対談インタビュー
患者1人ひとりに寄り添い、負担を軽減。再生医療の力を信じ続ける整形外科医
今回インタビューにお答えいただいたのは、株式会社Simpray代表取締役であり、「こどもリハビリかめきち」としてインフルエンサー活動を精力的に行っている理学療法士の向坂愛理(かめきち)さん。小児分野に特化するに至った理由や、怖がらずに前向きに行動し続けるためのアドバイスなどに伺ってまいりました。
編集者
クラミー
まず始めに、現在の仕事内容について教えてください。
かめきちさん
医療的側面で言うと理学療法士の資格を持っているのですが、仕事としては理学療法士の垣根を超えて、「こどもの人生本質家」というネーミングのもと活動しています。
編集者
りょうちゃん
具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょう?
かめきちさん
理学療法士として直接お子さんの介入をさせていただいたり、オンライン上でのサポートを行ったりしています。そのほか、オンラインスクールの運営、児童発達支援施設のコンサル、講演会の開催、アプリ開発、ベビー・子ども用品店「バースデイ」さんのユニバーサルデザインのお洋服の監修など、仕事内容としてはかなり多岐にわたっています。
編集者
クラミー
たくさんの事業に関わられているんですね…!元々、かめきちさんが理学療法士の資格を取ろうと思ったキッカケは何だったんですか?
かめきちさん
高校生のときに祖父が脳出血になった際、家に訪問リハビリの先生が来てくれて。正直、当時の私はかなりやんちゃで、「人生どうにでもなれ」なんて思っているような学生でした。祖父もまた病気の影響で生きる気力を失いかけているように見えたのですが、リハビリの先生が熱心に支えてくれたおかげで、歩いて部屋を1周できるようになったんです。先生の姿を見て「すごくかっこいい」「私もあんな風になりたい」と心打たれたのが、理学療法士を志したキッカケでした。
編集者
りょうちゃん
その後、現在の働き方に至るまでの経緯もぜひお聞きしたいです。
かめきちさん
理学療法士になった後、まず3年間は成人の病院で働きました。急性期と呼ばれる所で働いていて、患者さんの中にはもうご自身で生死の選択をできないような厳しい病状の方も多くいらっしゃいました。口からご飯を食べることができなくて、点滴や経管栄養に切り替えたものの身体が追いつかなくてむくんでしまったり。そんな方たちにリハビリを行おうとすると、「やめてくれ」と拒否されることが少なくありませんでした。そのとき、「このリハビリは何のためにあるんだろう」「もっと言えば、この国の医療って何のためにあるんだろう」とふと疑問に思って。患者さんたちが受けようとしているリハビリの元手は税金なので、「拒否されるリハビリは無駄なものなんじゃないですか?」と直接上司に訴えたんです。ただ上司は、「理学療法士は医師の診断のもとに動くから、何も考えず指示書通りにリハビリをすればいい」と。私がおかしいのか、病院がおかしいのか、あるいは日本がおかしいのか…よくわからなくなってしまったんです。
編集者
クラミー
疑問がどんどん膨らんでいったんですね。
かめきちさん
でも、自分を責めるのは嫌いだったので、一旦日本を飛び出してみようと思ったんです。そこから地球1周の旅を始めて、そのなかで「私は、『何も思考しないこと』『疑問を持たないこと』『不公平・不平等を感じること』を嫌悪する人間なんだな」という自己分析が深まっていきました。じゃあ何が平等なんだろう、と考えたとき、「1分1秒の時間の流れ」と「人はいつか死ぬ」という2つの解に辿り着いて。
編集者
りょうちゃん
確かに、万人に共通しているものですよね。
かめきちさん
自分に残されているこれからの人生について逆算して考え始め、理学療法士という資格と、疑問を持ち続けつつ前を向き続ける自分のスタイルをまずは掛け算してみました。そして地球1周からの帰国後、高齢者医療を決して否定するわけではありませんが、未来に目を向けることに重きを置いた結果、小児の世界に入ることが方向性として固まっていきました。
編集者
クラミー
なるほど。その後は、小児専門の理学療法士としてお仕事を?
