対談インタビュー
医療従事者に新たな〈縁〉と〈場〉を提供。志高くコミュニティ運営に勤しむ臨床工学技士
今回インタビューにお答えいただいたのは、大阪府で地域に密着しながら、愛されるかかりつけの薬局づくりを行っている泰盛コーポレーション株式会社・代表取締役の四維さん。門前のクリニックが移転された後も、そのままの場所で薬局を続けている四維さんの〈地域への想い〉をお伺いしてまいりました。
編集者
クラミー
まず、四維さんの仕事内容を教えてください。
四維さん
仕事内容の大半は病院が出している処方箋を受けて、それを調剤して患者さんにお渡しすること。最近はそこに加えてケアマネージャーさんからの相談も増えてきて、徐々に在宅向けの調剤を増やしているところです。
編集者
りょうちゃん
コロナの影響もあって、在宅診療も増えていますもんね。
四維さん
そうですね。在宅のニーズが増えてきているので、そこに応えていくためにも調剤を増やしています。割合的には個人宅のほうが多いのですが、中には施設からの相談もあって。本当は日中に伺えればいいのだけれど、僕の場合は薬局もあるので、そこはケアマネージャーさんと調整しつつ進めている、といった形です。
編集者
クラミー
ご自身の薬局の経営と在宅の相談を調整しながら…すごい仕事量ですね。
四維さん
僕が目指しているのは地域密着型の薬局なので、できるだけ常駐していたいんです。僕が薬局にいることで、地域の皆さんがちょっとした健康相談をしに来てくれたり、薬の相談をしに来てくれたり、そんな薬局づくりを続けていけたらいいな、と。
編集者
りょうちゃん
近所の皆さんも、そういった場所があるのは安心だと思います。
四維さん
そうなれていたら嬉しいです。このへんは小さいお子さんからお年寄りの方まで、いろいろな方がいらっしゃるので、皆さんにとって安心して健康相談ができる場所を目指せたら、と思います。また、この薬局は子供が困った時に来られる場所である「こども110番の家」でもあるんです。地域に関わる事業を受け入れながら、これからもこの地域、そしてここに住む皆さんと共存していきたいと思っています。
編集者
クラミー
4年前、門前のクリニックが移転された時に、一緒について行かずにここに残ったとお伺いしたのですが、理由は何だったんですか?
四維さん
クリニックの移転先が道路を渡った場所だったのですが、10年以上ここでやってきた僕にとっては、道路を渡るというのがとても大きな変化に感じたんです。向こう側にも薬局はあるし、利用者の層も変わるだろうし…と、いろいろ考えた結果、「この場所にこのままいたい」と思ったんですよね。それで今もずっとここで薬局をしています。
編集者
りょうちゃん
「地域に密着した薬局」、その軸をブラすことなくあり続けていらっしゃるんですね。
四維さん
そうですね。ちょうどコロナ禍のタイミングで「この先はクリニックの近くにあるだけではやっていけないのかな」と思ったことがあったんです。この薬局ならではの〈特色〉を作っていかないといけないな、と。
編集者
クラミー
その時に考えたことが、今のタナベ薬局の基盤に?
四維さん
はい。もともと、地域密着型の薬局にしたいという想いはあったのですが、本格的に考えるようになったのはクリニックが移転してからでした。ここは道路に面している薬局ではないので、地域との関わりを大切にしていくしかないと思ったんです。そこから、自分自身の意識、スタッフの意識の変化に力を入れるようになりました。
編集者
りょうちゃん
門前のクリニックから離れるのは、すごい決断だと思います。具体的にはどういった意識改革をされたんですか?
四維さん
まずは患者さんにとって“身近な人”、“場所”になる努力ですね。挨拶ひとつ、話し方ひとつ、小さなところから徹底して変えていきました。そのおかげか、今では家族三世代で来てくださるところもあるんです。
編集者
クラミー
薬剤師、薬局、地域、この3つの関係をしっかりと考えてこられた四維さんから見て、地域に根差すために大切なことは何だと思われますか?
四維さん
やっぱり、普段のコミュニケーションや接し方をどれだけ大切に丁寧に行っているか、が伝わると思います。それが結果にも表れるな、と。
編集者
りょうちゃん
確かに。普段の人間関係でも、何かあった時に「相談したい」と思うのは、そういった人ですよね。
四維さん
忙しい薬局だと、どうしても薬を渡して最低限の説明をすることが精一杯だと思うのですが、うちの薬局は“話に来る場”として認識してもらえたらいいな、と思っているんです。カフェのようなイメージといいますか(笑)。そういったイメージを持ってもらえたら、この街の皆さんも足を運びやすくなるんじゃないかと思って、意識改革に務めました。
編集者
クラミー
取材に伺う前に、少しあたりを見渡したのですが、お子さんや保護者の方々が笑顔で歩いている、とても温かい街ですね。
四維さん
そうですね。最近は建設ラッシュなのか、マンションなどもどんどん増えていて、家族連れの方を多く見るようになりました。お子さん連れのお母さんを少しでも助けられるように、薬局にいらっしゃる前に処方箋を送っていただくシステムを作るなどして、地域の変化に臨機応変に対応できるよう常に考えています。
編集者
りょうちゃん
四維さんが“薬剤師”になろうと思ったキッカケはなんですか?
