人々の健康と真摯に向き合う
保健指導・栄養指導の仕事

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

現在のお仕事内容を教えてください。

土井さん

土井さん

今は、サラリーマンの方を対象に生活習慣病予防のためのサポートをする特定保健指導と、糖尿病の専門クリニックで栄養指導の仕事をしています。バランスとしては、週に4回保健指導をして、週1回だけ非常勤としてクリニックで働いています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

保健指導は会社に出向いて行われているんですか?

土井さん

土井さん

そうですね。保健指導の方は派遣なので、派遣スタッフとして対象の企業や事務所に出向いて、面談などを行っています。クリニックも同様で、院内で患者さんと1対1でお話しする形ですね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

なるほど。会社での保健指導では、具体的にどんな面談を行われているのでしょうか。

土井さん

土井さん

特定保健指導という国の制度があり、40歳以上の方は特定健診を受けていただくことになっているんです。この検診で血液検査の項目が基準値を超えていらっしゃった方は、対象者として保険指導を受けていただくシステムになっていて。この指導を担当させていただいています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

検診で引っかかった方が呼び出されるんですね。保健指導のなかで、対象者はどういった反応をされるんですか?

土井さん

土井さん

人によってさまざまですね。「何でこんな指導を受けなきゃいけないんだ…」といった方もいれば、これを機にもう少し頑張ってみようかなとか、生活習慣を改善してみようかなとか、良いキッカケにしてくださる方もいます。意識レベルはピンからキリまでですね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

保健指導も栄養指導も、どちらもかなり人と関わるお仕事なんですね。

実体験から感じた食生活改善の力と
諦めきれなかった栄養士の夢

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

元々土井さんが栄養の世界に入ったのは何がキッカケだったんですか?

土井さん

土井さん

実を言うと、最初は栄養士の学校を卒業したわけではなかったんですね。高校生の頃は獣医になりたくて、獣医系の大学を目指していました。ただそこに入ることはできなくて、農学部系統の大学に進んだんです。それで当時、今よりも40kgくらい太っていて。一人暮らしを始めることをきっかけに、自分で栄養学を勉強して、大学の部活にも入って、結果的にかなり痩せたんです。その時に、栄養を意識することってすごく大事なんだなと思って。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

見た目だけでなく、気持ちにも大きな変化をもたらしたんですね…!

土井さん

土井さん

そうなんです。とても明るくポジティブな自分になれた気がして。時を同じくして栄養士という職業も知って、このお仕事に就いてみたいと思い始めました。とはいえ、もうすでに栄養学とは全く違う世界の大学に入ってしまっているわけで。栄養士って、絶対に専門の学校を出ていないとなれないんです。夜間部のようなものもなくて。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

なるほど…、栄養士の資格が取れる短大・大学・専門学校などを卒業しないといけないんですね。

土井さん

土井さん

はい。なので大学を卒業した後は、栄養士とは全く関係のない営業や販売の仕事を3年ほどしていました。ただ、それでもやっぱり諦めきれなくて。思い切って仕事を辞めて、専門学校に入学しました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

大学時代の想いが、ずっと心の中に残っていたんですね…!それでも、すごい決断力です。そして専門学校を卒業後、管理栄養士になられた形ですか?

土井さん

土井さん

管理栄養士という資格は、栄養士とはまた少し違うんです。栄養士のワンランク上の資格にあたるので、管理栄養士の試験を受けるためには3年の実務経験が必要で。専門学校を出た後は栄養士として3年働いて、働きながら管理栄養士の試験を受け、資格を取得しました。食事や生活習慣を改善させることで人々の生活をプラスに変えていくことが、自分の喜びにつながるはずだという想いを強く持っていたので、実務経験のハードルがあっても管理栄養士の資格をどうしても取りたくて。そこから今に至る感じですね。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

