対談インタビュー
患者1人ひとりに寄り添い、負担を軽減。再生医療の力を信じ続ける整形外科医
今回インタビューにお答えいただいたのは、NPO法人リスタート・トラベル副理事、野中翔太さん。『看護師』としてのスキルを『訪問看護師』、『旅行看護師』と多岐にわたって活かす野中さんが、「全ての人が旅にいける世界」を目指そうという想いに至ったきっかけや経緯を紐解いていきます。
編集者
クラミー
現在の野中さんのお仕事内容を教えてください。
野中さん
今は、身体と心に不調のある方へ向けた精神科特化型の訪問看護を、非常勤という形で行っています。加えて、NPO法人のほうでは、障害のある方の旅行の付き添いや、貧困など色々な理由で旅や他文化に触れる機会を得ることが難しい方に、オンラインで海外とつなぐ場を提供したり、病気のある方が旅行に行きたいときに、支援をしたいと思っている支援者さんに向けた勉強会を開いたりしています。また、予防医療で、事前に体の様態を整えるために、健康についてのアドバイスや物品販売を行っています。
編集者
りょうちゃん
看護師という軸を持ちつつ、様々なお仕事をされているのですね。野中さんが看護師になったキッカケを教えてください。
野中さん
元々は、看護師になろうと思っていたわけではなく、高校生のときに行った1人旅で旅の素晴らしさを感じ、添乗員さんになろうと思っていたんです。しかし、「家族に恩返しをしたい」という思いと、スキルが身につく、人と関わって成長できる、やりがいを感じられる、という点を考えた時に、医療職を意識し始めるようになって。そこから、患者さんの色々な姿に立ち会える看護師という職業にどんどん惹かれるようになりました。周りにあまり男性の看護師さんが居なかったのもキッカケの一つですね。
編集
クラミー
経験を重ねていくなかで、『旅行看護師』 という役割を見出していかれたのでしょうか?
野中さん
当時、看護師のキャリアに悩んでいたときに、「違う道を選ぶのなら自分で何かしないといけない!」という思いで、災害の医療や付き添いのボランティアを始めたんです。あるとき、娘さんからお婆さんの里帰りのボランティア依頼をいただくことがあったのですが、恩返しをしたい娘さんの想いとは裏腹に、施設の環境やお医者さんの保守的な姿勢が原因で、お婆さん自身は里帰りを望んでいなかったようで…。お二人の間に気持ちのすれ違いが生じていたのですが、想いを伝え合ううちに、お互いの伝えきれなかった想いを知ったり、旅行先で絆が深まったりしたようで、その後の介護生活に変化があったと聞いたときに、旅行は“ツール”であると同時に関係性を良くするきっかけにもなるのだと思いました。旅行に至るまでのやり取りや、一緒の思い出を共有することで、その後の人生に繋がるきっかけを作ることができるところに魅力を感じたのが『旅行看護師』の始まりですね。
編集者
りょうちゃん
NPOでされている、『リスタートトラベル』の『リスタート』はそこにかかっているのですか?
野中さん
そういった意味もあります。元々、『リスタートトラベル』では、介護が必要な方の旅行を作っていくための活動をしていたのですが、そのなかで旅の本質を見つめ直す瞬間があったんです。
編集者
クラミー
それは、どのような疑問がきっかけで?
野中さん
「旅行に行けない人もいるなかで、行くだけが旅じゃないよな、じゃあ旅ってなんだ?」と。そこから本質を考え、「行った先の“文化”や“人”と触れあうことで自分との違いを知り、価値観が変わって“生き方が変化する”ところに価値があるんじゃないか」という結論に至ったんです。「障害があるから行けない」、「お金がないから行けない」、そんな風に旅を諦めてしまっている全ての人に「旅を通して“文化”や“人”に触れる機会を提供したい!」と思い、NPOという形で『リスタートトラベル』を発足しました 。
編集者
りょうちゃん
あくまで“行く”だけが旅じゃない、という答えを見つけられたんですね。旅に行かない場合は、どのように“文化”や“人”を繋いでいるのでしょうか?
野中さん
最近だと、日本の子ども食堂とタイの象使いさんとをオンラインで繋いで、本場の文化に触れ合う機会をつくりました。
編集者
クラミー
小さい時に、様々な文化に触れることで、子どもたちの選択肢が増えていくのは『リスタートトラベル』の魅力のひとつですね!
野中さん
そうですね。「小さい頃から色々なものに触れること」をテーマに、教育のサービスを作ったり、旅行会社とタッグを組んだりして、出来ることをやっています。
編集者
りょうちゃん
旅行看護師のお仕事では、病院で経験された患者さんとの対峙とはまた違ったベクトルでのコミュニケーションが必要になると思うのですが、大きく違うと感じるのはどういった部分でしょうか?
野中さん
医療には制度の壁が多いので、「患者さんにもっと何かしてあげたい」と思っても、決まっている業務以上のことが看護師にはなかなか出来ない現実があったのですが、旅行看護師のコミュニケーションを通して「体調どうですか?」といった診察の延長線上の話と、旅行ややりたいことの話をするときとでは、患者さんも僕らも気持ちの前向きさがまったく違うことに気づいて。本人やご家族も「旅行に行きたい」「行かせたい」という話になると、「なぜ行けないのか」を自分の問題として捉えて「どうしたら行けるようになるのか」を主体的に考えるようになるんですよ。患者さんは、病気が理由で控えめなところがあるのですが、話を聞いていくうちに、自分の問題点に気づくチャンスが生まれることもあって。「僕らが習ってきた看護とは大きく違うジャンルの接し方だな」と思うことが多々あります。
編集者
クラミー
確かに。自分にできるか分からないことって話すのがちょっと億劫になってしまうものですもんね。そこを誰かが引き出してくれれば、話しやすくなりますし、未来が見えて明るくなる気がしますね。
野中さん
そうですね。人間誰しも「何かをしたい」という〈意志〉があって行動するじゃないですか。リハビリや治療も、〈意志〉を持っているか、いないかで効果の出方が大きく変わってくるんです。「〇〇に行くために階段を5歩、10歩頑張って昇ろう」と思えたら、すでにそれ自体が〈意志〉になっていますよね。患者さんも目標を目指してリハビリすることに関してはすごく前向きですし、リハビリの先生たちも「リハビリを通して何かをできるようになってほしい」という想いがあるので、両者の“関係値のデザイン”を行いやすくなるんです。
編集者
りょうちゃん
野中さんが今後、チャレンジしていきたいことは何ですか?