かめきちさん
はい。訪問に伺ったり、病院や療育の施設で働いたりしました。ただ、コロナの影響で施設が子どもの受け入れを休止したので、私も家で悶々とする日々を過ごすことが増えていきました。精神的にもどんどん落ち込んでしまったのですが、途中で「このままじゃダメだ」「何のために私は地球1周に行ったの?広い視野を持つためでしょう」と我に返って。コロナのせいで思うように動けないものの、きっと困っている方はたくさんいるはずだ、と。それならまずはSNSをやってみようと思い、情報発信を始めました。すると、すぐにたくさんのお母さん方から「助けてください」「リハビリの仕方を教えてください」とメッセージをいただいたんです。
編集者
りょうちゃん
かめきちさんが予想していた通り、困っている方がたくさんいらっしゃったんですね。
かめきちさん
そうなんです。最初は1件1件メッセージを返していたのですが、その後インスタライブに切り替えて、2年間くらい毎週配信を続けていくうちにフォロワー数がどんどん増えていって。「これはいける」と思って独立準備や起業の勉強を始め、2021年4月に個人事業主になり、2023年6月に法人化して現在に至ります。
編集者
クラミー
目の前のことに対して疑問を抱いたり、思うことがあったりはするものの、そこから飛び出していく勇気が出ない方もまた少なくないのではと思います。そんな方へ、かめきちさんならどんなアドバイスをされますか?
かめきちさん
うまく行動できない方って、おそらく失敗を恐れていたり、先の見通しがつかないことを怖がっていたりするケースがほとんどだと思うんです。でも私の場合は、失敗する/しないはあまり考えずに動いていました。大事なのは、「やってやるぞ!」という気概と、先を見越して学び続ける意欲です。失敗が怖い気持ちは確かにわかるのですが、動かなかったときのほうがもっと怖いと私は思います。
編集者
りょうちゃん
行動しないことには、現状は何も変わらないですもんね。
かめきちさん
はい。失敗が怖いのなら、失敗しないように準備を入念にすればいいし、仮に失敗してしまったとしても、うまくいかなかった理由を考えてそれを次につなげていけばいいんです。失敗を失敗と思わないことも大事ですね。うまくいかなかったからといって、必要以上に否定をしてはいけません。
編集者
クラミー
まさに、「失敗は成功のもと」ですね。
かめきちさん
そうですね。また、現状に対して少しでも「変だな」「嫌だな」と思ったら、無理をしてまで向き合う必要もありません。日常に埋没するとどうしてもどこか麻痺してしまうのですが、心と身体の健康が最優先です。嫌なことでも向き合おうとしてしまうのは、実は生物界において人間だけのようで。他の動物が危険を感じたら逃げるように、人間だって逃げていいんです。逃げ=悪ではないので、正しい選択肢のひとつとして認識してほしいです。
編集者
りょうちゃん
小児の理学療法士を目指している方に向けて、「こんな風に動いたらいいよ」といった心構えがあればぜひ教えてください。
かめきちさん
求人は探せばいくらでも出てくると思うのですが、理学療法士の先輩方はよく下の人に向けて「自分が何をしたいのか、何を見たいのかが大事だよ」と言います。でも、まだキャリアが浅い時期だとそう言われてもわからないことが多いんです。「発達障害を学びたい」「肢体不自由を学びたい」など、さまざまな分野があるとは思いますがすぐには見つからないものです。なので、自分が進む道の方向性を探っていくという意味では病院がおすすめです。子ども病院だとかなりオールマイティに勉強できます。
編集者
クラミー
きっといろんな患者さんがいらっしゃいますよね。
かめきちさん
そうですね。見たことのないような症例がたくさんありますし、NICUから小中学生まで、幅広い患者さんの対応を行うので学びは本当に多いです。
編集者
りょうちゃん
お仕事を通じてたくさんの子どもたちと関わっていることかと思いますが、特にどんな所に大人と子どもの違いを感じますか?