四維さん
もともと親戚含めて医者の家系だったので、小学生ぐらいの時から医療職に就くのだと漠然と思っていたんです。僕の父が病院の薬局長をしていたので、夜中の当直の時にお弁当を届けに行ったり、夜に遊びに行ったりして、看護師さんたちに可愛がっていただいたのを覚えています(笑)。
編集者
クラミー
その頃から病院や医療従事者の方と、ごく自然に繋がりがあったんですね。
四維さん
そうですね。子供ながらに「病院ってすごいところだな」と思っていた記憶があります。実際薬剤師になって、初めての勤務先も病院でした。
編集者
りょうちゃん
そこから、どのようにして薬局経営に?
四維さん
病院勤務の時は薬局に行くつもりはなかったのですが、親がやっていた薬局が忙しくなり「来ないか?」と誘われて薬局薬剤師になったのが始まりでした。いざ働き始めると、覚えないといけないことだらけで、業務もとにかく忙しくて、やり甲斐なんて考える暇もないような日々でした(笑)。そこで2年ほど経験を積んで、薬局を引き継ぐことになったんです。
編集者
クラミー
もともと、ご自身で「やりたい」という思いはあったんですか?
四維さん
いつかは、と思ってはいたのですが、こんなに急に自分の薬局を持つことになるとは思っていませんでした(笑)。僕の場合は親のアドバイスも受けながら形にしていったので、ゼロからというよりは、10ぐらいからのスタートではあるものの、それでも大変でしたね。
編集者
りょうちゃん
地域密着型という、タナベ薬局の〈特色〉を見つけられた四維さんの記憶に残っている患者さんとのエピソードはありますか?
四維さん
この薬局ができた当時から来てくださっている患者さんが、ご高齢になり娘さんの所へ引っ越されることになった時に、わざわざ御礼を言いに来てくださったんです。その時に「僕のやっていることに感謝してもらえるんだ」と感じて、すごく嬉しかったのを覚えています。
編集者
クラミー
それは嬉しいですね!その方の大切な場所になっていた証ですもんね。
四維さん
正直、「門前にクリニックがあるから」と安心していた部分があったんです。よっぽど変なことをしない限りは特に何もなく続けていけるんだろうな、と。ただ、クリニックが移転してはじめて、門前のクリニックがなくなるとはどういうことなのか、を痛感したタイミングでもあって。その患者さんに「ありがとう」と言っていただけたことで、人を大事にしていこうと、再決意して具体的な動き出しができたんですよね。
編集者
りょうちゃん
病院から薬局、と働く場所を変えてきた四維さんの思う“転職”について教えてください。
四維さん
ここ最近、薬剤師業界だけでなく様々な場所で“転職”という言葉を聞くようになったのですが、僕は“転職”はすごく良いことだと思います。一つの場所に居続けるより経験できることが増えますし、若いうちは特にいろいろな現場を見たほうが良いんじゃないかな、と。
編集者
クラミー
確かに、いろいろな職場を見ることと経験が増えることはリンクしていますもんね。
四維さん
僕の場合は、病院勤務の後すぐに自分の家の薬局に勤務することになったので、「次の職場!」と転職を考えることはできなかったのですが、本音を言えば「もっといろんな人と仕事がしたかったな」と思います。今は当時よりも就職先が増えていると聞きますし、自分の目でいろんな職場を見て欲しいですね。ただ、その中でも、最初は病院薬剤師をおすすめしたいです。
編集者
りょうちゃん
それはなぜですか?
四維さん
現場の仕事量的に年齢を重ねてから勤務するのは大変な場所ですし、夜勤や当直もあるので、そういった経験をしておいて損はないと思います。僕自身、病院で積ませてもらった調剤の経験は、今でも役に立つ大切な経験の一つです。
編集者
クラミー
では最後に、四維さんが考える、薬剤師に向いている人はどんな人ですか?
四維さん
職場にもよるのですが、薬局勤務であればコミュニケーションスキルが必要だと思います。お話するのが苦手な方は大変かもしれないです。特に地域密着型の薬局だと、いろいろと聞かれることに対して、しっかり対応していかないといけないですし。
編集者
りょうちゃん
確かに、地域の皆さんの健康相談係ですもんね。では、病院勤務に向いている方は?
四維さん
単科の病院でしたら、知識は偏るけれどその分野にものすごく詳しくなることができるので、ある部分に特化した知識をつけたい方に向いているんじゃないかな、と思います。今の時代は本当にたくさんの選択肢があるので、自分で経験しながら「薬局のほうが向いているな」「病院のほうが向いているな」と、見極めて仕事を楽しんで欲しいです。
【インタビューに答えてくれたのは…】
泰盛コーポレーション株式会社 代表取締役 四維国泰さん
2002年 山本病院勤務(主に精神科)
2003年 育和会記念病院勤務
2004年 タナベ薬局勤務〜現在に至る