対談インタビュー
医療従事者に新たな〈縁〉と〈場〉を提供。志高くコミュニティ運営に勤しむ臨床工学技士
今回インタビューにお答えいただいたのは、老人ホームよろず相談所の代表、大瀬戸祥浩さん。入居相談業を通じて大瀬戸さんが発見した老人ホームの課題のほか、多様なキャリア経験のなかで培った仕事や人生に対するスタンスなどを伺ってまいりました。
編集者
クラミー
現在の仕事内容を教えてください。
大瀬戸さん
老人ホームの施設長や相談員を育成する仕事を行っています。入居の相談に来られた方に対して、ホーム側が相手のニーズに合わせて正しくアプローチできていない状況が多数見受けられたので、スタッフを教育することが結果的に老人ホームのプラスになるのではと思い、数年前からやり始めました。
編集者
りょうちゃん
老人ホームのそのような状況に大瀬戸さんが気付けたキッカケは何だったのでしょうか?
大瀬戸さん
元々、老人ホームの入居者の相談を受ける仕事を10年間していました。イメージとしては「老人ホームの不動産屋」。入居したい人・入居させたい人をつなぐ紹介窓口です。ただ、相談者に適した老人ホームを紹介しても、結果的に入居には至らないことが多くて。どのケースにも、ひとつの共通点がありました。
編集者
クラミー
共通点とは?
大瀬戸さん
老人ホームの施設長や相談員が、自分たちのセールスに重きを置いてしまっていたことです。相談者のニーズに対するアプローチをしていませんでした。ニーズがない部分にどれだけアプローチをしても、何も響かないじゃないですか。例えば、病気の影響で歩くこともままならないのに「レクリエーションがとても盛り上がって…」とか、もうご飯が食べられないのに「うちの食事は美味しいですよ」なんて言われても、魅力的には思えません。
編集者
りょうちゃん
確かに、ニーズとズレがあると入居にはつながらないですよね。
大瀬戸さん
そうなんです。だから、施設のパンフレットを1ページ目から順番に説明するような入居相談をするのではなく、1人ひとりに合ったアプローチを行うことができるための教育を、ここ2年くらいやらせていただいています。正しいアプローチのやり方が掴めれば、ホームを満室にするスピードが速まるので業務の効率も上がります。その結果新たに確保できた時間で、スタッフ採用に注力したり、入居者に対するケアをより強化することもできます。
編集者
クラミー
これまで数多くの老人ホームを見てきたことかと思いますが、老人ホームが抱えている課題は何だと思いますか?
大瀬戸さん
自分たちの本当の強みを知らないことです。
編集者
りょうちゃん
本当の強み、と言いますと…?
大瀬戸さん
母体となる会社が作った、「うちの老人ホームはこういうコンセプトでやっていきます」という大枠はみんな知っているんです。トップダウンなので。ただ実際の現場は、そこで生活をしている方たちに向けてさまざまなサービスを行っているわけじゃないですか。保険適用のサービスもあれば、適用外のサービスもあって、お金をいただいてやっているのか、お金をいただかずにやっているのか…と、多様なパターンがあると思うのですが、中のスタッフは自分たちのホームの特長を実は全然把握していなくて。なぜなら、よそのホームを知らないから。
編集者
クラミー
なるほど。自分たちのホームが言わば“世界”で、そこしかわからない状況なんですね。
大瀬戸さん
すべてが当たり前になってしまって、そうなると他との比較ができません。例えば、毎日当たり前のように行っているお散歩が保険適用外のサービスだったとして、実は隣の老人ホームにおいては、保険適用外だからそもそもうちはお散歩をしていません…という可能性もあり得るわけです。
編集者
りょうちゃん
確かに、隣のホームにはない大きな特長を持っていることになりますよね…!
大瀬戸さん
そうなんです。その特長を打ち出せば近隣のホームとの差別化にもなるのですが、なかなかここに気付けないようで。ただ、仮に私が気付いたとしても、私の口から「あなたのホームの強みは◯◯ですよ」と直接言うことはしません。ダイレクトに伝えてしまうと、結局人から言われたトップダウンのコンセプトと同じ状況になってしまうので。本当の強みに導きたいのでヒントは出しますが、あくまでホームのサービス内容などを自分たちで棚卸しして、自発的に辿り着いてくれることを目指しています。
編集者
クラミー
仕事をするなかで、印象的だった出来事は何かありますか?
