父が繋いでくれた“誰かを助ける仕事”のバトン

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

現在の中島先生のお仕事内容を教えてください。

中島先生

中島先生

約1年半前にこの歯科医院を開業し、日々、一般歯科医院としての治療を行いながら、もともと専門だった口腔外科の処置にも従事しています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

大学病院での勤務経験もあるとお伺いしました。

中島先生

中島先生

はい。大学病院の口腔外科の医局や総合病院の口腔外科で10年以上医療に携わってきました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

歯科の道に進まれた理由はなんだったんですか?

中島先生

中島先生

歯学部に進んだキッカケは家族です。もともと父が製薬会社に勤めていた関係で、小さい頃は漠然と「自分も製薬会社に就職して薬開発をするんだ」と思っていたんです。ただ、製薬会社に就職しても、退職までに薬を作ることができない可能性があることを知って…

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

確かに、治験なども含め、ものすごく時間がかかる印象があります。

中島先生

中島先生

そうなんです。「大きな製薬会社に勤めても、退職するまでに一つも薬を開発できないかもしれない」と悩んでいた時に、父が「自分は間接的に人の役に立っている製薬会社の仕事を誇りに思っているけれど、お医者様は直接的に困っている人を助けることができる素晴らしい職業だよ」という話をしてくれて。「確かにな」と思って、そこから漠然と直接的に人を助けられる職業を目指すようになりました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

お父様のその言葉が歯学へ進むキッカケになったんですね。

中島先生

中島先生

「歯科医になりたい!」と思って歯学部に入学したというよりは、医者になることを第一に、当時の学力と相談しながら歯学部に入ったんです。ただ正直、歯学部に入学が決まった段階では『歯科医=虫歯を治すだけの人』という印象が強くて。そんな時に、入学時のオリエンテーションで口腔外科という手術を専門とする科があることを知ったんです。そこから口腔外科の医者を目指すことを決めました。

「何を究めたいのか」が、勤務場所を選ぶ基準に

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

一般歯科を目指す場合と口腔外科を目指す場合、両者にはどういった違いがあるのでしょうか?

中島先生

中島先生

ライセンス的な部分だけで話すと、国家試験を通って医者になればどんな処置でもできるんです。どの科でもすべての医療の勉強をしているので、治療をすること自体は認められているのですが、結局それぞれの分野がものすごく専門的なので、基本的には専門分野を究めていくものなんです。口腔外科もそれと同じで、学校を卒業した後に現場で何を究めようとするのか、が違いになると思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

口腔外科を究めたい場合は、まずはどこへ?

中島先生

中島先生

口腔外科に進みたい人は、一般的には大学病院や総合病院に勤務することがほとんどです。一般歯科と大きく違うのは一般歯科ではできない処置の手術があるかどうか。口腔外科の手術になると、ガンや骨折などの手術なども入ってくるんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ガンの手術も口腔外科の先生がやられる場合があるんですね。初めて知りました。

中島先生

中島先生

そうなんです。技術のある先生はご自身で患者さんの足の筋肉から血管を持ってきて、再建手術をしたり繋いだりされることもあります。形成外科の先生と一緒に同様の手術を行う口腔外科の先生も多いです。

「こんなことが自分にもできるのだろうか…」
そう思った研修医時代

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

中島先生が歯科医として働きはじめて、苦労したことはありますか?

中島先生

中島先生

最初の最初は、一番メジャーな処置である[親知らずの抜歯]に苦労しました。「苦労した」というよりは「こんなの自分ができるんだろうか」と思ったのを覚えています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

口の中の狭い範囲で処置を行う歯科医の方々って本当にすごいな、と歯科医院へ行くたびに思います。

中島先生

中島先生

いろいろな手術を補助させてもらって、先輩の先生たちの手の動きなどを見ながら、僕も「すごいな」と感動していました。口の中は繊細で、患者さんのほんの少しの動きで血が出てしまう可能性があるので、最初はビクビクしながらやっていた記憶があります…(笑)。「いずれは自分ができるようにならなければならない」と必死で補助をしていました。

「経験値の浅さは言い訳にならない」
それが“医者”という仕事

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

中島先生が働いているなかで、印象的だったエピソードはありますか?

