対談インタビュー
患者1人ひとりに寄り添い、負担を軽減。再生医療の力を信じ続ける整形外科医
今回インタビューにお答えいただいたのは、理学療法士の国宝孝佳さん。障害をもつ人々の声をデザインの源にする「インクルーシブデザイン」を活かした事業や、医療従事者の起業をサポートする事業を展開されています。人々の“出来ない”を支え、“出来る”にスポットライトを導く国宝さんの、起業への道のりや、事業を通して目指すことを伺ってまいりました。
編集者
クラミー
ではまず、現在の仕事内容を教えてください。
国宝さん
はい、現在三つの事業をしています。まず一つ目は、株式会社国宝という、医療従事者の方限定で、起業家の支援をする事業です。訪問看護ステーションというプラットフォームを使って週3日働いて生活費を確保しながら、残りの週4日で自分のビジネスを作っていく、というサポートをしています。
国宝さん
二つ目に、一般社団法人のインクルーシブデザイン協会という、障害当事者の不便をものづくりに活かす事業をしています。例えば、ペットボトルって開けにくいじゃないですか。
編集者
りょうちゃん
ええ。私でも開けにくい時があります。障がいを持つ方であれば尚更ですね。
国宝さん
そういった不便を抱える障害当事者の方々に、“リードユーザー”になっていただくんです。彼らが不便に対してどんな工夫をしているか、というところから、僕たちやメーカーさんに新しいアイデアを授けてもらい、ものづくりを一歩二歩進めるという事業です。
国宝さん
最後に、インデザ株式会社という事業です。主に発達障害グレーゾーンの方々を支援する、人材、HR系のテック企業を作ろうと思って、三ヶ月ほど前に立ち上げました。僕らは、なんなくこなせる人々を“丸型人材”と呼び、対して、これはよくできるけれど、これは全くできない、というのがはっきりしている方を“星型人材”と呼んでいるのですが、
編集者
クラミー
丸型、星型、イメージがしやすく、あたたかい呼び名ですね!
国宝さん
星型人材の人たちは、できるできないがはっきりしすぎていて、職場では扱いにくいと思われたり、ともするといじめられてしまったりすることが多いんです。しかし、その人たちも尖ったところを活かせば、会社としても強くなるし、ハマるところへはめさえすればもっと力を発揮できると思っています。そんな人たちが活躍できるようなシステムを、今作っているところです。
編集者
りょうちゃん
最初は病院で理学療法士をされていたと伺いました。何故その道を目指されたのですか?
国宝さん
もともと学生の時から、友達によく相談されるタイプだったんです。恋愛や、テストの勉強などの相談に乗って、友達が元気になっていくのをみて、おもしろいなと思っていました。そこで、最初はお医者さんになりたいと思ったのですが、あまり勉強が伸びず(笑)。
無理だと諦めていた時に、友達のお母さんが理学療法士だと知って、面白そうだと思って目指しました。
編集者
クラミー
どのくらいの間、理学療法士をされていたのでしょうか。
国宝さん
リハビリテーション科の理学療法士として、病院に8年間勤めていました。その後独立し、自分で作ったビジネスを一般の企業さんに売り込む、いわゆる営業をやっています。
編集者
りょうちゃん
どんなきっかけで起業や事業展開に至られたのですか?
国宝さん
これは悪いとかではないのですが、僕には病院が合わなかったんです。元々新規事業やアイデア出しがめっちゃ好きで、「リハ室でこんな催ししたらどうですか」などと企画書を作って上司に出すようなタイプだったんですね。そしたら、「頼むから大人しくしといてくれ」と言われてしまって(笑)。それを受けて大人しくしていたら「最近国宝良くなったね」と出世させてもらえたのですが、こんなの僕じゃない!と。もうここを出なきゃいけないなと思って、5年目くらいから準備を始めて、8年目くらいに卒業させてもらいました。
編集者
クラミー
やりたいことを出来ないもどかしさがあったんですね。
国宝さん
はい。仕事をするってそういうことなので、悪いとかではないのですが。自分らしく力を発揮する場がなく、我慢していたことが、人材事業のインデザ株式会社にもつながっていったように思います。
編集者
りょうちゃん
今になって、そこで勤めていたことが役に立っているなと感じることはありますか?
