか?

平垣さん

平垣さん

はい。展示会などのイベントで再会することもありますし、先日は、訪問している患者さんに「20歳の集いの写真を見て!」と言われて見てみたら、知っている子が元気そうに写っていて。「みんな自分の人生を生きているんだな」と、しみじみ感じますね。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

嬉しいだけでは言い表せない、深い感情になりますね。

一人一人違う患者さんに、
ひとつひとつ違ったアプローチを

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

今後目指す方で、こんな方が小児の理学療法士に向いている、と感じる特徴などはありますか?

平垣さん

平垣さん

自分自身を変えていける人が、向いているんじゃないかな?と思います。対峙するご家族それぞれに、ご家族の想いがあって、患者さん本人の想いがあって。それは、世間的に「正しい」と言われていることや、教科書に書かれていることではなかったりするんです。それに直面した時に、自分自身が変えていけないと、行き詰まってしまうので、自分を変えていける人であれば誰でも小児の世界でやっていけると思います。
逆に言えば、小児の世界には、これをすれば大丈夫という確固たるものがないんです。筋力トレーニングを何回やりましょう、そしたらこんな成長になりましたよ、という決まったものが無くて。その分、一人ひとりに合わせたアレンジが大切になってきますね。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

なるほど。患者さんやご家族一人ひとりのやりたいことを汲み取って対応する、臨機応変さが必要なんですね。察知する感覚が磨かれそうです。

平垣さん

平垣さん

はい。やっぱり突発的なお子さんもいらっしゃるので、怪我しないように、でもチャレンジができるように、という隙間を縫いながら治療、成長をさせていくというのが必要になってきます。やっぱり子供たちは一筋縄ではいかないので、そこを楽しみながら、自分自身を変えていければ良いのではないかなと思います。

小児の業界に、広い入口と理解を。
互いに行き来できる環境を目指して

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

小児の世界をこれから目指す方もいると思います。どのような未来をお考えですか?

平垣さん

平垣さん

特に小児理学療法は、入口が狭く、また業界にいる人も大体みんな顔を知っているような狭い業界なんです。しかし、ご家族や患者さんを支えるお仕事なので、もっと多くの人と関わりながら働く、広い入口や理解が必要だと思っています。本来であれば、病院だけでなく、デイサービスや、幼稚園、保育所、私が勤めているような障害者施設をみて、実際に生活されているところを知った上で、セラピストが働けるような仕組みがあるべきなのですが、今それがないのが現状で。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

社会に求められる仕事なのに、業界が専門的で入口が狭い故に、ニーズを満たすことが難しいのですね。確かに、人手不足の深刻化はよく耳にします。

平垣さん

平垣さん

私が働いている施設でも、募集をかけても人が集まってこないんですよね。だから、私のように専門的に働くことが難しいとしても、知っている医療従事者同士で見学に行ったり研修に行ったりして、小児に関わる仲間を増やしていきたいと思っています。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

小児の業界と、他の業界を行き来できるような環境作りですね。

平垣さん

平垣さん

はい。ちょっとでも関わりたいです、というお声をかけていただければ、フォローし合えるような環境を目指してゆきたいですね。

【インタビューに答えてくれたのは…】
平垣有紀子さん
小児を専門に、フリーで活動する理学療法士。
京都大学医学部保健学科理学療法専攻を卒業。
大阪市内の療育センターに入職。
退職後、訪問看護ステーションや放課後デイサービス、児童デイサービス、重症心身障害児者施設など、様々な子どもに関わる機関で勤務。
2023年9月より子どもに特化した訪問看護ステーション パーム茨木市にて勤務している。