中島先生

中島先生

日本には医療保険制度があるので、保険診療に関してはベテランの先生でも若手の先生でも処置に対して支払う金額は同じなんです。それはイコール、医者の経験があろうがなかろうが、とても責任重大な仕事だということ。患者さんは基本的には医者を選ぶことができないので、いくら若かろうが経験値の浅さは言い訳にならないんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

確かに、一般医療の病院へ行って先生を指名をしたことはほとんどない気がします。

中島先生

中島先生

ですよね。若い頃、先輩の先生から「いくら若いとはいえ、医療行為をして保険点数を請求し報酬を得る仕事に就いている以上は、常にベテランの先生と同じくらいの処置ができるようにしていないといけない」と教えていただいたことが、ずっと自分の中に残っています。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

患者としては、身体を任せている以上「経験が浅いから」と言われたら不安でたまらないです。若い先生でも、中島先生のような心持ちでいてくださる先生なら安心できるのですが…。

中島先生

中島先生

僕も先輩方から再三、その言葉をいただいて「中途半端な説明ではなく、患者さんに堂々と説明できるくらいに勉強を重ねよう」と思うようになりました。診療が終わった後に処置の練習をしたり、知識を頭に入れたり、そうやって10年間やってきました。

「やってあげたい治療ができない…」
そのもどかしさが開業のキッカケに

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

大学病院、総合病院を経て、なぜ開業を?

中島先生

中島先生

歯科医になった頃は、歯科医院の開業はとてもお金がかかることを知っていたので、自分で開業をするなんて無理だろうと思っていたんです。「とにかく技術を高めよう」と、病院に勤めて口腔外科の経験を積んでいたのですが、そのうち、自分のいる場所では自分がやってあげたいと思う処置ができない事態が生まれるようになって。それは、その医局ごとのやり方があるのでしょうがないことなのですが、少し違和感を感じるようになったんですよね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

経験を積まれたからこその、勤務医としての葛藤が生まれたんですね。

中島先生

中島先生

そうです。あとは収入面に関しても、どれだけ手術ややり甲斐を持ってやっていても限度があると感じて。その時に「自分のクリニックだったら、僕の治療を受けにきてくださった方に、自分なりの治療法を提案できる」と思ったんです。そこから開業を考えるようになりました。

〈経験〉と〈自信〉という、これまでの産物が
一歩を踏み出させてくれた

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

中島先生が開業に踏み切った一歩を教えてください。

中島先生

中島先生

開業をするとなると、そこから先の責任は全て自分の責任になるわけじゃないですか。僕の場合はその〈責任〉の部分を、経験値を積んで得た“自分の強み”と“自信”でカバーできたのが、一歩として大きかったと思います。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

いろいろな症例を見て、処置をされてきた自分自身が背中を押してくれたんですね。

中島先生

中島先生

そうですね。口腔外科の分野では大学病院の処置のレベルに引けを取らない自信が、踏み切る勇気をくれました。大変なことも多いですが、勤務医だった頃よりも患者さんとの距離が近づいたように感じることが多いんです。自分の治療した患者さんを最後まで診ることができるようになったのは、大きな変化だと感じています。

未来の医療を担う皆さんへ どうか
「誰かのために」を大切に――

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

では最後に、これから歯科の世界に足を踏み入れる皆さんにメッセージをいただけますか?

中島先生

中島先生

僕個人からのメッセージは、とにかくどんな仕事であっても[患者さんのために仕事を頑張ることのできる人]でいて欲しいということ。「患者さんのためにしてあげたい」と思う気持ちが、必ず〈働く〉という部分の根源になると思うので。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

医療現場は本当にハードな環境ですもんね。

中島先生

中島先生

はい。自分が生活していくための給料を稼ぐ、といった気持ちだけでは乗り越えられないのが医療現場ですし、自分の生活のためだけに働くというのは、医療に関わる人間として少し違うと僕は思っていて。医療の未来を担う皆さんには、「誰かのために」といった想いとプロ意識を持って働いて、自分の究めたい道を進んで欲しいと思います。

【インタビューに答えてくれたのは…】
N’Sデンタルクリニック
医院長 中島章宏先生

2002年4月 大阪歯科大学入学
2008年3月 大阪歯科大学卒業
2008年4月 地方独立行政法人 公立甲賀病院歯科口腔外科 歯科臨床研修
2010年4月 独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター口腔外科
      (3ヶ月間麻酔科研修)
2011年4月 大阪歯科大学歯学研究科入学(口腔外科学専攻)
2015年3月 大阪歯科大学歯学研究科修了(博士)
2015年4月 大阪歯科大学附属病院口腔外科学第二講座 病院医員
2018年4月 パナソニック健康保険組合 松下記念病院歯科口腔外科 医長
2020年4月 大阪歯科大学付属病院口腔外科学第二講座 助教
2021年6月 N'sデンタルクリニック開院