国宝さん
あります。リハビリテーション科にいたので、強い麻痺などで障害が残ってしまって動きにくい患者さんに、生活しやすくなるアイテムを作ってプレゼントしていたんです。例えば、ズボンを履けるようになるアイテムを作ってプレゼントして、そのおかげで自分でズボンを履けるようになったからトイレなども困らなくなり、お家へ帰れるみたいな出来事がありました。その人の頑張りももちろん大事ですが、道具側がもっと優しくなれば、自立した生活ができて自尊心が高まり、自分らしい人生を歩んでいける人を増やせるんじゃないか、という経験が、ずっと現在の起業の根っこにあります。
編集者
クラミー
我慢されていたところもありつつも、患者さんの悩みを身近で感じたり、ものをプレゼントしたりされていたんですね。
国宝さん
はい。患者さんと向き合う日々はとても楽しかったですし、ものづくりは我慢していなかったですね。周囲には、「ひとりにそうしたらみんなにもしなきゃいけないよ」などと言われましたが(笑)。いやいや、これで患者さんは自立できるんですよ、という思いで続けていました。
編集者
りょうちゃん
一番最初に作られたものは覚えていますか?
国宝さん
最初かは覚えていませんが、一番人気があったものは覚えています。100均のサスペンダーを短く切って左右にワニグチクリップをつけ、ズボンにループをつくるように取り付けるんです。そうすると、麻痺していても指で引っ掛けられるようになる。
編集者
クラミー
なるほど!そうすれば自分で引っ張って着脱できますね!
国宝さん
はい。パジャマなどは縫い付けている患者さんが多かったのですが、ご家族がいつもそれをやるのは大変だし、縫い付けていないズボンだと使えないと思って。だから、サスペンダーのようにパチっとつけられるようにしたら、どのズボンでも、一日一回つけてしまえば、自分で脱ぎ履きできるようにしました。
編集者
りょうちゃん
やはり現場で関わっているからこそ、必要とされているものがわかるんですね。
編集者
クラミー
インデザ株式会社を立ち上げられて三ヶ月と伺いましたが、実際やってみて新しい発見はありましたか?
国宝さん
もう発見だらけで、まとまらなくなってきそうです(笑)。
例えば、システムを作るにもどの項目を評価するのかというところでは、誠実性とか、大胆さとか、コミュニケーション能力とか、パラメーターをめちゃくちゃ迷っているところです。これはいるかな?これはいらないかな?これとこれ足したらこれになるかな?と。
編集者
りょうちゃん
複雑で難しそうですね!
国宝さん
そうなんです。しかもテストを受ける日の体調でもきっと回答が変わってきて、違う結果がでてしまうんです。怒られた後だと、ルールを守らないといけないと思ってしまう、みたいな。あとは、真面目な人だと思われたいから、真面目そうな項目に多く回答するといった、嘘をつくこともできてしまう。だから、テストの時に身体の動きや目の動きを記録したり、注意が飛びやすい人、一点集中して周りが見えなくなる人、などの特徴も考慮したり、とアンケートだけではない文脈のパラメーターも必要になってきていて、これ実現できるのか?という話になっています(笑)。
編集者
クラミー
よく見られたい、という思いも個性として無視できないですし。まさに十人十色ですね!
国宝さん
10人100色くらいに感じます。人によって、時によって、違いますね。
編集者
りょうちゃん
今後、どのように事業を展開していきたいですか?
国宝さん
現在はトライアルで、僕がマンツーマンで人とお話しして、見た時の印象や身体の使い方、投げかけへの反応を元に取扱説明書を作り、その方の上司へお渡ししているんです。この方はこういった特徴があるから、教育の時にはここに注意してねといったアドバイスをしています。上司である貴方のタイプと、この方のタイプは違うよ、それでもこうしたら成果を出せるよ、とお伝えするというふうに。今は僕がやっていますが、今後はある程度言語化体系化して、インターネット上のアンケートやウェブカメラで取扱説明書ができる仕組みを作り、上司へプレゼントできるようにしたいです。
編集者
クラミー
それで活躍できたら、本人の自信にも繋がりますね!
国宝さん
そうなんです。やっぱり星型の人はどうしても凹んでいるところばかり見られてしまって、「なんでこんなことも出来ないんだ」と言われてしまう。「これが得意だからやりたいです!」と言っても、「まずは〇〇が出来てからだろ」と突っぱねられてしまうんです。
編集者
りょうちゃん
確かに、良くある場面ですね。
国宝さん
でも実は、得意な部分を伸ばしていくと、凹んでいるところも引っ張られて伸びていくことがあるんです。だから、この仕組みを作って提供して、可能性を広げていきたい。
編集者
クラミー
“星型人材“に限らず、ゆくゆくはどんな人にも使える仕組みになりそうです!
