対談インタビュー
〈食べる〉は生きていくうえでの〈喜び〉。限界に異を唱え、可能性を追求する言語聴覚士
今回インタビューにお答えいただいたのは、 医療・福祉に関する事業の立ち上げサポートを行っている石塚一輝さん。さらに自社では訪問看護や人材紹介の事業を運営しているほか、剣道の社会的地位を上げることを目指した「剣道プロジェクト」にも力を入れています。元々は畑違いだった医療・福祉業界に石塚さんが足を踏み入れた理由や、未来を担う若い 方々に対するキャリアのアドバイスなどをたっぷり伺ってまいりました。
編集者
クラミー
現在の仕事内容について教えてください。
石塚さん
まずひとつは、主に在宅関連の医療・福祉事業を立ち上げから全面的にサポートする仕事をしています。企業によって事業の組み立て方はさまざまですが、大体1~2年かけて、形になるまで伴走します。そのほかに、自社で訪問看護や人材紹介の事業も行っています。また、医療・福祉からは少し外れますが、長年の剣道経験から思うことがあり、剣道プロジェクトという活動にも力を入れています。
編集者
りょうちゃん
どのような経緯があって、現在のお仕事にたどり着いたのでしょうか?
石塚さん
大学卒業後、元々パナソニックで経理の仕事をしていたのですが、医療・福祉の業界に入るキッカケとなったのは2040年問題(※1)への危機感です。医療技術が進化している一方、保険などの制度に関して勉強すればするほど、70~80歳まで働かなければいけない時代が来ることを予感しました。まだ身体が元気なうちに、仕事において自給自足できるような力をつけていないと将来が厳しくなるのでは、と。
編集者
クラミー
「人生100年時代」という言葉も最近はよく耳にしますよね。
編集者
りょうちゃん
社会問題への興味関心から、具体的にどのようなアクションがあって、異業種である医療・福祉の世界へ入っていかれたんですか?
石塚さん
当時は内勤の仕事だったので、基本的に土日はかなり時間が空いていたんです。そんななかで、社会貢献に関する活動に興味が湧いてきて、インターネットで調べてみると「福祉」がまずキーワードとして出てきたんです。まったく関わったことのない世界ではありましたが、調べていくうちにだんだん福祉に興味を持ち始めて、知り合いが運営しているデイサービスでお手伝いをするようになったのが始まりです。
編集者
クラミー
縁がなかった世界に初めて触れてみて、どんなことを感じましたか?
石塚さん
ネットに書かれている通りだと思ったものもあれば、実際は全然違うと感じたものもありました。いずれにせよ、もう少し理解を深めたいなと。ただ私は専門的な知識や資格を持っていたわけではなかったので、そういった人でも比較的取得しやすいガイドヘルパーの資格を取って、障がいのあるお子さんのサポートに携わり始めました。期間としては大体2年半~3年くらいですね。そうやって福祉の世界で新たに関わりを広げていくなかで、強く感じたことがあって。
編集者
りょうちゃん
と、言いますと?
石塚さん
そこに身を置いている方々は、ほとんどが福祉の世界から生えていて。悪い意味ではなく、私と観点がまったく違ったんです。第三者目線を持ちながらデイサービスやレクリエーションに関わっていくなかで、「もっとできることがあるんじゃないか」と思うことが増えていきました。ずっと福祉の世界に身を置いていると気づきにくい、一般寄りの考えも混ぜていったほうがより良いサービスを提供することができるのではないか、と。
編集者
クラミー
福祉の外から来られた石塚さんの考えは、いわば風穴だったんですね。
石塚さん
そうですね。もっと関わっていきたいという気持ちもどんどん大きくなっていって、そんな想いを話してみたら「それなら一緒にやりましょう」と、とある理学療法士さんと看護師さんが言ってくださいました。結果的にそのお2人とは訪問看護事業を立ち上げることになり、そこから医療の世界にも入っていきました。
編集者
りょうちゃん
剣道に関する活動も行われているということでしたが、こちらはどのような経緯で?