一旦社会に出てから、もう一度学校に入るというのもまた大きなハードルだと思うのですが、どのタイミングで専門学校に行こうと決意されたのでしょうか。

土井さん

土井さん

決意したタイミングは、入社3年目の春頃でした。3年って、社会で働き出してからの1つの節目というイメージもあって。当時26歳で、20代後半に差し掛かってきたなかで、自分の本音をぽろっと親の前でこぼしたんです。「本当は栄養士になりたいんだ」と。そうやって思い切って相談してみたら、前向きな意見をもらえました。金銭面での支援をするとも言ってくれたので、それが後押しになった部分は大きいですね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かに、3年目はちょうど仕事にも慣れて、落ち着いてくる頃合いではありますよね。先のことを考えられる余白ができるというか。

土井さん

土井さん

はい、まさにそうでしたね。

専門学校時代の恩師から受け継いだ
いつまでも成長し続ける姿勢

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

専門学校時代で、印象的だった出会いなどはありますか?

土井さん

土井さん

とても魅力的だった先生が1人いました。非常勤で、当時からフリーランスとしてご活躍されていた方で。その先生が、実は私が今お仕事をさせていただいているクリニックでずっと働いていらっしゃった方なんです。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

そうだったんですね…!そんなつながりが!

土井さん

土井さん

学生時代からずっと、一緒に飲みに行きましょうよとか、こういうこと教えてくださいとか、私がしつこく先生にアタックしていて(笑)。でもとても良い先生で、私の夢も応援していただいて。卒業後は、1年に1回とか、数ヶ月に1回程度会うくらいの頻度ではあったんですけど、去年先生から「土井さんもうちの糖尿病のクリニックに来ない?」と誘っていただいたんです。その時は本当に嬉しかったです。先生との出会いが、自分の人生のターニングポイントといっても過言ではないですね。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

その先生のどんな所に惹きつけられたのでしょうか?

土井さん

土井さん

専門学校時代の話なのでもう10年くらい前になるんですけど、今でこそフリーランスでお仕事をする人は増えてきていますが、当時はまだ珍しくて。けれども先生は当時50代で、30代の頃からずっとフリーランスとして走り続けてきていました。フリーランスの栄養士って、おそらく昔はほとんどいなかったんですよね。専門学校のほかの先生と比べても、授業への熱のこもり方が全く違くて、言葉にならないオーラを感じました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

1人で戦い続けてきたオーラがみなぎっていたんですね…!

土井さん

土井さん

そうなんです。1人1人の生徒に対する関わり方もとても丁寧だなと感じました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

その先生の特にリスペクトしたい部分というか、自分の軸として引き継いだようなものって何かありますか?

土井さん

土井さん

先生は今60歳なのですが、今もなおご自身にコーチをつけて、目標を掲げ続けているんです。まだまだ成長できると思われているようで。私の母もそうですが、ごく一般的な60代といったら、隠居して自分の好きなことをしたいと思われる方が世間的には多いのかなと思うんです。ただ先生は、すでにこれまでたくさんのノウハウを培ってきたにもかかわらず、今いる場所にとどまろうとはしていなくて。例えば私に、InstagramやCanvaの使い方を教えてと聞いてきたりします。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

Instagramのほかに、Canvaも…!私、Canvaを触り始めたのつい最近です…(笑)。

土井さん

土井さん

学ぶ姿勢を忘れずに、年下の人間に対しても謙虚に接してくださる部分は、自分もこうありたいなと思いますね。成長意欲を持ち続けることは、私も自分の軸にしていきたいです。

未来の自分の〈声〉を想像して
今いる場所で違和感を感じたら、周囲の〈声〉を聞いて

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

栄養士の夢を燻らせながら別の仕事をしていた時期があったとお話いただきましたが、本当はやりたいことがあるけれど行動に移せていない方へ、1歩を踏み出せるようなメッセージを贈るとしたらどんな言葉を選びますか?

土井さん

土井さん

10年後の自分は何て言っているだろうと、未来の自分の声をちょっと想像してみるといいと思います。想像することで、今やった方がいいのか、もしくはやらずにその時にいる道を進み続けた方がいいのか、少し判断しやすくなるのかなと。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

土井さんが専門学校に行く決断をした時は、「栄養士を目指してほしい」という10年後の自分の声が聞こえてきたんですね。

土井さん

土井さん

そうですね。その10年後がまさに今なのですが、諦めずにあの時専門学校に行ってよかったと思います。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

「みんなの履歴書」は、医療人向けに働き方の多様性を伝えるような媒体でもあるのですが、転職という1つの大きな変化に関して、背中を押すとしたらどんなエールを送りますか?