国宝さん
そうなんです。鋭利な星型の人もいれば、スパイク型の人もいる。一点突破型の人もいれば、ヒトデ型の人もいれば、六角形型の人もいる。本当に人それぞれなので、それをどう使っていけるのか、楽しみにしています。
編集者
りょうちゃん
これまで色々な方と会ったり、経験されたりしてきたと思いますが、一番やりがいを感じたことはありますか?
国宝さん
やっぱり、目の前の人の「ありがとう」にかなう報酬はないなって思います。
病院でリハビリしている時もそうですし、例えば、インクルーシブデザインの仕事で、元々僕がみていた患者さんにリードユーザーになっていただいて、片手で使えるカバンを作ったんですよ。その時に、「麻痺して辛かった経験が初めてプラスに思えた。誰かの役に立つことがかたちになって、本当によかった。ありがとう。」と言っていただけた時は、めちゃくちゃ嬉しかったです。それをやりたくて理学療法士になったみたいなところがあったので、やっていてよかったなと思いました。
編集者
クラミー
オンラインが普及して、離れて仕事をすることも増えてきましたが、やっぱり、人と向き合って話すってとても大きな力になりますよね。
国宝さん
はい。言葉の温度や、反応など、対面した時の情報量の多さは実感しますね。
編集者
りょうちゃん
記事を読まれている方に伝えたいことはありますか?
国宝さん
〈出来ないは可能性〉ということです。
例えば、僕自身はスケジュール管理が苦手で、病院で毎週木曜日の1時半から固定カンファレンスがあるのに、その時間に別の患者さんの予定を入れてしまって、またカンファレンス被ってる!ということがよくあったんです。星型でいう凹んでいるところが、僕の場合スケジュール管理で(笑)。
何とかしなければと思って、自分で一ヶ月間のスケジュールがわかるExcelの表を作ったんですよ。それを作って自分1人で運用していたら、次第にみんなが使い始めて、それが病院のデフォルトになっていきました。
編集者
クラミー
苦手だから始めたことが、みんなのためになっていたんですね。
国宝さん
そうなんです。このように、出来ないことというのは、可能性だと思っていて。大切なのは、出来ないことをどう工夫するか。僕の場合はExcelでしたけれど、ある人はPowerPointかもしれないし、またある人は別のサービスかもしれない。別の得意を掛け合わせて、それを乗り越えると、みんなの便利さに繋がる可能性がきっとある。それを諦めずに探し続けて欲しいなと思います。
編集者
りょうちゃん
確かに、違和感を諦めず、解決方法を探す本人の努力も大切ですね。
編集者
クラミー
最後に、今から事業を起こしたいと思っている方へ、経験者として何かアドバイスはありますか?
国宝さん
難しいですね(笑)。「まずはやってみな」、と声をかけると思いますね。やる前には見えなかった景色が、課題も含め、楽しさも含めて見えてくると思うので。そこからまた情報収集、修正を繰り返し繰り返ししなければ事業は育たないので、まずはワンアクションを起こすことが大事だと思います。ずっと考えていても仕方がないから、まずはお仕事がお休みの日とかでいいから、一歩動いてみて欲しい。
編集者
りょうちゃん
お仕事がお休みの日にといえば、株式会社国宝さんの、週3で働いて収入源は確保しながら、自分の夢を追いかけられる仕組み、画期的だと思いました!
国宝さん
実は、僕はその月収の方を完全に捨てたタイプの人間なんです。そこまで捨て切れる人ってなかなかいないと思いますし、そんな僕が言うのもなんですが、配偶者とか家族がいるなら、ちゃんと説明しないと嫌われちゃうよ、というのもアドバイスですね(笑)
編集者
クラミー
確かに!(笑)
国宝さん
毎日風呂掃除するとか、靴は揃えるとか、細かいことの積み重ねで、「あなたならできる」と信頼してもらえる関係性を作っていくことも大切です。
編集者
りょうちゃん
まずは目の前の人を大切にできないと、ですね!
【インタビューに答えてくれたのは…】
国宝孝佳さん
<以下株式会社国宝HPより引用>
2008年4月
理学療法士国家資格取得
大阪市内にある総合病院のリハビリテーション科に入職
2010年5月
国境なきリハ団を結成し、リハスタッフのいない施設などで
リハビリテーションスキルを応用したレクリエーションを提供
2017年3月
病院で当事者の就労の厳しさの現実と収入の少なさを課題と感じ、起業
株式会社国宝を設立し、代表取締役となる
2020年7月
一般社団法人インクルーシブデザイン協会の代表理事に就任
障害者の不便な経験をプロダクトやサービスデザインに還元し、
障害者の就労と新たなデザイン手法を広める