対談インタビュー
患者1人ひとりに寄り添い、負担を軽減。再生医療の力を信じ続ける整形外科医
今回インタビューにお答えいただいたのは、月経ジェントル研究所、元田享兵さん。
「月経ジェントル」という考え方や、月経について発信するに至った衝撃の実体験、男性である元田さんだからこそ伝えられる、この活動を通じて伝えたいことをお伺いしてまいりました。
編集者
クラミー
現在の元田さんのお仕事内容を教えてください。
元田さん
月経ジェントル研究所を立ち上げて、運営しています。女性の特有の生理現象である月経というものを、男性が“ジェントルマン=紳士的”に理解し、そして先読みして行動できる教育を日本に広めたいと思って立ち上げた研究所です。
編集者
りょうちゃん
名前の通りジェントルですね!
元田さん
はい。名前で全てを表そうと思い、こう名付けました。
編集者
クラミー
具体的にはどんなことをされているのですか?
元田さん
主に、学校法人や企業向けにセミナーやワークショップをしています。ワークショップでは主に、この『つくよみゲーム』というボードゲームをやります。
元田さん
これは私が考案して、クラウドファンディングで制作した、完全自作のボードゲームです。月経周期は4つの期間に分けることができるのですが、その4つの期間から日本の季節を連想して、女性の身体の四季に合わせて、男性がデートプランを立てるゲームにしました。そのデートプランによってポイントが入ってゆき、最終的に誰が一番ジェントルマンなのかを競い合います。
編集者
りょうちゃん
お〜!なるほど・・・!
元田さん
競い合うと言いましたが、別に勝ち負けを決めることが目的ではなくて。女性と男性が同じ場所に集まって、オープンなコミュニケーションをすることが一番の目的です。というのも、私は今こうやって月経月経と連発していますけれど、一般の男性は一生のうち「月経」と口にすることはほとんどないと思うんですよ。
編集者
クラミー
確かに、公の場や女性がいる場で「月経」や「生理」の話はしづらいですね。
元田さん
そうですよね。私はそのタブーの意識をできるだけ取り払って、オープンなコミュニケーションをすることが、月経で悩んでいる方達の悩みを軽減するのに一番の近道だと考えました。そのため、このゲームを考案して、企業や学校で男女一緒に遊び、コミュニケーションの場を作ることを仕事としています。
編集者
りょうちゃん
実際に、セミナーやワークショップには女性の方も参加されているのですか?
元田さん
はい。男女一緒に、というかたちが一番良いなと思っています。
編集者
クラミー
間違いないですね!女性がいると、「私の月経はこうで…」と個人差についても話せますし。
元田さん
まさにその通りで、個人差、個体差があることが、月経というものを解りにくくしている一つの要因だと思うんです。その個体差を肌で感じてもらうことが、男性に効果的なのではと感じています。
編集者
りょうちゃん
このゲームを作ったきっかけというのは?
元田さん
そもそもこの活動を始めたきっかけは、私が付き合っていた女性が救急車で運ばれるという事件でした。その原因が、生理痛だったんです。
編集者
クラミー
なるほど。大きな出来事でしたね。
元田さん
生理が痛いものという知識は元々あったのですが、こんなに痛いものなのか!ということは知らなかったんです。普段めちゃくちゃ元気な彼女が、生理の前後だけ苦しむ姿を見て、初めてその痛みや辛さを知り、とても衝撃を受けました。
元田さん
さらに、先ほど生理には個人差、個体差があると言いましたが、あるとき、彼女がすごく静かだった月があったんです。今月は珍しく痛みが少ないのかな〜と思ってパっと振り返ったら、脂汗をかいて倒れていたんですよ。気を失いかけた彼女が、消え入りそうな声で「救急車…」と言うので、人生で初めて救急車を呼びました。生理痛を理由に。
編集者
りょうちゃん
生理のない男性からしてみたら、生理痛なんて想像もつかないですよね。
元田さん
はい。当時は生理痛について全く知らなかったので、この体験はあまりにも衝撃的でした。特に私は、男兄弟、男子校と男性にまみれた社会で生活してきて、母親の生理用品さえ見たことないまま大人になったんです。そんな無知な自分の、彼女が生理痛で救急車に運ばれるというギャップがすごく激しくて。
編集者
クラミー
生理痛がどんなものなのかも、そもそも生理痛で倒れたのかも分からない状態では、さぞご不安でしたでしょうね。
元田さん
そうなんです。私にとっては得体の知れない現象で彼女が倒れて、病院についてからも緊迫した状況で処置をしてくださっているため、説明のない中、廊下で待っていなければならず…すごくすごく不安でした。その不安な時間を過ごしているときに、帰ったら生理について勉強しよう、と心に決めました。
編集者
りょうちゃん
それまでは、身体の健康や医療について触れていなかったのでしょうか?