大瀬戸さん
老人ホームの紹介をしていた前の仕事での話なのですが、あるおじいさんが窓口にいらっしゃって。ただその方は老人ホームを探していたわけではなくて、「うちに雑巾がいっぱいあるので、どこかのホームで使っていただけませんか?」とおっしゃるんです。それでお宅に伺ってみたら、古着や古タオルを雑巾にしたものが2〜3個の段ボール箱に入っていて。
編集者
りょうちゃん
確かにそれはかなりの量ですね…!
大瀬戸さん
一応全部いただいて、持ち帰って中を確認してみたら、縫いかけの生地が割りとありました。この背景にある出来事は、おそらく奥様がこれまで雑巾を縫い続けてきたものの、それを中断せざるを得ない状況になった、ということです。それで、旦那様であるおじいさんが、たくさんの雑巾や縫いかけの生地を老人ホームに託したのではないか、と。その後、老人ホームに雑巾をお配りして、感謝状を作成しておじいさんにお渡ししたらすごく喜んでくれました。この出来事はとても印象的でしたね。
編集者
クラミー
雑巾作りから離れた奥様は、身体の自由が効かなくなってしまったことが想像できます。昨今では「老老介護」という言葉を耳にする機会も増えました。
大瀬戸さん
はい、特に今は核家族化が進んでいるので、例えば20〜30年離れて住んでいた親族が、介護が必要になったからといって一緒に生活をするのはなかなか難しいケースが多いんです。生活のクオリティが全く違うなかで長年過ごしてきているので、いざ介護のために同居を始めたら、感じたくはなかった嫌な思いをする場面が少なからず出てきます。だからこそ、老人ホームや高齢者向け住宅などの社会サービスの存在をあらかじめ知っていてほしいですね。介護を通して嫌な思いをしてから別の方法を探るよりも、他にも選択肢があることを早めに知っておくのが大事だと思います。
編集者
りょうちゃん
これからを担う若い働き手に対して、何を期待しますか?
大瀬戸さん
どんな仕事も、まずはがむしゃらにやってみてほしいです。なかには格好悪い仕事やしんどい仕事もあるかもしれませんが、それでも一生懸命やることに意味はあると思うので。キツすぎない程々の仕事ばかりしていたら、本当にしんどいときに耐えられないと思いますし、若いうちにしかできない経験は絶対にしたほうがいいです。介護の仕事がちらっとでもイメージできるような人は、ぜひチャレンジしてみてほしいですね。チャレンジして、そこで楽しみを見出せたり熱い想いを抱けたりすればそのまま続けていくといいと思うし、仮に合わなかったとしても、違う道をまた探していけばいいんです。
編集者
クラミー
大瀬戸さんご自身も、これまでのキャリアにおいてつらさに耐えてきた時期がありましたか?
大瀬戸さん
そうですね、若い頃は過酷な労働を強いられたこともありました。飲食業界でマネジメント職をしていたときはハードな勤務形態でしたし、その後医療機器の会社に転職したときは、未経験で営業の仕事にチャレンジしたのでとても大変でした。いずれもしんどかったですが、当時の経験はすごく役立ってるなと思います。特に、元々人と喋るのは苦手なタイプでしたが、営業を経験したおかげで相手への伝え方を身につけることができたから今があるな、と。
編集者
りょうちゃん
これまで大瀬戸さんは何度か転職を経験されてきたことかと思いますが、キャリアの選択に悩んだ際、仕事を辞めるべきか踏ん張るべきか、その見極め方のポイントは何だと思いますか?
大瀬戸さん
その仕事がやりたいことであれば続けたほうがいいと思いますし、逆にやりたくないことであれば離れてもいいんじゃないかと。例えば、パソコンの前にずっと座って入力作業をするような仕事は、私は絶対に続かないタイプなんです。どれだけ職場環境が良くて、残業ゼロでお給料もそこそこで休日がしっかり設けられていても。逆に、肉体を酷使したり労働時間が長かったりしたとしても、「やりたい」と思う業務内容であるならば、本人にとってその仕事は決して悪いものではないと思います。
編集者
クラミー
確かに、そこまでやりたいわけじゃない仕事を続けて技術がどれだけ上達したとしても、本当にやりたいことにはつながらないですよね。
大瀬戸さん
そうですね。私自身も、ハードではあったものの飲食業そのものが好きだったので、当時は楽しさを感じることもできていました。まるで部活のような雰囲気がありましたね。ただ、パワハラを受けるようになってからはまた状況が変わってきました。どうしても視野が狭くなって、それまで見えていたはずのものも見えなくなってしまって。思考も止まっていたので、当時は相当のストレスを感じていました。それでも思い切ってその環境から離れた結果次に進むことができたので、すべての経験をいまは肯定的に捉えられています。
編集者
りょうちゃん
ストレスの蓄積により思考が止まっている状態ではありながらも、自分の視野が狭くなっていることに気付けたキッカケは覚えていますか?