土井さん

土井さん

私自身、以前、職場の人間関係による極度のストレスでかなり悩んでいたことがありました。たまたま父の知り合いで弁護士の方がいて、相談させていただき、最終的には退職することができたのですが、職場のなかで強い言葉をずっと浴び続けると、「自分がおかしいのかな」と思いそうになってしまうんですよね。私の場合は、家族や弁護士の先生であったり、先ほどお話した専門学校時代の先生にも相談したりして、「それはあなたじゃなくて職場がおかしい」とズバッと言ってくれたのが救いになりました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

職場で何か違和感であったり、「しんどいな」と感じたりしたら、やっぱり外の人に一度聞いてみるのがいいんですね。

土井さん

土井さん

おっしゃる通りだと思います。井の中の蛙じゃないですけど、同じ世界だけにずっととどまっていたら、見えるもの見えなくなってしまう可能性があるので。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

これまでさまざまな方にインタビューさせていただきましたが、1つの職場でずっと、というよりも、複数社でお仕事をされてきた方が比較的多くて。外の世界に出てみると、見え方が全然変わってくると皆さんおっしゃっていました。

土井さん

土井さん

そうですね、個人経営のクリニックだとなおさら外の声が入ってきにくくて、どうしても閉鎖的にはなりがち。振り返ってみれば良い経験だったなとも思えますが、もし今いる場所で苦しんでいるのだとしたら、無理に抑え込まず、周りの人に助けを求めてほしいです。

フリーランスは自分の目的を明確に
収入の柱は1つに依存しない

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

土井さんはフリーランスの管理栄養士ということでしたが、こんな人がフリーランスに向いている、といった素質のようなものを挙げるとしたら何でしょうか。

土井さん

土井さん

自分のやりたいことや目的としていることが、フリーランスという働き方に見合っているのかどうか考えるのがまず大事だと思います。会社のやり方に縛られないとか、時間の融通を自由に効かせられるとか、好きな人と仕事をするとか、フリーランスにはさまざまな特徴がありますが、自分が何を重視したいのか、というところですね。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

フリーランスは自分で選び取っていく働き方ですもんね。

土井さん

土井さん

そうですね。やっぱり、自分が将来どういうことを実現したいのか、はっきり決まっている人の方がフリーランスとして仕事をしていきやすいのかなと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

言葉の響きだけだと、フリーランスはどこか自由な印象を与えますが、自分で作り上げていかなきゃいけないという意味では想像以上に厳しい世界ですよね。曖昧な気持ちで飛び込んだら、きっと失敗してしまうのではないかと思います。フリーランスで仕事をするにあたって、こんな覚悟だけはつけておいた方がいい、といったものは何かありますか?

土井さん

土井さん

会社に雇用されているわけではないので、いつでも切られる可能性がある、といった所ですかね。特にコロナ禍は、周囲の派遣スタッフが「明日から来なくていいよ」と急に言われたりしていたこともありました。正社員ではないですが、派遣といえどある程度安定はしているはずだと思っていたので、当時そういった状況を目の当たりにして大きな危機感を覚えました。収入の柱は1つじゃなくていくつか持っておいた方がいい、とも改めて思いましたね。

プロとして求められ続けるために
管理栄養士の資格にプラスアルファを

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

フリーランスとして働くなかで急に仕事を切られないためには、「今後もこの人と一緒にやりたい」と思われる人でいる必要がありますよね。そういった意味では、知識のアップデートなども土井さんは意識されているのでしょうか。

土井さん

土井さん

そうですね。私は特に専門職なので、専門性を求められる場面では必ず応えていくのがミッションだと思っています。なので、勉強は日頃からし続けていますね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

時代の変化に伴って、食品や栄養の情報もどんどん新しくなってきていると思います。昔と比べると、アップデートの速度も速めていたりするのでしょうか。

土井さん

土井さん

時代の変化、という意味では、「管理栄養士の資格を持ってます」とだけ言っても、今は飽和状態になりつつあるんですよね。資格を持っている人が増えすぎてしまっていて。なので、管理栄養士のプラスアルファになる何かを自分の強みとして備えておく必要があると思います。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

なるほど…!ちなみに、土井さんの場合は?

