ヘルパーは“サービス業の真骨頂”

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

まず、上田さんの仕事内容を教えてください。

上田さん

上田さん

はい。今は介護保険事業の中の介護サービス、訪問介護の会社を経営しています。いわゆる“ヘルパー”と呼ばれる方々が所属する会社で、私自身もヘルパーとして働いています。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

経営されながら、現場にも出ていらっしゃるんですね!

上田さん

上田さん

1日7件、8件の訪問がある状態です。絶対に手を抜くことはありませんが、終わった後、クタクタになってしまう時はありますね(笑)。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

7件、8件!?すごいです...!上田さんがヘルパーの仕事を選ばれた理由は何だったんですか?

上田さん

上田さん

私、元々コンサル業の仕事をしていたんです。3店舗のパチンコ屋さんの裏口からコッソリと入店して、モニタールームで接客を見て、評価制度を会社の方と作成しながら従業員の皆さんの給与を決めていく、というような仕事で、都度、従業員の個人面談を行ったりと、人材育成にも通ずるような業務にも携わっていたんですよ。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ヘルパーという仕事とは、まったく違う職種ですね。

上田さん

上田さん

そうなんです。「私は一生、講師業、コンサル業の仕事をやっていくのかな」と思いながらも、元々の「身体を動かして仕事をしたい」という性質がうずいていて。「人には偉そうに言っているけれど、自分が逆の立場になった時、はたして完成度の高い接遇ができるのか」そんな思いを常に持ったまま壇上に上がっていた時期があったんです。そんな時に人柄がものすごく素敵な青年に出会う機会があって。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

素敵な青年、気になります。

上田さん

上田さん

彼は、自身の結婚を機にパチンコの仕事に就いた子だったのですが、前職が介護職だったらしく。彼の話を聞いている中で、ヘルパーという仕事はサービス業の部類なのだと気づいたんです。実は、サービス業の真骨頂ってここなんじゃないだろうか、と。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

まったく違う職種でありながら、点と点が繋がったんですね。

上田さん

上田さん

そうなんです。ちょうどその頃、私の母の認知症が発症していたこともあって、「これはもうなるべきものなんだ」と直感で感じたんですよね。そこからヘルパーに必要な資格を調べ始め、最初は認定資格でいいけれど、介護福祉士になるためには国家試験に受からなければならないことを知って。目標をそこに定めて、逆算して計画を立てました。

転職の〈縁〉を引き寄せた、切り替えの潔さ

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

違う世界への転職になると思うのですが、その後、どのように動かれたんですか?

上田さん

上田さん

まず、コンサル業、講師の仕事をパッと辞めて、働きながら学校へ通うためにNTTのオペレーターの仕事に就きました。元は国の仕事だったNTTの電話応対の職場で必要な電話応対の技術や話し方を学びながら、お金を貯めました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

上田さんの声、話し方、とても聞き取りやすく癒されます。そこから学校に通われて?

上田さん

上田さん

そうです。入学した学校で、今でも“恩師”と呼ばせていただいている先生との出会いがやってくるんです。一度、その先生に「介護職の中でも一番大変なヘルパーという仕事をなぜ選んだ?」と聞かれたことがあって。「なぜだろう?」と考えた時に、自分が“待つ”ということが苦手で、“出向く”ということが好きなのだということを再認識したんです。ヘルパーという仕事に迷いなく進む決意ができたのは、それに気づけたからだな、と思います。

訪問介護は“人の生きざま”を支える仕事

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

ちなみに、なぜその先生が上田さんの“恩師”になられたんですか?

上田さん

上田さん

先生との出会いは初任者基礎研修の時だったのですが、一人だけジャージで髪の毛が茶髪で、絶対に敬語を使わない先生がいらしたんです。それが、のちのちの“恩師”で。淡々とお話しながら、単語で核心をついてくる、けれど決して鼻につかない、そんな不思議な雰囲気をお持ちの方だったんです。きっとそれって、厳しい言葉の中に〈愛情〉がこもっているからなんだな、と私は感じていて。その〈愛情〉が言葉を受ける本人だけでなく、他人にまで見えるって、そうそう出来ることじゃないと思ったんですよね。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

カッコいい優しさが溢れ出ていたんですね。

上田さん

上田さん

そう、在り方が本当にカッコいいんです。介護福祉士を育てる先生なので、実技指導もしていただくのですが、その一つひとつの動きもすごく優しくて。「テクニックってすごい!」と思うほど負担なく動かしてくれる、まさにプロの技だと思っていました。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

人柄だけでなく、技術面でも尊敬する先生だったんですね。しっかりとお話できる機会はあったんですか?