野中さん
いま、世の中に旅行看護師の取り組みのニーズがあることは分かっているのですが、受け手がいなかったり、受け手側の準備ができていなかったり、という問題点があるので、もっとさまざまな経験を共有して、より大きなニーズに答えていけるようになりたいです。今はニッチなサービスですが、世の中にとって当たり前のサービスになればいいな、と。実は、そのためにあえてNPO法人にしているんです。勉強会などをもっと精力的に行っていき、認知度を増やしていけたらいいなと思います。
編集者
クラミー
これから少子高齢化と言われているからこそ、どんどん増えていくニーズですよね。一度、「好き」を仕事にしようとして、現実を見て、また違うところから「好き」に関わられている野中さん、素晴らしいと思います。野中さんのように、新しいことに踏み出したい方や「自分の好きなことを仕事にしたい」と思っている方にアドバイスをするとしたら、何と伝えたいですか?
野中さん
医療者の方の場合ですが、医療業界にいると、どうしても自分のいる業界だけを見がちなんですよ。医療の業界って世の中で見たらとても狭いところにあるので、自分の仕事が世の中でどこの立ち位置にいて、どのような仕事が評価されて、何がお金になっているのか、といった〈仕組み〉を見て欲しいと思います。僕ら医療従事者の仕事は、持っている国家資格のなかにある知識を“病院”という限定された場所で提供していく仕事なので、拡大していくことがないんです。だから「何か新しいことをしたい!」と思っても、自分の知識が何に役立つのかが分からないことが多くて。自分が世の中に対して何が提供できる人間なのかを知ることからはじめてほしいと思います。
編集者
りょうちゃん
確かに。自分のできる範囲、見えている範囲でしか、やりたいこともできることも想像できないですもんね。
野中さん
僕も看護師の世界しか知らず、「看護資格のなかでできること=旅行看護師の仕事」をやってみたものの、ビジネスにした瞬間、すごく難しい問題をたくさん目の当たりにしてきました。そこで思ったことは、違う業界からの視点を用いて、仕事の形を噛み砕きながらやれることを考えたり、自分ができないところはプロに手を貸してもらったり、世の中を知るために色々なところに顔を出して話を聞いたりすることは大事だということ。あとは、〈学び〉と〈気づき〉の違いも大事。〈学ぶ〉ことは、本を読んだり勉強したりすればできると思うのですが、〈気づき〉を得るためにはたくさんの失敗経験が必要だな、と。失敗することでしか新しいことは見えてこないですし、そうでなければ気づくこともできないと思うんです。
編集者
クラミー
卓上でできることだけでなく、一歩外に出て、自分の中に落とし込まないといけないこともあるんですね。
野中さん
そうですね。そうやって、自分の強みや弱みを知ったうえで、できることが見えてくるんじゃないかと思います。
編集者
りょうちゃん
たくさんのお仕事を同時にこなされている野中さんですが、何かマルチタスクのコツを教えていただけたらと思います。
野中さん
“自分だけができるところだけをする”ですかね。僕の場合は、訪問看護の立ち上げや、それを教えた経験が自分の強みだと思っているので、その知識を使える部分は僕自身がお手伝いをしています。
編集者
クラミー
強みの部分は自分でやり、それ以外は他の方と協力して、ということですね。
野中さん
はい。僕以外の方でもできる部分は、できるだけ他の方に任せています。すべてを自分で抱えすぎないようにしています。
編集者
りょうちゃん
時間は限られていますもんね。
野中さん
そうですね。「自分が今できることで何が仕事になるか」を考えることができれば、自ずと仕事の道が見えてくるんじゃないかと信じています。
編集者
クラミー
実際に、ご自身の〈強み〉を活かして、NPO法人や新しい事業を立ち上げられている野中さんから、同じように自分で起業をしたいと考えている方にメッセージをお願いします。
野中さん
「訪問看護したい」「自分や家族の住んでいる地域に貢献したい」「地元に寄り添って生きていく」という想いがあるのなら、すごく良い決断だと思います。「何を目的に立ち上げるか」「どういう生き方をしていきたいか」を、しっかりと考えることができていれば、きっと大丈夫です。
【インタビューに答えてくれたのは…】
NPO法人リスタート・トラベル副理事
ツアーナース/看護師 野中翔太さん
「身体も心も看れる看護師になる」をテーマにまずは救命センターへ就職。
基礎的なスキルや考え方を学んだ。
その経験の中で精神科領域に関心を持ち、精神科総合病院へ転職。
経営や新しい看護の形を求めて人と会って行く中でご縁をいただき訪問看護ステーション立ち上げに関わる。
日々の援助の中で「その人らしさ」を大切にした援助がしたいと思い、旅行支援を開始。
現在、想いある方々と一緒に「旅」をテーマにしたNPO活動を行なっている。