元田さん
健康に関しては、前職で農業の仕事をしていて携わっていました。
編集者
クラミー
農業で健康…!
元田さん
はい。有機野菜についてお話したり、健康な食事、健康な食べ物についてお伝えする仕事をしていたので、健康に関して全く無関係だったかというとそうではありませんでした。しかし、医療従事者でも無いですし、健康の専門家でもなかったですね。
編集者
りょうちゃん
なるほど。身体に対して、現在とはまた違ったアプローチをするご職業だったのですね。
元田さん
しかし、食だけの話で。女性特有の健康に関しては全く無知無関心でした。
編集者
クラミー
そこから色々と学ぶにあたって、最初はやはり彼女にお話を聞かれたのですか?
元田さん
いえ、彼女にも聞きましたが、私は最初本を読んで学びました。まずは産婦人科の先生が書かれている『月経のはなし』という本を読み込み、他にも月経にまつわる本を片っ端から読んでいきました。また、専門家の方が開かれているセミナーを聞きに行くなど、勉強していきました。
編集者
りょうちゃん
いまだに、例えば、女性が「私生理痛がひどくて、、」と説明しても、男性に「それは女性の甘えでしょ」と理解を得られないこともあります。そんな男性達に、元田さんが男性目線で学ばれたことを説くとしたら、一体どんな伝え方をされますか?
元田さん
男性に話す時に気をつけているのは、これを学ぶと得するよ、と伝えることです。例えば、今現在パートナーがいる男性が女性の身体について知っていれば、信頼関係を築きやすくなりますよね。
編集者
クラミー
と言うと?
元田さん
実際私がその事件のあと、勉強している姿を見てもらったり、彼女以上に彼女の身体について考えたりすることで、すごく信頼して貰えたんです。自分としても、彼女の安心安全基地になることができたと思えました。
編集者
りょうちゃん
確かに。コミュニケーションも円滑になりますし、例えば生理痛でイライラしてしまっている彼女に対しても、「仕方ないよね」と対応できますもんね。
元田さん
そうなんです。怒っている人がなぜ怒っているか理解できない時って、「なんで怒ってるの!」と余計怒りで返してしまうんです。それで喧嘩になっている男女がとても多い。だから、彼女が怒っているな、とか、いつもと様子が違うな、とか、その理由が少しでも理解できたらとても有利だと考えています。
編集者
クラミー
まさに月経について学ぶ”得”ですね。
元田さん
そしてもう一つは、経済的な理由です。経済産業省によって、月経にまつわる社会経済負担、つまり社会損失が、年間6828億円であると試算されているんですよ。大きすぎて実感がわかないと思うので近い数字を挙げると、例えば新型コロナウイルスのワクチンを作る費用として日本がとった予算が6000億円。
編集者
りょうちゃん
それだけ一年で損失が生まれているということですね。
元田さん
はい。逆に、この経済損失は伸び代といえます。女性の月経にまつわる悩みを解消すれば、一年で6828億円の生産性が上がるということなんです。一人一人の男性が女性の月経や身体のことを理解して寄り添うことができる社会になれば、その分稼ぐことができます。
編集者
クラミー
それを知れば、では何をすれば良いのか、アイデアが生まれますね。
元田さん
そうなんです。この6828億円稼ぐにはどうすれば良いのかって、各会社、各コミュニティによって違うんです。なぜなら、所属している人、女性も違うし、やっていることも違うから。しかし、それぞれの会社で何をすれば良いのか考えるために必要な知識が足りていないのが現状です。だからこそ、企業や経営者、管理職の方にもぜひお伝えしたい。
編集者
りょうちゃん
なるほど。男性からしたら月経って別に知らなくても良いことですし、ただ「女性のために理解してください」と言うよりも、経済的理由を伝えてあげた方が行動に繋がりそうです!