大瀬戸さん
はっきり覚えています。時期としては初夏で、車で道を走っているときのことでした。外に生えている木々を何気なく見た際、「青い…!」と驚いたんです。太陽の光に照らされて、生い茂る緑がとても色鮮やかに輝いていて。もちろんその風景はずっとそこにあったはずなのに、それすらも自分は見えていなくなっていたようで。木々の青さにハッとさせられた瞬間が、自分の置かれている状況に気付けたときでしたね。
編集者
クラミー
気付くキッカケって、特別な言葉などではなくて、意外と日常のなかの些細なことだったりするんですよね。
大瀬戸さん
そうですね。でも、転職しようと思った具体的な理由は家族の存在が大きかったです。飲食の仕事をしていたときは曜日関係なく稼働していましたが、子どもが野球をやり始めたので、土日にプライベートの時間を確保したいと思うようになりました。以来、私自身も野球に携わるようになったので、私の生活を大きく変えてくれた子どもには感謝しかないですね。あの頃は大きな転換期となりました。
編集者
りょうちゃん
これまでの歩みを経て、改めて大瀬戸さんが大事にしていることをぜひお伺いしたいです。
大瀬戸さん
ポジティブさであったり、楽しく過ごすことを意識しています。例えばお店に食事に行った際、私は必ず他のお客さんにフランクに話しかけるんです。他愛のない世間話をするなかで、「この人面白いな」と思ったらもっともっと話を聞いて。そういったことを繰り返していくと、また別の店でばったり再会するときがあって、不思議な縁を感じますね。人とのつながりも広がっていきます。また、たくさんの人とコミュニケーションを取っていくと、他の人の経験が自分のなかにも染み込んでいくんです。それが私自身の成長にもつながっていくので、こういった積極的なコミュニケーションを日々楽しみながら大事にしていますね。
編集者
クラミー
前向きでいること、ハッピーでいることは、生きていくうえでとても大切なことですよね。
大瀬戸さん
そうですね。強い気持ちを持っておくと、過去の苦労に比べたらこんなの些細なことだ!と思えるようにもなるし、大きな壁だと感じていたものが、実はそこまで恐れる必要のないものであることに気付けるようにもなります。ただ、経験値が低かったり、視野が狭かったりしたら、自分の発想の中でしか物事を捉えることができないと思うので、だからこそたくさんの経験を積んでいくことが大切なのではないでしょうか。
【インタビューに答えてくれたのは…】
大瀬戸祥浩様
老人ホームよろず相談所 代表
10年間の高齢者住宅への紹介、入居相談窓口を経験し、その後、施設職員を外部から教育する研修・個別指導の事業を開始。
1970年11月1日生まれ
兵庫県西宮市生まれ西宮市育ち
高校卒業後東証一部上場レストランチェーンへ入社 20歳で店長、26歳で関西NO1店舗の料理長、そして複数店舗のマネジメント職へ
31歳で上司と喧嘩して退職
某菓子ブランドに入社しブランドマネジャーを経験
子供が小学生になり野球を始め、子供と野球がしたいがために土日休みの営業職に転職
在宅酸素や人工呼吸器を取り扱うディーラーに入社
まさに飛び込み営業の職種 勤まるか不安な中、言われるがまま営業してみると、1カ月目から契約がとれ、翌月また翌月と新規契約がとれ、翌年には取締役に
その後、在宅での高齢者の暮らしに疑問を持ち、いわゆる老人ホーム紹介業へ2012年参入
10年間の入居相談、年間600件の相談実績とあらゆる老人ホームを知り、様々な施設長、相談員とのやり取りの経験をもとに2022年相談員育成事業を中心とした【老人ホームよろず相談所】をスタート