上田さん

上田さん

一度、先生とクラスの子何人かで飲みに行ったことがあって、その時に先生から「この先の介護業界、前職で人材育成をしてきた身として、どうなると思う?」と聞かれたんです。正直、私はその時「決して安くないお給料の中で、原石でくすぶっているままの人が多すぎる」と思っていましたし、職場が原石を活かしきれていないことに疑問も感じていて。それをお伝えしたんです。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

さすが、人材育成の世界にいたからこその意見ですね。それに対しての先生の言葉が気になります。

上田さん

上田さん

先生は「それや!!」と(笑)。そこからコテコテの関西弁で“エンパワーメント”という言葉を使いながら、介護業界の今後の人材育成についてのお話をされていて。「あ、どの業界でも“人を育てる”ということは一緒なんだな」と気づいたんです。ただ、大きく違うのは、ヘルパーって単に“家のことをしに訪問する”だとか、“お身体のケアをしに行く”だけじゃないということ。私たちが支えるべきものは“人の生きざま”なんですよね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かにそうですね。利用者の方の〈人生〉にダイレクトに関わる仕事という印象があります。

上田さん

上田さん

本当に大きな仕事だからこそ、〈人間力〉が絶対に必要なんです。先生も「自分の力では決済できないけれど、考える力と実行できる力、そして上司に連絡報告相談ができる力を兼ね備えている人で溢れれば、介護業界、ヘルパー業界はすごく良いものになる」とおっしゃられていて。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

上田さんが経験されてきた人材育成のお仕事、そこで得た価値観が先生の考えと共鳴したんですね。

上田さん

上田さん

そうですね。技術があっても〈人間力〉が伴っていない人も多い世界だからこそ、先生がおっしゃっていたような人材で溢れるヘルパー業界を目指したいと思って日々働いています。

自分のアイデアを実現化するための
〈責任〉と〈起業〉

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

50代で結屋合同会社を設立された上田さん。設立までの経緯を教えてください。

上田さん

上田さん

学校卒業後、ヘルパーとして働きながら40歳で娘を産んだんです。前々から「娘が小学一年生に上がるタイミングで独立しよう」と決めていたこと、そして組織に属することが苦手な自分の性格を考えて起業に踏み切りました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

「組織に属せない」と思う理由は何だったんですか?

上田さん

上田さん

どうしても「こうしたほうがいいのに」という意見が溢れてきてしまうんです。ただ、その意見を実行に移すとなると、会社としてはリスクが大きくて。となると自分が責任を負える立場で実行していく必要があると感じたんですよね。あとは、娘が「ただいま」と帰ってこれる場所も大切にしたいと思って。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

まさに仕事と母親業の両立ですね。

上田さん

上田さん

そうですね。母親業と両立するためには、ある程度自由を利かせる必要がある。そう考えると、どうしても迷惑をかけてしまうことが出てくるじゃないですか。そこで一念発起をして自分で環境を作ることにしたんです。今では、従業員の中にママ友さんもいる会社になりました。

元気さはほどほどでいい。
ヘルパーに必要なのは〈明るさ〉と〈素直さ〉

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

ヘルパーが働きやすい居場所と環境づくりをされている上田さんが思う、“ヘルパー職に向いている人”って、どういった方ですか?

上田さん

上田さん

こういった質問に対して、割と皆さん、「素直で明るく元気な方」とおっしゃるのですが、私は明るささえあれば元気はほどほどで良いと思っていて。素直であれば、きっと利用者さんの話を傾聴できると思いますし、明るさがあれば心地いい空気を作ることができると思いますし。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かに、元気よりも明るさのほうがその場に癒しを生み出せる気がします。人の話を最後まで素直に傾聴できる力も大切ですよね。

上田さん

上田さん

そうなんです。素直さが欠けていると傾聴にならず、利用者さんやご家族のお話を「私は」にすり替えて話し始めてしまうんですよね。いつの間にか“私”の意見や話に変わってしまっているといいますか。話した後に疲れてしまう人の共通点って、意外とそれが大きい気がしていて。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

分かります。聞いている話自体にきちんと興味を持ったうえで切り込んだ質問をしたり、「私もこういったことが」という共通点を話したりすることと、自分の話にすり替えることって、似ているようで全然違うんですよね。