石塚さん
小学2年生の終わり頃から始めて以来、中学・高校・大学と学生時代はずっと剣道一筋でした。中学と高校はスポーツに力を入れているPL学園に、大学は剣道の強豪と言われている中央大学に進みました。家系的にも剣道一家で、私含め、父も兄もみんな剣道日本一になっています。大学卒業後はいち会社員として働き始めましたが、キャリアを積んでいくなかでも、これまで剣道で培ってきた経験や力が活きていることを実感する場面が多くて。そこから、剣道界に恩返しをしたいと思うようになったんです。
編集者
クラミー
「恩返し」、素敵な想いですね!
石塚さん
また、もうひとつ感じていたのが、社会における剣道の社会的地位の低さです。私の父や兄は警察官なのですが、警察には特練(※2)という制度があります。この特練を通して剣道の技術向上に励み、現役を退いた後は指導者として関わっていくのですが、これはいわゆるプロではないんです。プロというシステムがそもそも剣道にはないため、剣道だけで生活を形成することが難しい現状です。たとえ、日本一の実績や師範級などの確かな実力を持っていたとしても。そんな、他のスポーツとは一線を画している剣道の世界を変えたいと思い、起業と並行して、剣道の価値や認知度を高める剣道プロジェクトという活動を立ち上げました。
編集者
りょうちゃん
子どもの頃から長年見てきた世界だからこそ、現状に対して「何かできないか」と歯がゆい思いをされていたんですね。
石塚さん
そうですね。ただ、オリンピック種目になってほしいとか、プロ制度が作られてほしいとか、そういうことを考えているわけではなくて。剣道は武道の一種であり、古くから伝わってきた日本文化です。そんな由緒ある文化なのであれば、もう少し社会的地位が高くなってもいいんじゃないか、と。そこに、恩返ししたいという気持ちも上乗せされて、剣道でご飯を食べていける世界を作りたいとより強く思っています。
編集者
クラミー
医療・福祉の世界で自ら事業を興しながら、剣道プロジェクトも立ち上げて…バイタリティの高さを感じます!
石塚さん
そこなんです。やっぱり、それぞれに労力を割くのはなかなか大変で。なので、実は現在の事業に関わるスタッフはほとんどが剣道経験者なんです。剣道プロジェクトを進めていくために、剣道に対する理解や知見がある人をあえて集めています。また、事業の中で行っている人材紹介をひとつのツールとして剣道プロジェクトにも活かし、剣道をやっている学生さんに対するサポートを行ったりしています。
編集者
りょうちゃん
医療・福祉の世界に第三者的な考え方も混ぜたい、とおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなイメージでしょうか?
石塚さん
たとえば訪問看護事業をやっていると、「もっと訪問看護に絞ったほうがさらに儲けられる」とよく言われるんです。でも、スタッフはいつまでも現場に立ち続けられるわけではありません。年齢を重ねるとともにどうしても体力は落ちてくるので、現場の生産性だけを頼りにしていると自ずと売り上げも下がってしまいます。かと言って、そんな状況のなかでも上層部の給料を下げるわけにはいかないので、その下の立場にいるスタッフはどれだけ経験を積んでも給料が上がりにくいという現状も見受けられます。これはあまり将来性が感じられないな、と。
編集者
クラミー
確かに、どこか限界が感じられますね。
石塚さん
なので、訪問看護事業を行いつつ、コンサル方面にも広がりを持たせたくて。たとえば看護師さんや理学療法士さんを指導側として地域のヘルパーさんの研修の場に立たせたりするなど、そういった新たな機会を生み出すことに私は目を向けています。
編集者
りょうちゃん
現場に立つことだけではなく、培ったノウハウを人に伝えていくことも大切ですよね。
石塚さん
そうですね。また、訪問看護の拠点を現在の大阪だけではなく福岡や東京に作りたいとも考えています。各地の拠点は出張所のようなイメージで、スタッフを適宜転換させたいんです。どうしてもこの業界は休みを取ることが難しい部分があるので、せめてモチベーションを上げるために、場所を変えて仕事をするのが良いんじゃないか、と。気分転換にもなりますし、勉強になることもきっと多いはずです。