元田さん
まさにその通りで、その“正直知らなくてもいい”というのが、ずっと理解を先延ばしにされてきた原因だと思います。人類発祥の時から約600万年、これだけ人類が出産と誕生を繰り返してきているのに、今までずっと置いていかれた問題なんです。
編集者
クラミー
人類!いいですね!(笑)
元田さん
(笑)。だから、得や経済をきっかけにして、男性には月経のことを 〈自分ごと〉として捉えてもらいたい。人類の一員として(笑)。女性だけのものではなく、人類の現象として月経というものがあるんですよ、と。
編集者
りょうちゃん
そのセミナーなどで使うゲームをクラウドファンディングで作られたとお伺いしたのですが、最初からゲームを作るつもりで始められたのですか?
元田さん
いえ、最初はそのアイデアはなく、たまたまボードゲームの仕事をしている友人に生理の話を聞いてもらっていた時に、アイデアを貰いました。彼も最初はふむふむと聞いてくれたのですが、話を聞くうち彼の頭はボードゲームでいっぱいになっていって(笑)。そして、「元田さん、それボードゲームにしてください!」って言われたんです。これがきっかけになりました。
編集者
クラミー
なるほど!でもボードゲームを作るってなかなか無いですし、難しかったのでは?
元田さん
はい。私自身ボードゲーム未経験者で、ゲームを主催したこともなかったのですが、「ボードゲームをやりたい」と周りに言い続けていると、ご縁は繋がるものでして。ボードゲームを作ったことがある人に出逢ったんです。その人に協力してもらい、ボードゲームの基本的なルールや、どう作ったら良いのかを教えてもらいながら制作したのが、この『つくよみゲーム』になります。
編集者
りょうちゃん
ボードゲームって、作るときに何か決まりや作り方ってあるんですか?
元田さん
彼が言っていたのは、最初まず1つ形を作ってみて、とりあえずやってみる。そしてテストゲームを100回くらいやっていくうちに、最初作ったものとは全く違うものができているはずだ、と言われました。実際に何回もやっていくうちに、どんどん変わっていって、今の形になりました。
編集者
クラミー
そうやって試行錯誤されていたんですね。そこに行き着くまでに、心折れそうになることはなかったのですか?
元田さん
それはなかったですね。“これをやろう“と決めていたので。
編集者
りょうちゃん
“これをやろう“という原動力は、やはり先ほど仰っていたような、知識を身に付けることで信頼関係を築けるようにというところでしょうか?
元田さん
勿論それもありますが、一番は違和感ですね。
編集者
クラミー
違和感、、、というと?
元田さん
今の社会への違和感が凄くあったんです。男女がともにハッピーに暮らせる社会を理想に思い描いていたのですが、今は男女が乖離してしまっているという違和感です。それは、月経について学ぶきっかけになった彼女の人生を振り返っても、その違和感がありました。彼女が生理で悩む原因を私なりに探ってみたのですが、生理を理由に仕事を休めない、そもそも彼女自身が休もうとしない、そこに原因があると気づいたんです。
編集者
りょうちゃん
確かに、間違いないです。
元田さん
彼女が仕事を休めないことは上司や職場にも問題がありますが、そもそも休もうとしないことは、社会に問題があると考えます。彼女が会社勤めへ至るまでに、生理を理由に休むと甘えていると言われる社会が彼女をそうさせたのです。わかりやすく具体的に一つ出すと、例えば部活動。
編集者
クラミー
わ〜!めちゃくちゃわかります!キツい場面が多いですよね。
編集者
りょうちゃん
その方は、部活動で何をされていたのですか?
元田さん
彼女はバスケットボール部だったのですが、その部では練習や筋トレをみんなでシェアするんです。10人で100回筋トレとか、グラウンドを100周走るとか。つまり、10人いればひとり10周で済むところを、ひとりでも休むとその分1人の回数が増えるというシステムでした。
編集者
クラミー
厳しいシステムですね・・・。
元田さん
はい。昭和の香りがするシステムですよね笑。そのとき彼女は、彼女自身が休んでない時に生理で休んでいる友達に対して「何生理くらいで休んでんねん!私の持ち分が増えるやろ」と思ってしまったそうで。そうすると、自分が生理の時も友人にそう思われるだろうな、であれば鎮痛剤を飲んで耐えよう、という思考になってしまうんです。そういう環境にいた人間が社会に出るとどうなるか。職場に迷惑をかけないために、どんなに辛くても鎮痛剤を飲んで会社に行こう、となります。それを繰り返していった結果、彼女は“子宮腺筋症”という、子宮内膜症の一種であり、生理痛に異常な痛みを伴う病気になっていました。
編集者
りょうちゃん
病気にもかかわらず、いまだに生理痛だと思って耐えてしまう方もいらっしゃいますよね。
元田さん
そうなんです。私自身も、生理痛にも種類があることは学ぶまで知りませんでした。医療的な言葉を使うと「機能性月経痛」と「器質性月経痛」の二つに分けられるのですが、セミナーで男性陣に難しい熟語で伝えても覚えられないので、私は「大丈夫なやつ」と「ヤバいやつ」があると説明しています。
編集者
クラミー
ヤバいやつ(笑)。これなら覚えられます!