上田さん

上田さん

そう、話の着地点が変わってしまうんです。認知症の方って、認知力が下がると同時に感情がすごく上がってくるので、ものすごく感性が鋭くなるんです。そういった方々とコミュニケーションをとる時に私が大切にしているのは、「言わなくていいことは言わずに傾聴する」こと。明るさと素直さとほどほどの元気ささえあれば、あとはその人を活かしきるのは私の役職が成すべき仕事だと思っているので、向いている資質としては、今お話した部分が大切かな、と思います。

「自分にしかできない仕事」は
“無理”から生まれるものではない

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

人材育成に携わり、社会人経験を経て転職された上田さんが、転職したい職場に勤めている方に伝えたいことは何ですか?

上田さん

上田さん

厳しい言葉になってしまうのですが、組織の中にいて“私でないといけない仕事”というのは過信であり、もし本当にそうなのだとしたら、“”私にしかできない仕事”があってはならないと思うんです。例えば、自分が働けない状態になってしまった場合、ダメージを受けるのは会社じゃないですか。オーバーワークなどが原因で会社を辞めたいと思っている方には、是非一度そこを考えてみて欲しいと思います。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

確かに。支え合い、共有し合ってこその〈組織〉ですもんね。

上田さん

上田さん

自分が退いた後でも、会社に迷惑がかからない方法と段取りと準備を行ったうえで「×月に退職したいです」と、まずは上司に相談して欲しいと思います。辞める時ってどうしても自分のことだけしか考えられなくなってしまいがちじゃないですか。けれど、一歩引いて自分の分をわきまえて考えてみる、自分の存在が会社という〈組織〉で見た時に何を担っているのかを考えて、過信をしすぎず動いて欲しいですね。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

辛い→辞める、といった思考の間に、一度冷静になって「考える」を入れる必要がありますよね。

上田さん

上田さん

そうです。そうやって冷静になって自分の役割を自身で確立できた時、実は仕事が楽しくなってきたりする。今の会社はあなたを責めているわけでなく、守ろうとしている部分もあるのだということを忘れないで、心を広げて欲しいと思います。

今の給料が自分の仕事量に見合っているのか、
冷静に見つめ直してみて

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

上田さんは〈組織〉と〈個人〉の仕事の関係性について、どう考えられていますか?

上田さん

上田さん

シンプルな話、お給料を出している〈組織〉に属する〈個人〉として、何事も行動すべきだと考えています。私が講師をしていた時、よく正社員の方たちに「あなたが社長になったとして、今もらっている年収を自分の仕事量に対して払えますか?」と聞いていたんです。そうすると、大体「払えない」と言うんです。おかしな話じゃないですか。

編集者<br>クラミー

編集者
クラミー

確かに、自分のことを一番分かっている自分が「給料に匹敵していない仕事量」と感じているわけですもんね。

上田さん

上田さん

そうなんですよ。以前、ミステリーショッパーの講師をしていた時に、毎回Aランクを出す男性スタッフがいたのですが、彼がBランクを出したことがあって。その時、「先生、なんでBランクなんですか?僕は完璧にやっています」と言ってきたんです。「その心がBや!」と返したのですが(笑)、それに対して彼が「僕は自分のやったことに対する対価をいただいているので、今の給料を貰って当たり前だと思っています。ただ、そこに非があるのなら直したいので、悪かったところを教えてください」と言い切ったんです。それを聞いた時に「カッコいいな」と思いましたし、彼のポテンシャルの高さを感じました。

編集者<br>りょうちゃん

編集者
りょうちゃん

自分の働きに自信を持っているからこそ、足りない部分があるのなら努力したいという考え方ですよね。

上田さん

上田さん

その通りで、そういった社員であれば会社も手放したくないじゃないですか。手放したくなければ、その人が働きやすい環境になるよう会社が努力をしてくれると思うんです。先ほどの話にも繋がるのですが、まず、転職を考えているのであれば、少し違う角度で今の自分を見つめなおしてみることも大切だと思います。

【インタビューに答えてくれたのは…】
結屋合同会社 代表 上田結子さん

33歳 アミューズメント施設運営に勤務
35歳 コンサルティング会社に勤務
37歳 人材育成・接客マナー等 セミナー講師として従事
39歳 通信機器お取り扱い相談センター内でテレコミュニケーターとして従事
40歳 ヘルパー2級資格取得
40歳 その後、訪問介護開始
42歳 サービス提供責任者 就任
50歳 『結屋合同会社』独立開業