編集者
クラミー
たくさんの刺激が得られそうですよね。
石塚さん
そうですね。スタッフ1人ひとりがキャリアにより膨らみを持たせられるような、そんな組織作りをしたいと思っています。
編集者
りょうちゃん
この媒体の読者のなかには、医療・福祉の勉強をずっと続けてきた学生の方が多くいらっしゃいます。そういった方々に対して、医療・福祉の外から入ってこられた石塚さんなりの、さらなる知見の広げ方に関するアドバイスをぜひ伺いたいです。
石塚さん
いまはインターネットで検索して情報を得るのが当たり前になっていますが、これが結構落とし穴だと思っていて。知っている情報=自分の経験値と思い込んでいる若い方がかなり多い印象を受けます。私の若い頃よりも、いまの若い方のほうが圧倒的に知識量が豊富で、素直にすごいと思うこともあります。ただ、実際の経験値が少ない方が多いんです。肝心な経験が伴っていないんです。
編集者
クラミー
ひと昔前だと、直接足を運んでそこで見聞きしたものが情報であり経験でしたよね。
石塚さん
そうなんです。ネットは便利なツールではありますが、最初から全面的に頼るのではなく、人に直接聞いたりするなど、もっと能動的に行動を起こして生きた情報を得るのが大事だと思います。人と話すことで新たなつながりも生まれる可能性があります。便利さだけに囚われず、主体性を持って行動できた方が一歩抜きん出るのではないでしょうか。
石塚さん
また、行動するためには、自分の目標や夢を明確にしておくことも大事です。自分のやりたいことが見えていないと、動こうにも動けません。
編集者
りょうちゃん
確かに、どこに向かって進んでいけばいいのかわからないですよね。
石塚さん
そこで大事になってくるのが自己分析なんです。この自己分析ができていない方も多く見受けられて、これもネットの影響が大きいと思います。自分の強みや弱み、何に興味があって何がしたいのか、それらを洗い出すのが大切です。たとえば学生の場合、就活の少し前から自己分析を始める方が多いかもしれませんが、正直もっと早くからやっておいたほうがいいと思います。友達に、ラフに「私のいいところ言って」と聞いてみるのもおすすめです。
編集者
クラミー
自分という人間を深掘りするためのひとつの方法ですね。
石塚さん
はい。自分が思っていることと相手が感じていることに違いがあればそれは新たな気付きとなります。そうやって自分のことをよく把握してから社会に出ていくべきだと思います。就職に悩んだり職を転々としたりしてしまう方は、自己分析が足りてないのではないかな、と。
編集者
りょうちゃん
自分のことがよくわかっていれば、ブレることもないですもんね。
石塚さん
とはいえ、自己分析はやっぱり難しいものであることも確かだと思います。なので、悩める学生たちのために自分を知るきっかけ作りの場を与えることも、私たち社会人の役目なのでは、と。そういった機会を、実際に私は剣道プロジェクトにおいて設けています。これまで積み上げてきた経験を生きた情報として提供し、できるだけ広い視野と多くの選択肢を持った状態で、「自分は〇〇をやりたいからこの会社を選んだんだ」と学生さんたちには思ってほしいです。
【インタビューに答えてくれたのは…】
石塚一輝(いしづか・かずき)様
訪問看護運営/クリニック事務長/剣道元日本一 医療•福祉コンサル経営者・役員 剣道六段
https://www.instagram.com/kazukiishizuka?igsh=MXRzcXgyd2sOdGlxeQ%3D%3D&utm_sou rce=qr
https://ishizukakazuki.com/
医療•福祉業界に関する開業から運営サポート、 コンサル。 自社で訪問看護、 人材紹介、 医療機器販売、 リラクゼーションサロン経営。 剣道プロジェクトという活動を行い、 剣道の社会的な認知度や地位を上げる為に、 日本全国、 海外を周り剣道の繋がりを広げている。 剣道を通じて仕事の繋がりも構築している。