元田さん
仕方のない痛みもあるけれど、「ヤバいやつ」があるとは認識して欲しいんです。生理は痛いものだからと思い込んでいたら、女性自身も周りの人も、「みんなも痛いから、仕方がない」と我慢してしまい、誰も「病院に行こう!」と言えなくなってしまいます。女性にも男性にも、生理痛には二種類あって「ヤバいやつ」もある、ヤバいと思ったらすぐに病院へ、と覚えておいて欲しいです。
編集者
りょうちゃん
こうして月経について学び、セミナーなどを開いて広めている元田さんですが、この活動を通してやりがいを感じたり、嬉しかったりしたことはありましたか?
元田さん
受講者の方から「生理について全然知らなかった。」「ゲームを通して実感することができた。」など、セミナーを通して気付きを得られたという声を聞けた時が一番嬉しいですね。また、カップルで受けにきてくれた方から「彼氏がよりジェントルマンになってくれた」とか、子宮や身体に問題を持ちながら受講された方から「身体に向き合うことができ、結果子供を授かれた」とか。さまざまな声を聞けることが嬉しいです。
編集者
クラミー
それは嬉しいですね!
編集者
りょうちゃん
元田さんは、月経について広めたいとの志を持ってこの活動をされていると思いますが、何かしら〈志〉を持っている方たちに何かメッセージを伝えるとしたらなんと伝えますか?
元田さん
「自分を信じる」です。信じ続けること、それが全てですね。自分を疑うと何もできないですし、やり通すことは難しいと思います。
編集者
クラミー
何か始める時って見切り発車も必要だったりしますよね。石橋を信じて渡るような。
元田さん
石橋じゃなくても、木造でもなんでもとりあえず渡ることが大事ですね。落ちたら泳ぐくらいの気持ちで笑
編集者
りょうちゃん
たしかに。落ちたら泳ぐ覚悟のある方が、成功しているような気がします(笑)。
編集者
クラミー
最後に、今後の展望をお聞かせください。
元田さん
今一番力を入れているのが、学校で授業をすることです。今までに大阪府内の高校で授業をさせていただいたことはあるのですが、これを全国に広げていきたいです。まずは100校を目標に、社会に出る前の子供たちへ私が体験したことや知ったことを伝えて、社会に出た時に、少しでも「月経ジェントル」のイメージを持っていていただくことを目指しています。
編集者
りょうちゃん
100校が目標!政府が関わってきそうな規模感ですね(笑)。
元田さん
100校もやっていれば世間から注目していただけるかな、と思うんです。性教育や月経の授業はやはり女性がやることが多く、私の知る限り男性は今まであまりいなかったので。月経について発信している男がここにいるぞ!ということを知っていただけたらいいなと思っています。
編集者
クラミー
確かに僕自身、女性の発信を“女性の話だよね”という他人事のような感じで聞いてしまっていた気がします。男性から話を聞けば、男性は聴き入りやすいですね。
元田さん
注目度をあげた後、企業や公の場、それこそ政府の機関など、男女が一緒に働く場所でセミナーをさせていただける機会を増やしていきたいです。そして、私のような発信をする人や場所を増やして、コミュニティーを作ることが目標です。
編集者
りょうちゃん
男女ともにハッピーに暮らせる社会への一歩ですね。お話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
【インタビューに答えてくれたのは…】
元田 享兵(もとだ きょうへい)
1982年生 大阪市在住
同志社大学文学部哲学及び倫理学専攻 卒
農業生産法人(有)杉農園 取締役、大阪枚方市の農園(sugigohei.com)にて14年勤務。有機農業、食育、接客の責任者を務める。
ある時、彼女が生理痛が原因で救急車で運ばれる事件を体験し、女性の生理について研究する。
身近な人間の理解で生理の痛みが和らぐ様子を見て男性向け生理教育『月経ジェントル』を開始。
生理を学ぶボードゲーム「つくよみゲーム」を考案、ワークショップを開催するとともにファシリテーター養成講座を開講。
現在は企業の健康経営アドバイザーとして「女性の健康保持増進」セミナー講師を務める。企業、学校などで登壇。
【月経ジェントル研究所】
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