土井さん

土井さん

私は、禁煙サポーターや睡眠アドバイザーの資格を取ったりしました。少し横道には逸れていますが、いずれも仕事において管理栄養士のプラスアルファにはなっているので、自分の強みとなるような知識やスキルをつけていくのが大事なのかなと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

なぜ禁煙の分野に力を入れようと思われたんですか?

土井さん

土井さん

先ほど、パワハラを受けていた職場で狭心症にかかったことをお話しましたが、この病気って、実は圧倒的に喫煙者がかかることが多いらしくて。だから主治医の先生にはまず最初に「あなたはタバコを吸いますか?」と聞かれたんです。でも私は非喫煙者だったので、狭心症の原因はあくまで精神面から来ているものでした。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

喫煙者に多い病気なんですね…!知らなかったです。

土井さん

土井さん

私も驚きましたね。狭心症の発作って、尋常じゃなく苦しいんです。身悶えするような痛みに襲われるんですけど、その時に「タバコを吸っている人は、自分でこの病気にかかるリスクを上げているんだ…」とふと気づいて。それは大変なことだなと思いました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

土井さんご自身が経験されているからこそ、看過できなかったんですね。

土井さん

土井さん

そうですね。その時点ですでに保健指導の仕事はしていて、仕事のなかでも禁煙を勧めることは1つの指導項目として含まれていたんです。それまでは「タバコは辞めた方がいいですよ」とさらっと勧める程度だったのですが、自分が狭心症になったことがきっかけで、もっと本気で向き合ってほしいと思うようになりました。家族にも大きな心配をかけたので、そうやって周囲の人にも影響が及ぶことを伝えたくて。そんな経緯があって、私は禁煙サポーターの資格を取りました。

臨床の現場に立ち続けながら、
恩師と共創する新サービスのビジョン

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

今後の展望など、思い描いているビジョンがあればぜひお聞きしたいです。

土井さん

土井さん

今と変えたい所と、変えたくない所の2つがあって。まず変えたくない所は、今働いている糖尿病の専門クリニック。ここは臨床の現場として、私にとって最高の場所なんです。院長先生もとても優しいし、チーム全体の雰囲気が抜群で。みんなで患者さんを良くしようという連帯感があります。先ほどお話した専門学校時代の先生もいらっしゃいますしね。臨床の現場に日頃から立っているからこそ、知識のアップデートもより一層意識します。学会に出るチャンスも増えるので、この場所にはこれからもずっと身を置いていたいと思っています。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

なるほど。ではもう1つの、今と変えたい所というのは?

土井さん

土井さん

今後、今よりも保健指導の仕事を少し減らしていきたいなと思っていて。個人事業主になって、自分の手でサービスやコンテンツを作って売り出していけたらと考えているんです。実はこのサービスを、例の先生と一緒に2人で組んでやろうといったお話をしていて。いつか実現できたらいいなと思っています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

そうなんですね…!専門学校時代に先生と生徒として出会って、ビジネスまで一緒にやるようになるなんてすごくワクワクしますね!

土井さん

土井さん

昔の自分からすると夢のまた夢のような話ですが、尊敬している方の隣に並んで歩いていけるのは嬉しいことですね。

【インタビューに答えてくれたのは…】
管理栄養士 禁煙サポーター・特定保健指導
土井理恵子さん

大学卒業後
営業・販売

管理栄養士としての職歴
・給食会社
→大学病院厨房業務
・特別養護老人ホーム
→栄養マネジメント
・歯科医院
→歯科助手・食事アドバイスなど

現在
・特定保健指導
・糖尿病専門クリニックにて栄養指導