かめきちさん
順応力ですね。子どもは、大人よりもずっと順応力が高いです。たとえば、しきりに泣き喚いてしまう子は「癇癪だね」「適応できない子だね」と、“できない”と判断されてしまいがちなのですが、実際は環境に適応しようと頑張っているんです。どんな疾患や障害があったとしても、めげずに努力する子どもたちを私はたくさん見てきました。
編集者
クラミー
「できないから」「人とちょっと違うから」と一方的に決めつけてしまうのではなく、子どもたちがありのままで頑張れる環境を大人こそ学ぶ必要があるのではないかと思います。真に子どもたちのことを思うなら、大人はどんなことを意識するべきでしょうか?
かめきちさん
まず一番は、目の前の子どもをよく観察することです。たとえばお子さんが脳性麻痺、発達障害、ダウン症などの場合、その分野に関する本を読んだり関連情報について勉強したりしようとする方が多いかもしれませんが、それよりも、目の前の子に何が起きているのかを把握しておくほうがずっと大事です。
編集者
りょうちゃん
なるほど。その子にとっての答えは、その子からしか見つからないですもんね。
かめきちさん
おっしゃる通りです。なので、一般的な学校に見られる一斉教育には思う所がたくさんあります。「知らないは人を傷つける」と、私はよく自分の生徒さんにもお伝えしていて、不用意に相手を傷つけないためには「目の前の人(子)を知ろうとする姿勢」が欠かせません。
編集者
クラミー
かめきちさんのように、オンライン上のツールを活用した働き方をしたいと考えている理学療法士さんに向けてアドバイスをするとしたらどんな言葉をかけますか?
かめきちさん
まず基本の部分で言うと、「理学療法士はリハビリテーションを行う」という概念は捨てたほうがいいです。やはり法的には、医師の診断に基づいていないと理学療法士がリハビリテーションを施行することはできません。
編集者
りょうちゃん
SNSなどを通してどれだけ主体的に活動を行おうとも、理学療法士としての前提は変わらないということですね。
かめきちさん
そうですね、そこは忘れてはいけない部分です。その一方で、先ほどの「目の前の子どもをよく観察する」という話にも通じますが、患者さんを見る目・評価する目を肥やすことも大事です。目の前の患者さんに今何が起きていて、原因は何なのか、そこを突き詰めて考えることができれば解決方法も見えてきます。リハビリは確かに医師の診断ありきではありますが、理学療法士自身もまた、自分の目で患者さん1人ひとりと向き合うことが求められます。
編集者
クラミー
医療従事者の中には、持っている資格を活かして何か新しいことにチャレンジしたり仕事の幅を広げてみたりしたいけれど、具体的にどんな行動を取ったらいいのかわからずに悩んでいる方が多くいる印象があります。そんな方々に向けて、多様な働き方を実現しているかめきちさんから最後にメッセージをお願いいたします。
かめきちさん
「何かやりたい」という気持ちは抱いているけれどもどこか漠然としている方は、やりたいことを実際にたくさんやっていて日々忙しそうにしている方の話を聞いてみるといいと思います。自分1人で思い悩んでいるだけでは、考えの範囲はいつまでも狭いままです。自分の中に手数がないのなら、持ち札を探す旅に出る必要があります。
編集者
りょうちゃん
自分以外の人の話を聞くことで、確かに新たな考え方にも出会えそうですよね。
かめきちさん
そうなんです。実際に一緒に仕事をさせてもらったり、雑用を振ってもらったりしてもいいでしょう。これまでにない発見を得られるかもしれません。
【インタビューに答えてくれたのは…】
向坂愛理(かめきち)さん
株式会社Simpray代表取締役
理学療法士/こどもリハビリかめきち
・インフルエンサー Instagramフォロワー約2万人
[Instagram]
https://www.instagram.com/child_pt?igsh=MTdtajdxb25jb2czMQ==
ご経歴
2014〜2017年 一般病院(脊椎脊髄難病センター)勤務
2017年 地球一周の旅に出る
2018〜2020年 小児訪問看護・こども病院・療育勤務
2021年 こどもリハビリかめきち 開業 「日本一リアルタイムに相談できる小児PT」
2021年 教育事業「かめスク」設立
2023年 ㈱Simpray 設立 代表取締役就任
2024年 小児PT→「こどもの人生本質家」